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爆ぜる  作者: 変汁
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第六章 ②⑥

今更だけど、どうしてスマホに悠人の連絡先が入っていないのだろう?と守親は思った。


ヒヨリさんが帰ってからの数十分、その事ばかりが頭の中を駆け巡っていた。


それなのに、何故か他の4人の連絡先は入っている。幼馴染である僕達は6人の友達だった。


その1人、田原隼人が焼け死んでからは、5人の友達、いや5人の仲間となる筈だった。


自分なりの考えでは僕達は仲間と呼べる程の深い関係性にまでは至らなかった。


だとしても、どうして悠人だけ、連絡先が入っていないのだろう?酔っ払って誤って削除したとか、寝ぼけたままスマホをいじり不可抗力で消してしまったと考えられない訳でもない。


ならせめて実家の番号くらい入っていても良さそうなものだ。そう思い悠人以外の友達を調べてみた。


やはり本人の携帯番号と実家も登録してあった。という事は悠人のもある筈、いや現時点で無いのだからあった筈だというのが正しいか。


守親はそのように考え、しばらく記憶を探った。が、やはり削除した事は思い出せなかった。


あの火事の速報の後、ヒヨリさんに言われ確かにそうだと思い、悠人の連絡先を探した。


けど守親は悠人の連絡先が入っていない事に気づき、それを言うとヒヨリさんは何故?と問いただして来た。


だから思わず悠人の奴が機種変したからだと言ってしまったけど、それはヒヨリさんの一言で敢えなく打ち砕かれてしまった。ほぼ瞬殺だった。


あの時は別に嘘をつくつもりは無かった。本気で、そうかも知れないと思ったからそのように言ったまでの事だ。


けど口から出た言葉はその場を取り繕うようなしょうもない嘘となった。


ヒヨリさんはそういった僕の言葉を嘘だとは思っていないかも知れない。


単なる勘違い、思い違い、記憶違いだと捉えた可能性も少なからずある。


だからヒヨリさんは即、機種変したとしたなら、前の番号はあるでしょう?とそんな風な言い方をされた。


その時は何故かドキッとした。正直、消した記憶もないし、それ以前に悠人の連絡先を登録していたのかさえ覚えていなかった。


僕の記憶はとても曖昧だった。


だからもしもあの時、ヒヨリさんにその事で深く問い詰められていたら、僕はパニックを起こしていたかも知れない。


でもそうはならなかった。僕に気を遣ったのかはわからないがヒヨリさん自身、入っていないその事実から得た情報を元に僕と悠人との関係性について、少し考えたに違いない。前に喧嘩して勢いで削除した?例えばこんな風に。


でも彼女は、今現在、僕と悠人との関係がどうであれ、一晩で4人もの友人を失った僕を番号が登録されていない事くらいの事で傷つけたくないと気遣い、それ以上、何も言わなかったのだと思う。


何も言われなかった事で僕はどう思った?覚えていなかった。どんな表情をしていた?安堵?緊張?


こんな風に、ヒヨリさんが僕の部屋を出て行った後で不安になるなんて、自分でも情け無いと思った。


でも後から不安を感じたり、オドオドするのは今に始まった事じゃない。それだけは自覚があった。


あるからこそそんな僕の事をヒヨリさんがどう思ったか気になって仕方がなかった。


僕を嘘つきな奴と思っただろうか。

所詮、平気で嘘をつく、その程度の男なんだなと思われたかも知れない。


もしそうなら、それは満更、的外れでもない。

だって確かに僕は嘘をつくからだ。


自分を守る為に。自分を大きく見せる為に。皆んなから注目されたい為に。尊敬されたい為に。信頼されたい為に。


僕はこの歳になるまで散々嘘をついて来た。ただそれらの嘘は決して大袈裟な嘘ではなかった。


そのどれもがあり得そうな嘘ばかりだった。だからアイツ等からも嘘つきと呼ばれシカトされたりするような事はなかった。


いや、本当は僕のいない所では散々馬鹿にし嘘つき呼ばわりしていたかも知れない。けどそれは友達同士ならよくある話だ。


その場にいない奴の事を話題にし、あいつはあんな所があるよな?けどこんな所は好きだよとか。


だから僕がいない所でのアイツ等の会話が僕にわかる筈がなかった。


陰で何をどう言われていようが友達は友達だった。お互いがそんな関係だった筈だ。だから仲間と呼べる程の信頼関係がそこにあったかどうかは、僕にはわからなかった。


些細な嘘は多かれ少なかれ誰もがついていた筈だ。嘘をつくのは絶対に僕だけじゃなかった。


確かに僕はアイツ等に対し些細で粗末な多くの嘘をついた。その自覚もある。


でもそれは小さな子供が親に宿題はやったの?と聞かれテレビを観たいが為にやってもいない宿題をやったよ?と思わずついてしまう嘘と何等変わりない。


つまり悠人の連絡先が僕のスマホに入っていない事について機種変したからとヒヨリさんに言ったのは、昔と同じく僕にとっては取るに足らない嘘で気にする程の嘘でもなかった。話の流れでついついてしまったどうでもいい嘘だった。


だから例え僕が陰で嘘つき野朗と呼ばれていたとしても、どっちでも構わないし、どちらで無くても全然構わない。


なのにどうしてだろう?ヒヨリさんに言った言葉がやけに気になって仕方がなかった。


咄嗟だったとはいえあのような言葉を、嘘をつくべきではなかった。いや待って。

何もあの言葉が嘘だとどうして言い切れる?単に僕がそう思っていただけに過ぎないかも知れないじゃないか。


そうだ。自分の言った言葉を簡単に嘘だと決めつけるのは危険だ。


でも人は会話の中で違和感を感じると果たしてその言葉は真実なのか?それともど嘘なのか?と見極めたくなる生き物だ。


澄ました顔で会話をする相手に対しこちらが真剣に聞く振りをしながら、頭の中ではさっきの話は絶対に嘘だろ?と考えたりする。


けど表情は真剣そのものだし、時より提案を口にしたりもする。


けど自分の中心にあるのは相手に対して「嘘を言うなよ」と言う思いだ。


でも面と向かって言わないのは、口に出す、出さないのどちらかの選択をする事で、相手と僕との関係性が決まるからだ。


どちらが良い悪いの問題ではない。嘘つき呼ばわりをすれば、関係性に深い溝が出来てしまう。仲良くしたい。一緒にいたい。そう思える相手であればあるほど、嘘と感じる些細な話には絶対口出ししない方が良いのだ。


だからとは言わないが、とにかくヒヨリさんは僕に対して深く追求はして来なかった。掘り下げて問い詰めて来なかった。

 

理由は明らかだ。1夜にして4人の友達を失った僕の精神状態を気遣ったからだろう。


それについてはヒヨリさんに感謝している。何故なら僕は、再びヒヨリさんに会いたいからだ。こいつ嘘つきだな?と思われたら、そんな奴ともう一度会いたいと思うだろうか?ましてや相手が異性なら尚更、考えてしまうと思う。


おまけに連絡先を交換した後では、相手からの連絡を無下にも出来ない。それでもやっぱりこの人嘘つきかも?という思考が頭から離れなければ、面と向かって嘘つくな、嘘は言わないでよ!と覚悟して対処するしかない。


そうした後では、電話に出なかったり、既読無視したりして、絶対にこれ以上2人の距離感を縮め無いようにする筈だ。僕は嘘つきでそういう人間だからよくわかるのだ。


今から連絡をして、話をしその中に嘘を散りばめ試してみるのも有りだろうけど、それは止めにした。仕事だと言っていたし、それに盛りのついた猿と思われたくもなかった。


そう。つまり僕という人間は両手を広げた天秤のような存在だという事だ。


片方の手には嘘があり、もう片方の手には真実がある。そのどちらかの手を取るのはその人次第だ。


嘘の方の手を取る人がいれば、やがて僕はその人からや嘘ばかりつく奴だと陰口を叩かれるようになる。


反対に真実の方の手を取る人がいれば僕はその人から陰口は叩かれず、僕と仲良くする事が出来る立場に置かれる。


でもだからと言って片方の手に載せた真実が本当な真実と言えるかといえば、そうとは限らない。


何故なら人間関係を構築出来ても人は、いや僕は時に真実の中に嘘を混ぜるからだ。


嘘の場合も同様だ。本当の事を言う時だってある。


つまり僕という人間を正しいか正しくないかを決めるのは他人であって、反対に僕が僕であるという事を決められるのは僕だけであるという事だ。


正しいか正しくないかもそれに当て嵌まる。

けれど他人ではなく僕がそうするにはたったひとつの理由がある。


それは自分自身を正当化する為に、僕は僕を肯定するという事だ。


この時ばかりは、嘘も真実も僕の中では同じ事だった。血管を巡る血液と同じで嘘も真実も、赤血球と白血球のように共存し、一体化し、心臓部にいる僕へ送り届けられる。そして僕は僕自身という人間を正当化するのだ。


だけど人は、自分以外の他人はそうはいかない。そうはならない。信頼しようとし、諦め、諦めかけて又、信じようとする。


つまり僕みたいな人間は、余程、嘘に鈍感か他人を疑う心が無い人にしか好かれる事はないのかも知れない。


そう思えばアイツ等が焼け死んだ事は好都合だった。

まだ死者の名前が発表されていないから確証は出来ないが、それでも、4人もの友達を放火によって失った可哀想な男として、ヒヨリさんに印象つける事が出来たからだ。


それは僕にとって大きなアドバンテージだった。あの居酒屋に実は悠人もいたとか、実家にいたとか、海外に出張中だとか、事故で亡くなっていたとか、悠人に関しては色々とつける嘘はある。


偶然にもその中の1つが当て嵌まっていれば、その時点で僕はヒヨリさんに対し嘘つきではなくなる。


後はスマホに連絡先が入っていない理由を考えなければならいが、そんなのは些細な事だ。ヒヨリさんだってもう忘れているかも知れない。万に一つ、4人の内の誰かが生きてでもいれば、そいつから連絡先がない理由を聞いたよとでも言えばいい。


他の奴等と違い、人生が上手く運ばない事にウンザリした僕が悪酔いして皆の前でいきなり連絡先を全て削除したとか。そんな理由だってこじつけられたのだが、それは死者の発表を待たない限り出来ない事だった。


出来るなら次にヒヨリさんに連絡する時、もしくはあった場合までにはその理由を考えておきたかった。


あのような女性と巡り会う事なんて一生に一度あるかわからないからだ。ヒヨリさんは魅力的な女性だ。1つの空間の中にあってドキドキしない方がおかしい。


キスくらい出来るんじゃないか。いやそれ以上の事も……寝る時もシャワー浴びた時もそんなエッチな場面を想像するなというのが無理な話だった。


けれど、僕はそれが出来ない事を知っていた。わかっていた。それを勇気がないとは思わない。そんな事をしてやろうと考えるのはむしろ身勝手でさえある。


女性から泊めて欲しいというは、そういう事をしても良いよという合図だと聞いた事もあるけど、それは男側の都合の良い言い訳だ。


逆に反対意見ではそんな事をする人とは思わなかった、ただ君の生活圏に興味があっただけ。それをエッチな行為を同意したと捉えるのは身勝手過ぎるしバカな思考停止した奴だと咎められるだろう。


友達に話すネタとしては面白いのかも知れない。僕のようなおとなしいタイプの男をそそのかし、勘違いするような状況を作り出したら、鼻息荒くなって超面白かったよ。なんて女同士の会話の中で吊し上げられる自分が容易に想像出来た。なんなら家、知ってるから私達3人で押しかけて酔った振りして寝てさ、アイツが誰に手を出そうとするか賭けない?みたいな話をするような、まるで美人局みたい女だっている筈だ。


つまり、そんな女も自分を正当化する為の言い訳や嘘を日常的についているわけだ。そう考えるとヒヨリさんに手を出さなかったのは全くの正解だった。


でも実際の所、僕にはそのような余裕すらなかった。

アイツ等が死んで多少なり混乱した振りをしていたせいもあるけど、それ以上に僕はわざと時間を遅らせあの居酒屋に行かなかった自分自身を最大限に讃えてやりたかったのだ。けどその余韻に浸る前にヒヨリさんに連れて行かれあげく家まで来て泊める羽目になった。

まぁその分、ヒヨリさんと知り合えて連絡先も交換出来たから、1人家に帰りアイツ等の死の余韻に浸るよりはよっぽど良い事だった。


僕の選択により、自分は生き延びアイツ等は死んだ。

その事が何より僕の気持ちを昂らせていた。でも、ヒヨリさんが側にいた事で、それを大っぴらに見せる事は出来なかった。


だからせめて1秒でも早くアイツ等の死亡を知りたかった。


火災で亡くなった者としてテレビ画面にフルネームで発表されろと望んでいた。


そればかりを気にしていた。確かに窓ガラスが割れそこから炎が飛び出して来たのを目にした時、僕の気持ちは混乱した。


その様が余りに酷かったせいだからだろう、ヒヨリさんが僕を現場から遠ざけた。


あぁそうだ。僕は混乱していた。余りにも興奮し過ぎていたからだ。


炎によってアイツ等の皮膚は爛れ、髪の毛は焦げ、咳き込み、呼吸が出来なくなり、あまりの苦しさに床を這いずり周りながら両手の指で喉を引っ掻き、その傷口から血が滲み出し、立てた爪は剥がれ床に落ちる。何かに圧迫されたかのように眼孔が開き目玉が焼き焦げる。その熱さに耐えきれず、いつも窓側の席に運ばれていた空になった生ビールのジョッキを叩き割り、把手の部分で焼かれる目玉を取り出そうと突き刺す。アイツ等は仲間だから互いに突き刺し合うだろう。荷物が入れられる四角い木箱の椅子やテーブルが倒れ、入り口や非常口へと逃げ惑う大勢の客に踏まれ蹴り飛ばされ躓き転び身体の上へとのしかかられ身動きが取れずに悶え苦しむアイツ等の姿を一瞬の内に想像し、興奮していたのだ。そんな僕の手を取り、ヒヨリさんはその場から僕を引き離した。それについては彼女なりの理由もあったようだ。確か、毎日死亡者を数えるのが趣味だと言っていなかったか。いやこの際、ヒヨリさんの趣味なんてどうだっていい。


重要なのはアイツ等が息を引き取る瞬間に、最後に見たものは何だろうかという事だ。恋人か?両親か?会社の同僚や部下?上司だろうか?いや

違う。きっと。そう。きっと、間違いなく、アイツ等が見たのは悶え苦しむアイツ等を指差しながら笑っている僕に違い無い……


……これは僕がこの世の中に産み落とされた時から備わっていた僕の資質だ。


他人に錯乱するという嘘をみせつけ、不安がるという嘘もつく。信頼をおける仲間だという嘘をつく。その為にしたくもない事をしたりもする。


そもそもアイツ等が乗り気じゃない時は僕も乗り気じゃなかった。だからいつも乗り気があるような仕草や態度、理由をでっちあげ、そのような嘘をついた。


アイツ等が嫌がる事はアイツ等以上に僕の方が嫌だった。でもそれはつかねばならない嘘だった。何故なら僕がアイツ等のリーダーだったからだ。


だから隼人が死んで放火魔を捕まえる為のパトロールをすると夜中に集まる事を提案した。

翌日、アイツ等が来なかった事を僕は怒りを露わにし非難した。


でも、僕はアイツ等が夜中に家を抜け出す事は無いとわかっていた。来ない事は最初からわかっていた。だから僕の提案を嫌な顔をしながら聞いていた。


それを隠そうともせず、あからさまに嫌だとその表情が語っていた。熱く語りながら僕はアイツ等の顔を見ながらやっぱりなと思った。


間違いない。こいつ等は絶対に来ない。そう思った。だから語る言葉にも自然と熱を帯びた。


だから当然、僕も河原には行かなかった。

何故なら本気で集まる気があるならその場で、決まるからだ。だがそれすらなかった。


アイツ等は殆ど口を開かなかった。僕に言いたいだけ言わせるだけだった。アジテートするつもりもない僕は、アジテーションして見せた。単なる嘘のパフォーマンスに過ぎなかった。


そんな僕を見たアイツ等はそれでも最後まで聞く耳は持っていたようだった。で


もそれまでは誰かしら意見を言ったりしていたのに、この時ばかりは誰1人として殆ど口を開かなかった。


つまりそれはアイツ等の、パトロールはやりたくないという意思表示でもあった。


それを僕は利用した。夜中の河原でアイツ等をずっと待っていたのだと責め立てた。


僕の怒りの責苦をアイツ等は黙って聞いていた。僕は僕が誇らしかった。僕は仲間思いの男であり、アイツ等のリーダーだった。


けど、何故だろう。その後、僕達の関係性が微妙に変化して行ったようだった。それに気づいていたのはアイツ等だけだった。そしてそれを扇動したのは、どういう訳かアイツで……


僕はベッドに向かい合う形で立膝をついた。スマホは丸テーブルに置いたままベッドに顔を押し付けた。


布団につけた口から1人1人の名前が笑い声と共に大声で吐き出された。


そう僕はあの日、アイツ等に対しとんでもない失態を犯してしまったのだ。その僕の嘘はアイツ等を変えた。


ベッドに顔を押し付けたまま手だけでTVのリモコンを探した。流れてくる音声だけに耳に澄ませた。


火事のニュースはやっていない。早く、アイツ等が死んだという情報が欲しかった。一酸化炭素中毒による窒息死で死亡したと。全身にガソリンを浴び焼け焦げて死んだという話を耳にしたかった。


そしてベッドに押し付けた顔を上げた時、壁一面には真っ黒な煤でアイツ等の顔と名前が大小様々な形で描かれていた。


僕はヒィッと裏返った声を出しながら尻餅をついた。両手や腕や裸足の足が真っ黒の煤で汚れていた。この壁画を描いたのは誰だ?僕なのか?それともアイツ等が僕を怨み復讐しに現れた証とでもいうのだろうか?


だがそれにしては自分の手足には煤がついている。おかしい。いつ?何処でこのような物が僕の手足についたのだ?ひょっとして、僕もあの居酒屋内にいたのだろうか?僕だけが助かり、逃げる時に転んだか何かして煤だらけになったのだろうか?


僕にはサッパリわからなかった。でも壁一面に描かれたアイツ等を見て、僕は我慢出来なくなった。


煤で汚れた両手で顔を覆った。直ぐに涙が溢れ出て来た。ク震える身体を止めようと堪えた。僕は顔から両手を離した。


トイレに立ち、ズボンをずらした。下着もずらしペニスに触れた。煤で汚れた自分の顔を見ると涙の跡が頬を伝っていた。


そして再び込み上げてくる感情に身体を抑える事が出来なかった。黒ずんだ涙は顎をつたい床へと落ちて行く。僕はクックックと笑みを浮かべる黒く汚れた顔を鏡に写しながら、ゆっくりとペニスを弄った。勃起したまま用を足していく。


尿はあらぬ方向へ向かって飛んで行くが、僕は構わなかった。鏡に写る煤で汚れた自分の黒く美しい顔を見つめながら、排尿が終わりを告げるまで、その笑みを見続けた。


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