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爆ぜる  作者: 変汁
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第五章 ②②

「ねぇねぇ。小野乃木」


5時間目の授業の途中、いきなり蓬原が話しかけて来た。


昨日の夕方に蓬原の教科書がやっと届いたらしく、今日からは机をくっつけて勉強をする必要も無くなり、ホッとしていた雷鳥だったが、まさか蓬原の方から話しかけて来るとは思いもしなかった。


何故なら蓬原は転校初日に、雷鳥の事を気持ち悪いと先生に告げ口をしたからだ。


それも授業の途中でおまけにそのせいで皆んなから注目を集める始末だった。


確かにあの時は、どういう理由か忘れたけど、ニヤけていたのは確かだった。


普通、そんな風に先生に告げ口したり、ハッキリと存在自身を全否定するような「気持ち悪い」という言葉を吐いたら、言われた方は勿論、傷つくしその当事者とは仲良くしたいと思わない。


ましてや会話なんて絶対に嫌だった。そう思うのが普通の感覚だと思う。


けど蓬原は自分が僕に対して酷い事を言った事すら忘れてしまったかのように、翌日から平気な顔で僕と接して来た。


必要最低限の会話、つまり、教科書を共有する事に対して、「ありがとう」とのお礼を言われたり、それについて僕は「うん」や「いいえ」と返す程度のものだ。


それが昨日まで続いていて、ようやく教科書が届いた事を蓬原から聞いた時は心底ホッとした。これで明日から机をくっつける必要が無くなったからだ。


「良かったね」


そういう僕は、柄にもなく満面を讃え蓬原を見返した。きっとその時の僕の表情は開放感に満ち溢れていたに違いない。


そんな僕を見て蓬原がどう感じたからは知らないし、わからない。


僕個人としても、転校初日の時よりか印象は変わった。気持ち悪いと言われた事は、まだ怒ってはいる。


それについて蓬原から謝罪もないからだ。でもその一件を除けば蓬原を毛嫌いする理由はなかった。


特別、好きという訳でもなく、かと言って嫌いかと問われたら、別に嫌いでもない。蓬原はただの転校生で隣の席に座ってるクラスメイトの女子としか言いようがない。


でも、それは僕の表面上の気持ちに過ぎなかった。

本音を言えば蓬原に限らず、僕は女子と話すのが苦手だ。話すとすぐ耳の先が赤くなり、他人には気づかれない程度に声も震える。


だから机をくっつけらたりなんかしたら緊張するし勉強にも身が入らない。そういう意味でも蓬原の教科書が届いたという知らせは雷鳥にとって吉報に他ならなかったわけだ。


そんな蓬原は、僕から見てもやたら落ち着きがない風に映った。


授業に集中していたかと思えば、鼻の下と唇の間に鉛筆を挟み、口を尖らせたまま顔をこちらへ向けて挟んだ鉛筆でノートに絵を描こうとしてみたり、先生が黒板に書いたものをノートに写そうとして、そんな事出来るわけないのに、


「小野乃木、やってみ?くそムズいよ」と雷鳥がやるまで永遠に言い続けてみたり、僕の筆箱を引ったくり、中身を自分のものと全部入れ替え、「明日まで代えっこね」といい、それが冗談ではなく本気で翌日までそのままにされてしまったりした。


そんな子供じみた悪戯に飽きて来ると2人の丁度真ん中に置いた教科書を自分の机へと持っていき広げたページに顔を押し付け、何回も息を吐いては吸って教科書を湿めらせたりした。


さすがに僕もこれはやり過ぎだと思い、


「もう、やめろやぁ。教科書がヨダレで臭くなるやろ」


と返すと蓬原は「それが嬉しいんじゃないの?」と、ニヤけた顔をされた時には流石に、「蓬原って頭おかしいわ」とつっけんどんな態度をとってしまった。


でも言われた蓬原は気にする風もなくあっけらかんと机に両腕と頭を投げ出し、僕の知らない歌を口ずさみ始めた。


それにはさすがに先生も気づいて、キツい口調で蓬原を注意した。


「はぁーい。ごめんなさぁーい」


と先生を小馬鹿にしたような口調で返事を返すと、片肘をついて教科書を見下ろした。


ようやく静かになったなぁと思ったのも束の間、しばらくしたら、今度は雷鳥の横顔をジッと眺め出した。


「何?」


前を向いたまま先生に聞こえない程の小さな声で返事をした。


「堀籠さんってどんな人?」


「え?どんな人って言われても……僕に聞くより女子の方が良く知ってるんやない?殆ど話した事ないし……」


「けど、今日の昼休み、3人で仲良さそうに話していたじゃん?」


蓬原はいい、手に持った鉛筆で僕の後ろの席の血脇弓弦を指した。


「あれは、仲良くっちゅうか、堀籠さんが、弓弦に聞きたい事があったみたいで……」


「こら。そこ。おしゃべりしない!」


いつしか声のトーンが上がっていたのか、先生は今度は僕に向かって注意した。


おしゃべりといったのに先生の目線は2人ではなく僕だけを捉えていた。僕が悪いんやない。蓬原が話しかけて……と言い返したかったが、僕は先生の眼力に気圧され頭を下げて謝った。


それを見た蓬原は顔を伏せ肩を振るわせながら、必死に笑い声を堪えていた。


ったく。と思い僕は授業に集中した。前だけを向き、時折、ノートに書き写す。前。下。下。前。それをひたすらに繰り返した。


けど、頭の何処では、蓬原の事が気になっていた。

皆んなの前で恥ずかしい思いをさせられた蓬原に対し少し頭に来ていたがそれ以上にどうして蓬原が、堀籠朱音の事を気にかけているのか、それが知りたかった。


最近、堀籠は急激に背が伸び始めていた。新聞の中に入っているスーパーや日曜大工雑貨店の広告モデルをやっているという話を耳にした事もあったから、蓬原もひょっとしたらその話を誰かから聞いて、自分もやってみたいなと思ったのかも知れない。


そうならそうで別な女子に聞くか弓弦本人に直接聞けば済む事なのに。なねに蓬原はどういう訳かわざわざ僕なんかに聞いて来た。


隣の席同士だからってのもあるかもしれないけど、今は授業中だ。


5時間目が終わった後に聞いたって遅くない筈だ。それに幾ら僕が堀籠さんとお昼に話していたからと言っても、僕は堀籠さんとは殆ど会話らしい会話はしなかった。


なのに蓬原はそれを、今、聞き出そうとして来た。その聞く理由が僕には良くわからなかった。


単に蓬原は、思いついたら直ぐ口に出したり行動するような人間なのかも知れなかった。


鉛筆を持つ僕の手を蓬原が小突いて来る。無視だ。無視。と思いながら、ノートに記入しようとした所を蓬原に肘を小疲れた。


きっと無視する僕に腹立ち、この時を狙っていたのだろう。


僕も思わず、「うわぁ」と声をあげてしまった。ノートには歪んだ線が書き込まれ、そこからはみ出して机まで伸びている。それを見た蓬原が素早く机に突っ伏した。だが手遅れだった。


「そこの2人!」先生が声を荒げた。


「他の人の勉強の邪魔やから、廊下に立っとき!」


先生が言うと、周りからざわざわと声が出始めた。


昔の時代には廊下に立たされる事があったらしいけど、今は、それすら虐待だと騒ぐ大人や親がいるらしい。


自分の声が皆んなな勉強の邪魔をしたのは間違いなかった。だから悪いと雷鳥もわかっていた。


けど、ちょっかい出して来たのは蓬原の方だ。先生に文句を言いたかったが、その勇気は雷鳥にはなかった。


だから、せめてと思い蓬原を睨んだ。その時、既に蓬原は席を立っていた。


「先生、ごめんなさい。私がいけないんです。小野乃木君は悪くないです。廊下に立つのは私だけで良いと思います。が、でも、私が悪いなら小野乃木君も手を上げて、先生に私が勉強の邪魔をして困っていると言えば良かったのに、それを言わなかったのは小野乃木君も、私のちょっかいを楽しんでいたのだと思います。それに、私はくすぐったりしていないのに、いきなりあんな変な声を上げたのは小野乃木君なので、小野乃木も私と同罪だと思います。なので私と小野乃木2人で廊下に立っています」


蓬原は堂々と先生に向かって言った後、雷鳥に、ほら、行くよ?と急かした。


そして蓬原は先生に頭を下げてから雷鳥より先に教室を出て行った。


仕方なく雷鳥も蓬原を追う形で、席を立った。

そんな様子の僕を弓弦が楽しそうに見上げていた。

僕は弓弦に向かって口パクで言った。


「最悪や」

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