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爆ぜる  作者: 変汁
21/107

第四章 ②⓪

4時間目の体育は体調不良を理由に授業は見学を申し出た。


その事で同じクラスの蓮が凄い形相で守親を睨みつけてきた。

体育の授業の内容はただ、ひたすら校庭のトラックを何十周か走るマラソンでこの足の状態で走れるわけがなかった。


歩くのも辛いという事は、昨日、平屋から連れ出された時点で蓮にもわかっていた筈だ。


なのにアイツは僕が見学すると他の生徒から聞くと怒った顔を見せた。


「守親が心配やから、大丈夫か聞いてくるわ。最悪、保健室に連れて行った方がええかも知れんから」


体操着に着替え授業が始まるまで校庭に集まっておしゃべりをしているクラスの輪の中を蓮は1人抜け出し、

校庭の隅に座っている守親の側へと駆け寄って来た。


周りからみたら、蓮のその行動は友達思いな男子と映った事だろう。


だが実際、守親へと向かってくる蓮の顔は怒りに満ち溢れていた。


どうして体育を休んだくらいでそこまで怒れるのか守親には理解出来なかった。


睨みつけてくる蓮の目を守親は真正面から受け止めた。今日の体育はマラソンだというのは先週からわかっていた事だった。


もしかしたら蓮はそのマラソンの最中、守親に対して何かやらかそうと企んでいたのかも知れない。だからそれが出来なくなり怒っているのだろう。


悠人ならまだしも、蓮までもか。


そもそも校内にいる場合はあからさまに僕に対して暴力は振るわない決まりだった筈だ。


守親も隼人が生きていた時と同じようにアイツ等と接していた。


それを、最大限に利用し仲直りするのが僕の望みだから、このように怒った顔を向けられても困る。


蓮は自分の前に守親しかいない事を良い事に、誰にもバレないと思っているのか守親に向かって口パクで何やら文句らしい事を言っていた。けど守親からしたら今は普通に接するしかなかった。


蓮が守親に近づくにつれ、他の生徒達の視線が少しずつ僕らへと向けられ始めた。


そんな怖い顔していると宗太郎に見つかるぞ。僕は口パクでそのように返した。


何故なら今、守親が膝を抱え座っている場所の真後ろには音楽室があり、この時間は確か宗太郎のクラスが使う筈だった。


守親はそれがわかった上で、体育の授業は寸前で見学にしたのだ。


2時間目が終わった後、トイレに行った帰りに宗太郎のクラスに立ち寄ったのだ。話をするためだ。


けどどこに行ったのかクラスに宗太郎の姿はなかった。その時、偶然、今日の宗太郎のクラスの時間割りが目に入ったのだ。


それで4時間目が音楽だと知った守親は体調不良を理由に体育を見学する事にした。そしてわざと音楽室の前に座っていたのだった。


近づく蓮から目線を外し、守親は背後を振り返った。さっきまで空気の入れ替えをしていたのか、窓が開いていた。


そしてその窓を閉めようとしていたのが、宗太郎自身だった。守親は宗太郎を見て、又、振り返り蓮を見返した。


蓮は一瞬だけ守親から目線を外した。その直ぐ後に駆けっていた足が緩やかになり、徒歩へと変わった。そして音楽室にいる宗太郎へ向けて蓮は手を振った。


守親も振り返るがそこにはもう宗太郎の姿はなかった。閉められた窓には白いレースのカーテンが引かれていた。


再び顔を元に戻すと目の前には蓮が立っていた。

腰を落とし守親に顔を近づけた。


守親の顔にハァーと息を吐きかけた。その息の臭さに守親は顔をしかめた。


蓮は余り歯を磨かないのか、たまに物凄く口が臭い時があった。喋る度に魚が腐ったような息が吐かれ、皆んな蓮の前では何も言わないが、凄く嫌な顔をする事もあった。


そんな蓮のいない所で僕やアイツ等は蓮の事を毒ガスマンと呼んでいた。名付け親は悠人だった。


「あれはもうほとんど細菌兵器やで」


と宗太郎


「細菌っていうか、毒ガスやね。吐く息が緑色しとるから」


そういったのは確か真弘だったか。


「絶対守護者の毒ガスの蓮や」


隼人だった。


「けど蓮は僕達の仲間やから、そげな武器があるならヒーローにしてやらんといけんな」


と守親が返すと悠人が


「なら蓮は、毒ガスマンやなぁ」


それから陰で蓮の事を毒ガスマンと呼ぶ時があった。大体そういう時は決まっていつもより、口が臭い時に限った。


「あの息の中には毒ガスを含んだ微細な生物が五万と潜んでるんや。その息を吸ったら最後、身体の中に侵入し、内臓が毒ガスに侵されてしまうんやで」


宗太郎が言った。


「もし、ワシがあの毒ガスに侵されたらどうなるんや?」


真弘が尋ねる。


「そりゃ、真弘、お前も毒ガスを吐き出すようになってしまうんや。そんで、今みたいに陰で

毒ガスのマサ、とか毒ガス男とか呼ばれるようになるんや」


宗太郎の言葉で皆んなが笑い出した。


「それは勘弁やなぁ。死んでもあの臭さが自分から出るのさ嫌やわぁ」


蓮に対してかなり酷い言い草だったが、だとしてもそれは仲間内の冗談に過ぎなかった。


いつかはちゃんと口の臭さの事は話さないといけないという事は皆んなの共通の意見だった。


何故なら蓮は病気かも知れないからだ。内臓とかが悪いと息が臭くなるというのを隼人が聞いた事があったからだ。


そして口が臭い事を蓮に話すのは隼人と決まっていた。蓮とは他の皆んなより家が近いという、たったそれだけの理由でだった。


けどその隼人も今は死んでしまってこの世界にはない。だから蓮の口の臭さへの忠告は、まだそのまま放置されたままだった。


その毒ガスが今、守親の顔面へ湿った息として肌へと癒着し始めていた。


守親は咄嗟に嗅ぐまいと息を止めたが、毒ガスマンの必殺技は皮膚から体内へと侵入も可能なのだ。


単なるお遊びの設定に過ぎないが、今はそれが本当の事のように思えてならなかった。


「守親、お前……」


「何や蓮?」


守親は蓮の顔を真正面に捉えていい、わざと後ろを振り返る素振りを見せた。


「……まぁええわ。具合悪かったら保険室に行った方がええで」


蓮は言いかけた言葉を飲み込み、改めてそのように言い換えたような気がした。


その直ぐ後に先生が駆けてくる足音が側で聞こえた。


恐らく蓮は先生の姿が目に入ったに違いない。


考え過ぎかも知れないが、音楽室にいる宗太郎に聞こえるかも知れないと守親に文句を言うのを押し留めたのかも知れなかった。


「冴木、具合はどや?」


駆けて来た先生が守親の肩に手を置きしゃがみ込んだ。それを見た蓮は少し後退りした。


「栗林、お前は戻っとれ」


先生にそう言われた蓮は「はい」と返事をし、皆が集まっている場所へと戻って行った。


「具合が悪かったら保健室で休んでてもええぞ?ちょっと様子見てそれでも良くならなかったら、先生、親御さんに連絡したるから」


「はい。わかりました。ありがとうございます」


守親はいい、先生に引き上げられながら立ち上がった。そして先生に頭を下げて保健室へ向かう為、そちらへと歩いて行った。


先生が集まっている生徒の方へ向かって走る。

守親はその一団の中から背中を刺すような強い視線を感じずにいられなかった。


みなくともそれが蓮だというのは直ぐにわかった。


このクラスの中で自分に向けて怒りを露わにするのは蓮くらいのものだからだ。


だから守親はそちらを見ずに校舎の中へと向かって進んだ。


蓮にはきっと守親に話をする先生の言葉が耳に入ったのだろう。


今、あいつは僕が早退すると考えている筈だ。守親自身もそうしたかった。


だが、アイツ等の事だ。僕が早退しようものなら、お見舞いと称して家まで来るに違いない。


僕は僕で早退した事でお父さんやお母さんに心配かけたくなかった。だからまだこの時は、早退するかどうか迷っている段階だった。


とりあえず今は保健室へ行き、ベッドの中で少しでも身体を休めておきたかった。


早退し、今日を逃れられたとしても、嫌でも明日は来る。


早退した事で明日は仮病で休めたとしても明後日が来る。そこまでは上手く誤魔化せるかも知れない。


けど、休むのが2日目となれば、間違いなくお母さんに付き添われ病院へ連れて行かれるに決まっている。


そうなれば嫌でも聴診器検査の為に上着を持ち上げなければならない。


そうなれば僕の腹部や胸に出来た多くの青あざの存在にお医者さんも気づくだろう。


それは直ぐに側にいるお母さんにも気づかれてしまう。それだけは嫌だった。


僕が痛めつけられるのはまだ我慢出来る。

そうなるきっかけを僕が作ったらしいからだ。


だけどお父さんやお母さんには迷惑や心配をさせたくなかった。


最近は虐めによる転校というのも良くあるらしいとニュースで見た事があった。


「守親、あんたら友達同士で学校で虐めなんてしとりゃせんよね?」


ニュースを聞いたお母さんが守親に言ったが、その時は「そんな酷い事せんよ」と返したが、

まさか今の自分が虐められる側にいるなんて信じられなかった。


きっとその事を聞いたらお母さんはショックで倒れてしまうかも知れない。お父さんは仕事も手につかないかも知れない。


そう考えるとやはり早退は良い考えだとは思えなかった。最悪、終礼まで保健室で休んでアイツ等の目を盗んで上手く逃げる方が良いかも知れない。


上手く逃げられても、今朝の悠人やさっきの蓮の態度からして、間違いなく僕を殴りたくて仕方ないだろう。


だから家まで来るのは100パー間違いない。でも家でなら今日を逃れられる事は出来る。


毎日痛めつけられたら、いつかまともに動けなくなる日が来るに決まっている。


それまで仲違いした関係を修復出来るかはわからないけど、1人1人にちゃんと話をし、謝ればきっとアイツ等も……上履きを履き替え、保健室に向かっている時、いきなり背後から抱きつかれた。


そちらを向くと、ニヤけた顔をした宗太郎がそこに立っていた。守親の身体を自分へと引き寄せ、耳元でこう囁いた。


「やっぱりや。守親、お前は絶対、保健室に行くと思ったわ。やからワシも具合悪いって先生にいうて、さっき音楽室から出て来たんや」


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