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爆ぜる  作者: 変汁
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第四章 ①⑦

最初はちょっとした悪戯だと思っていた。


仲間と一緒に帰っている時、いきなり宗太郎が僕の二の腕を掴み、つねってきたからだ。ただ戯れてるだけだ、そう思った。


「イテッ」という僕に宗太郎は顔を間近に近づけて「痛かった?」と聞いて来た。


「つねられたら痛いに決まっとるやろ」


僕が返すと宗太郎はふーんといい、


「ならこれは?」といいさっきより何倍もの力で僕の二の腕をつねった。


「宗太郎何すんや。痛いやろ!」


僕は僕の腕を掴んでいる宗太郎の手を払いのけた。


「なぁ守親、さっきのと今のどっちが痛かった?」


「そ、そりゃ今の方が全然痛かったわ」


僕はつねられたら二の腕を摩りながら言葉を返した。つねられた箇所がみるみる赤く腫れあがり、それは直ぐに紫色へと変色していった。


「そりゃそうだよな。全力でつねったんやから」


「宗太郎、いきなりなんで、そんな事するんや」


「んーごめんな。別にいきなりなわけやないんやけどなぁ。最初はちょっと痛かっただけの事がな。ある時、突然、痛すぎる事になってしまうんよ。それは何でかなぁと思っとってさ。わからんからちょい実験台になってもろうた」


宗太郎の言っている意味が僕には全く理解出来なかった。そう返すと宗太郎は


「そりゃわからんよな。守親にはわからんから、今、ワシにつねられたんよ」


「は?何?宗太郎?どういう意味や?」


僕が返すと宗太郎は歩く僕の肩を掴んだ。止まって振り返ると宗太郎の背後に仲間全員が立ち並び僕を見返していた。


そこはいつもの土手の上で僕ら仲間は何かある度、この下で話し合いをし決めて約束し一旦別れ又、ここへと戻って来た。あの放火魔を掴まえる為に集まろうと訴えた夜の時以外は。


その河原はいつもと変わらず直ぐ側にあった。その上に立つ僕の背後には河原へと下る土手があった。


その事が僕にちょっとだけ嫌な気持ちにさせた。ひょっとしたらそれは予感とも言えたのかも知れない。宗太郎を中心にして皆が僕を半円状に取り囲んだ。


「何?皆んな怖い顔してどうしたんや?」


僕が出した声はきっと震えていたに違いない。でもそれを気取られぬように、そう振る舞う為に次から次に何か喋らないと駄目だと思った。


けれどどうしてか一言も言葉が出て来なかった。何か言おうと焦れば焦るほど、言葉は出る所か僕の腹の中へ落ち、震えていた。僕を取り囲む仲間という半円がじわじわとその広がりを縮めて行く。僕は後退りした。両足の半分が道路から土手へと追いやらた時、


「ビビった?」


と宗太郎が気持ちの悪い笑みを浮かべながらそう言った。その言葉のせいかわからないけど、僕の頭の中では何故か隼人を殺した放火魔を捕まえようと言い出した時の自分の姿が浮かんでいた。


結局、熱弁したまでは良かったが、誰一人参加しなかった。その事で後日、僕は皆んなを責め立てた。後になって言い過ぎたなと思った。けれど仲間だから僕の気持ちもわかってくれると信じていた。実際、皆んな殆ど反論しなかったし、その後も今日のように一緒に帰宅したり、遊んだりしていたのだ。だから笑う宗太郎を除いた皆んなの冷たい目線を見た時、僕は強がるべきではなかったのかも知れない。


「は?宗太郎何?ビビってなんかおらんわ」


「そ?」


宗太郎の表情から気味の悪い笑みが消えたかと思うと同時に、全員の腕が僕に向かって伸びて来た。そしてそれはゆっくりと僕に近づくと、そのまま僕を土手下へと突き飛ばした。ランドセルから土手へ叩きつけられた僕は身体を守る為の受け身の体勢も取れないまま、手足を放り出した無防備な姿で幾度か後転しながら河辺へと転がり落ちて行った。


したたかに後頭部を打ち付け、膝や脛は擦りむけ無数の擦り傷が出来たが、河に落ちる事はなかった。痛みに悶えて動けない僕を土手の上から皆が見下ろしていた。その誰一人として、笑っていなかった。ただ冷めた目で僕を見下ろしていた。

このやり過ぎな悪戯に僕も笑ってはいられなかった。痛みによってそんな余裕すらなかった。


僕は唸りながら身体を起こした。ごめんと謝る皆んなの声に耳を澄ますが、いつまで経っても誰の声も聞こえて来なかった。それで少し、ほんの少しだけ、皆んなは冗談のつもりでも何でもなかったのかも知れないと思った。行き過ぎな悪戯でもなかった。皆んなは示し合わせ最初から僕を突き落とすつもりだったのだ。


そんな事をされても尚、その時はまだ、僕一人だけは、皆んなを仲間だと信じて疑っていなかった。


けどそんな僕の甘々な気持ちが過ちだと気づくまでそう時間はかからなかった。


この日を境にアイツらは僕を仲間とも友達ともクラスメイトとも顔見知りとも認める事はしなくなった。その瞬間から僕はアイツらの玩具であり遊具へと成り下がった。


そしてアイツら全員が僕に対して行う数多の行為はアイツら以外の目が決して届かない場所で行われ続けた。


アイツらはそれを虐めとは言わずアトラクションと呼び僕をいたぶり続けた。それほどまでの虐めに遭いながら、まだアイツらを仲間と信じていたのは、公共の場や校内では今まで通り仲良しグループとして接してくれていたからだった。


それがアイツらの演技だと勘付いてはいた。でもその時ばかりは昔に戻った気がして僕も気兼ねなくアイツらを仲間と呼び、触れ合った。例えその後に一人一人から殴られる事がわかっていようとも……


僕は幼稚で馬鹿な弱い小学生に過ぎなかった。

反対にアイツらは皆んな強かった。腕力とか数とかそういう意味ではない。


アイツら自身には微塵も「悪意」がなかった。

だってこれはアトラクションに過ぎない事だからだ。


遊園地にある絶叫マシンやゴーカートに乗る感覚と同じだった。人によっては怖くも感じるだろうし、めちゃくちゃテンションが上がるタイプもいるように、このアトラクションでも感じ方はそれぞれだった。


ただ1人、僕を除いては……


そのアトラクションに参加しない為に、僕は1人で帰ろうとしても出来なかった。誰かが僕を監視し続けていたからだ。必ず捕らえられた。

そして解散する事なく、1人1人の家に立ち寄っては自転車に乗り、又、別なヤツの家へ向かっていった。当然、僕もその中に含まれていた。

自転車を取りに行くフリをして家の中に駆け込もうとした事も何度かあった。でもその前に必ず、悠人が家の玄関の前で立ちはだかった。

その行為は宗太郎の指示なのか悠人自身が考えた僕を逃さない為の方法なのか、僕にはわかりかねた。


そして僕はランドセルを限界先に置いて自転車を出し、皆んなが待つ中へと合流せざるおえなかった。


その足で僕とアイツら全員は、誰の目も届かない場所へ向かう為に自転車を走らさせた。


そしてそのアトラクションは日に日にエスカレートして行き、その都度、僕の心を砕き身体を痛めつけていった。



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