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爆ぜる  作者: 変汁
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第三章 ①⑤

拳法ババアとの出会いは去年のクリスマスイブの事だった。翌日から冬休みに入る為、今日は終業式と通知表を受け取る、たったそれだけの事で学校へ行かなきゃいけなかった。


その帰り道、ふと立ち寄ったキリン公園で初めて拳法ババアと出会ったのだった。


キリン公園というの名前の通り大きなキリンのオブジェが公園の中央に設置されてある。


公園自体、そんなに大きくなく遊具などは1つもなかった。あるのは木製のベンチが1つと手洗い場と水飲み場がまとめて1つになっている給水設備、トイレはなく、小さな子供が遊べるような砂場もなかった。


ブランコや滑り台などの遊具も当たり前のようになかった。あるのは大きなキリンのオブジェのみだ。


そのキリンの頭から地面までは3メートル程はあるだろう。

こんな大きな物を置くくらいなら遊具の一つや二つ設置出来ただろうに。


何らかの理由で遊具関係の物が設置出来ないなら出来ないでせめて、キリンの形のまま、そのオブジェを滑り台にカスタムすれば良かったのではないか。


弓弦はキリンのオブジェに触れながらそう思った。

近くで見るキリンは随分とくたびれていた。

あちこち塗装も剥がれている。


見上げるとその表情は何とも言えない程、寂しげで、そして絶望感が漂っていた。


まるでライオンに襲われ傷ついた後、何とか逃れて来た先に数十匹のハイエナに囲まれてしまっている、このキリンはそんな表情をしていた。


こんなにもくたびれたキリンを置いていて誰が楽しめるというのだろう。田舎町だからまだほったらかしにされているが、もしこのキリン公園が都会にあったとしたら、あっという間に壊され気づいたらそこにマンション建設が始まっていそうだ。

青々とした木々もなく落ち葉も溜まり掃除をする人もいないようだ。


使い道のない公園。誰も見向きもしない公園。立ち寄る事のない公園。


こんな公園のベンチに座りタバコを吸ったりジュースを飲んだりする人がいたら、きっとその人は生きる事を殆ど諦めた、そんな気持ちを抱えた人達だけのような気がした。弓弦の目にはそれくらい寂れて映った。


弓弦自身、ここに足を踏み入れたのは初めてだったが、キリンを見上げているだけで残念な気持ちになった。


その気持ちはやがて寂しさや悲しさを引き出し、ここに立ち寄った事を後悔する程だった。


弓弦はランドセルを背負い直しながら、通知表の内容に思いを馳せた。


ずば抜けてこれが良いというのはなく、悪くもなかった。至って平均だという。


それが担任の先生からの自分ね評価だ。

特別ずば抜けた所はないですが、平均的に素直で真面目な子です。


少し引っ込み思案な所があり、もう少し積極性が出てくれば、協調性も伸び、もっとクラスのみんなと仲良しになれると思われます……


こんな通知表ではお父ちゃん達も喜んでくれないだろう。だからといって落ち込んでいるわけでもなかった。先生に赤の他人にワシの何がわかるというんや。


そんな事を考えながらキリンのオブジェを殴った。


「ヒヨッコのお前が殴った所でキリンはびくともせんわ」


声のした方を振り返ると、そこにはカンフー映画に出て来るような黒服を来た、長い白髪のお婆さんが立っていた。


「自分よりも強い者を倒さんといけん時はの。その強い者でも敵わない武器を持ちゃあええ。

例えばキリンや。このキリンやないで。本物のキリンや。そのキリンが敵わないもんはなんや?」


「ん〜ライオンとか?」


「違うわい。銃や。銃があればキリンなんぞ簡単に倒せるやろ?」


伸び放題の白髪を振り乱しながら、お婆さんは地面に片膝をつき銃を構える格好をした。


と言って拳銃ではなくライフルだ。至近距離だとキリンに逃げられたり、その長い脚で蹴られる恐れがあるから、多分、お婆さんはライフルを構えた格好を弓弦に見せたのだろう。


弓弦が何も言わないでいた事に気分を害したのか、フンと鼻を鳴らし、身体を起こした。


そしていきなり、阿波踊りを踊っているような動きをし始めた。


弓弦が黙って見ていると、お婆さんは又、フンと鼻を鳴らした。


「これは阿波踊りやないで。ワシが独自に開発した究極奥義や」


「カンフーみたいなもんなん?」


弓弦が尋ねた。それが気に食わなかったのかお婆さんは


「アホタレ!これは太極拳や!」


といきなり怒鳴りつけて来た。


太極拳がどんなものか弓弦は知らなかった。


けど、そのゆっくりとした動きに弓弦は、


こんなのが究極奥義の拳法?と思った。

幾ら奥義を持ってても、こんな年寄り自分でも勝てると思った。


「まぁええ。もし、お前がワシの究極奥義を会得したいちゅーなら。月水金の夕方、ここに来れば教えちゃる」


「いらない」


弓弦が即答すると、


「年寄りのいう事は聞くもんや!」


ゆっくりとした動きを止める事なく、お婆さんはそのように言った。


これが拳法ババアとの初めての出会いだった。

弓弦はたまに思い出してはキリン公園に足を向けた。


勿論、教わるつもりは無かった。ベンチに座って拳法ババアのゆっくりとした動きを眺めながら、学校の話やババアの愚痴を聞いたりする、いつしかそんな時間を2人で過ごすようになっていた。


そう言えば、最近、会ってないなと自転車を止めながら弓弦は思った。


落ち葉が入った袋を持つ雷鳥が、転ばないように気をつけながら土手を降りて行く。


生き物を捕まえ、焼き殺したら久しぶりにキリン公園に行ってみよう。


弓弦は思い、雷鳥とは違い、転ぶ事など考えもせず土手を駆け降りて行った。


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