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爆ぜる  作者: 変汁
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第十四章 ①⓪⑤

胎中が戻って来ると、舌間が鉄格子の隙間から両手を入れ、スマホを掲げていた。

冴木守親が描いた絵を写真に収めているようだ。


胎中が席を外していた間、4つの人形と2つの家に6人の人形が壁に加えられていた。


絵を見る限り名前がある人形とない人形がある。違いはそれだけではなかった。名前が無い人形はあちこちが赤く塗られていた。きっと廃屋内で殺された友達の事だろう。そして2つの家は燃えているのか?火事で焼け死んだと言いたいのだろうか?


「写真なんか写してどうするんですか?」


「警察に提供するからに決まってるだろう」


「でも、これだけなら警察も既に知っている事じゃないですか?」


「そうかも知れん。だが、それならあの2つの家は何だ?燃えているって事だろ?」


「恐らくは、そうでしょうね」


「この燃えてる家で死んだ3人は冴木守親の友達かも知れんぞ?小さな人形にだけ名前が記入されているじゃないか?」


既にに赤色のクレヨンで塗りつぶされている為、胎中にはその名前を読む事は叶わなかった。


となれば、やはり、最初に描かれた3つの人形の絵にある名前は生き残っている冴木守親の友達という事なのだろうか。もし合っているならこの3人は証人という事になるわけだが……



胎中が考えていると、いきなり冴木守親が起き上がった。


残った壁に、多くのビル群を描き、その中の1つは階数分けにされ、それぞれのフロア内に数え切れない程の人形を描いた。そして3階、4階、5階、6階、7階とフロア別に区分けた。


非常階段には✖︎印だ。通常の階段も3階と4階の間に✖︎印。6階と7階の間も✖︎印が赤のクレヨンで、描かれた。そして4階から6階を赤色で塗りつぶした。クレヨンが無くなったのか、冴木守親は朱色を使いつけたした。


描き終わると冴木守親は鉄格子まで這い戻りたれるように座ると突如として笑い始めた。それはこの病棟に入れられて初めて聞く冴木守親の異様なまでの甲高い笑い声だった……


その笑いの中、守親の心は自ら作り上げた妄想の世界の中にあった……


そこには大人の自分がいた。友達もいた。皆、生きていた。だが守親はその友達を嫌っていた。


自分が受験に失敗した事を陰で馬鹿にしていたからだ。全員死ねといつも願っていた。


なのに願いは叶わずアイツらは死ぬ事なく良い会社に就職もし、フリーターの自分を馬鹿にしている……


小学生の頃、地元を騒がせた放火魔が今、アイツ達がいる居酒屋に火を放ってくれれば……



……「とにかく僕達で放火魔を捕まえよう」


「12時だからね!」


土手から下を見下ろしながら守親はそう言った。自転車に跨り颯爽と去って行った……


……大人になった今だからわかる。あの時点で僕にとってのアイツらは信頼に足りるような友達ではなかったという事だ……


冴木守親が頭を振り出した。拘束された両手で髪の毛を毟った。奇声を上げ唸り声を上げた。


……それも悲しいが、それ以上に悲しいのは、そんな皆んなと今でも友達という括りで付き合いがある事だった……


「仲間なんだから何があろうと集まらないと駄目だろ?」笑いながらいう宗太郎の言葉に、あの日、深夜1人で土手で待っていた自分の姿が重なる。何が仲間だ、そんな言葉を簡単に口にするな……



……「今日は俺が守親の分、出してやるから」


持ち回りみたいに、いつもそうやって僕の分を誰かが支払ってくれた。


割り勘だから出すと言っても、「フリーターから金取れるかよ」の一言で全てが終わってしまう……


「4階で火事だよ!」


そう言ったっきり、駆け出して行った。


僕はわけも分からず、立ち尽くしていると、


「火事だぞ、火事!逃げろって!」


見知らぬ若い男に怒鳴れ、僕は数歩後ずさった。少し離れた場所から4階を見上げる。


ガラス窓がオレンジ色の炎に包まれていた。パリッという音がした瞬間、道路側にある窓ガラスが一斉に割れ破片が周囲に飛び散った。


それを避けようと僕は駆け足でビルから離れた。炎が怪獣のように顔を覗かせた。


その炎を見た瞬間、宗太郎達が5階にいる、と思った。


「4階から上の非常階段も燃えてんだよ!」


必死に逃げて来たのか両膝に手を置き、身体を屈めている人の声が耳に入った。


「すげえガソリン臭かったから、多分、イカれた奴がガソリン撒いて火をつけたっぽい」


「5階に友達が……」


思わず口に出た言葉に、逃げて来た人なのか、


「無理だって!」


と僕の腕を掴み怒鳴った。


「4階から上見てみろよ!」


僕は言われるがまま視線を上げた。見慣れた店舗名のカッティングシールが貼られている窓ガラス。


悠人はいつも窓ガラスの席が良いと言っていた。その窓ガラスにオレンジ色の炎が映っていた……僕はその事を思い出して……


冴木守親が再び甲高い声を上げて笑った。


舌間と胎中は互いに顔を見合わせ、首を傾げた。


「イカれ小僧を理解出来ると思わないほうがいいぞ?そう思った瞬間から、こっちがイカれ始めるからな」

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