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爆ぜる  作者: 変汁
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第十四章 ①⓪③

[葉の雫]の元代表であった田浦寿子の遺体が四国から空輸で東京へ移送されたのは、事件後、10日を過ぎた頃だった。


警察は司法解剖をする為に田浦寿子の唯一の肉親である田浦美津子の所在地を調べ許可を得た後、田浦寿子の解剖に取り掛かった。


死因は安馬の供述通り複数の紐状による頸部圧迫の窒息死と診断された。所謂、絞殺である。


田浦寿子が安馬から暴行された形跡はなく、人差し指から安馬の皮膚が採取された以外、これといった異変は見られなかった。


解剖自体を手早く終わらせたのは母親である田浦美津子の要望によるものでもあった。


一刻も早く葬儀をし遺体を火葬しなければ、全国の会員達が田浦寿子の遺体と対面を要求してくる恐れがあるとの美津子の判断から、警察もそれに同意する形となった。


事件自体、解決をみた為、反対する理由は何処にもなかったのだ。


空輸の移送を求めたのも田浦美津子だった。それによって生じる経費などは当然、後に美津子が支払う事になっていた。


だが、事はスムーズに運ばなかった。いや移送自体には全く問題はなかった。


ただ、会員達の行動が警察やら田浦美津子の想像より素早かったという訳だ。


施設にいた会員達は既に遺体と対面を終えており、ギリギリ移送に問題が生じる事はなかった。


田浦寿子殺害の報道を受けてから、四国、九州、本州にいたるまで会員達は個人の考えに沿って行動を始めていたようだ。


組織の幹部やその上の者が亡くなった場合、組織として足並みを揃える為に、各部署などに速やかに連絡がされ、そこから更に下の者へ通達されるのが通例ではあるが、事が事だけに組織としての[葉の雫]の本部の人間も動揺し、その分対応が遅れ全国の会員達の動きを制限させる事が出来なかった。


その為、東京中野にある田浦寿子のマンションの前には全国から集まった[葉の雫]の会員、約100名と、メディアの人間、約80名、そして葬儀社や警備会社の人間を含めると約200名強の人間達でごった返していた。


付近の住民や商店街の人々は警察に苦情を申し立てた。そのような連絡を受けたとなれば警察としても動かない訳にもいかず、現場整理の為、出動した。


ヒヨリは大勢の会員達の中に紛れ、田浦美津子が現れるのを待った。


1度マンションのエントランスまで確認しに行こうとしたが、そこには美津子が雇ったと思われる人相の悪い屈強な民間警備員が複数立っており、マンション内に入る者全員に目を光らせていた。


少しでも怪しい動きをする者があれば、即座に部屋番号、名前を問いただした。


勿論、住民や用事でマンションを訪れた人などは、個人情報の為、話す必要性はないと殆どの人間が突っぱねた。


民間警備員は直ぐさま住民の言葉に一歩引き下がって見せたが、オートロックの解除時に中へ入る人物の後について行った。


来られた住民やその他の人の側から離れなかった。

そこまでされたらさすがに恐怖をおぼえずにいられず、名前と部屋番号を伝える者も出たりした。


それを見たヒヨリはそさくさとその場から去り、再び会員達の中に紛れ込もうとした。


会員達の後ろで半円形状に待機している各メディアの脚立やカメラの隙を縫って、元いた場所へ引き返そうとした。


その間、幾度となくメディアから声をかけられた。それも無視したヒヨリだったが、前方から突然大声で叫ぶ声が上がった。


「あれ、田浦寿子の母親だろ?」


背後からそのような声が上がった。


「代表と最後のお別れをさせろ!」

「人としての心があるのか!」


そのような声が上がるのも無理もなかった。


宗教法人としての規模はさして大きい方ではないが、仮にも全国に会員は散らばっている。


その者からしてみれば、せめて葬儀を取り行って欲しい。


お別れの機会を作って欲しいとの意見が上がるのは当然の話だった。


田浦美津子はそれをわかった上で近親葬を決めたのだ。会員からしたらただの嫌がらせとしか思えないだろう。


逆に親である田浦美津子からすれば、他人が口を出すな!と言った所に違いない。


文句をつける声が更に増えていくと、田浦美津子後ろに回していた手を挙げた。その手には拡声器が握られている。


「お集まりの皆様。こんにちは。私は田浦寿子の母、田浦美津子と申します。本日は誠に遺憾ながら田浦寿子の遺体がこちらへ届けられる日でございます。本人も志道半ばでこのような目に遭い、さぞ悔しいと思います。ですが、田浦寿子の意思を継ぐ者の皆様がこのように悼み集って下さった事に寿子もさぞ喜んでいるとおもいます。ですが、家族葬は寿子自身、生前から望んでいた所でございます。そこの所、何卒ご理解頂きたくこの場を借りてご挨拶させて頂きました。どうかお速やかにお引き取りをお願いいたします」


「嘘つきが!代表はあんたの事を嫌っていたんだ。会員なら皆んな知ってる事だ!」


怒声が上がった。ヒヨリはその言葉を聞き、美津子お婆ちゃんも代表を嫌っていたわよと心で思った。


「親子というのは時に多くのすれ違いが起こる事があります。それは信仰者としての寿子も同じでした。勘違いからの喧嘩などは皆さんの親子関係と同じく、私達にも起きておりました。その点だけを吊し上げ、非難なさるなど滑稽だと言わざる終えません。娘が亡くなってから、随分と貴方達会員の方から誹謗中傷を受けました。本来、犯人に向けられるべき汚い言葉が実の親である私へと向けられたのです。先程も申しましたが、家族葬は寿子が望んでおった事であります。代表である寿子の希望を貴方達会員の皆様は無下にし踏み付けるおつもりでしょうか?このような事は申し上げるつもりはありませんでしたが、収まりがつかない今、皆さまにお伝えしなくてはなりません」


田浦美津子はここで一呼吸を入れた。その間も複数の会員から田浦美津子を誹謗するような言葉が投げかけられた。何を言うつもり?とヒヨリは思った。


「昨夜、寿子が夢枕へ現れました。そして私へ向かって言いました。お母様。どうか私の願いを聞き入れて欲しいのですと。私は問いました。寿子?お前の願いとは何ですか?すると寿子は言いました。[葉の雫]は元はお母様のもの。私は娘の立場を利用しそれを私の物としてしまいました。それ以上の心残りがありましょうか。ですから現存する[葉の雫]の次期代表として会員の皆様を引っ張って欲しいのです。私は悩みました。ですが命を賭した娘の願いです。断われる筈もありません。ですから私は娘の願いを聞き入れる事にしました。私の返事を聞いた娘は大層幸せそうに微笑んでおりました。ここにお集まりの皆へ告げます。良いですか?本日から、この時を持ち、私が、田浦美津子が[葉の雫]の教祖であり、代表であります。突然な事でご不満な方々もいらっしゃるでしょう。ですがこれは私が望んでいた事ではありません。娘が、田浦寿子代表が、葬儀と同じく、心から望んでいた事なのです。不満に耳を貸す準備は出来ております。が、それはたった1人の娘の葬儀を終えた後、順々に伺わせて頂きましたます。その為の会議場も既に押さえております。なに分[葉の雫]の本部は手狭ですから、それでは意見や苦情を申し立てされる会員の方が入り切りませんでしょう?」


この時ばかりは全ての会員から暴言が吐かれた。暴れ出しかけた会員を止めたのは現れた霊柩車の存在だった。


車から柩が出された瞬間、会員達はそちらへ向かって走り出した。メディアの人達を押し倒し、脚立を蹴り、カメラを押しやった。


今となっては棺に群がる暴徒と化した会員達は葬儀屋達から柩を奪い、蓋を開けた。


ご遺体になった田浦寿子を引きずり出し、数名が担ぎ上げた。


寿子の名を叫び、涙する者も少なくなかった。そんな姿をカメラに納めようとメディアも群がって行く。


田浦寿子を抱えていた会員の手から遺体が滑り落ちた。


田浦美津子はその光景をニヤニヤしながら眺めていた。ヒヨリはこの老婆が本当にやりたかった事はこれなのだと思った。


そんなヒヨリと田浦美津子の目が合った。老婆は歯を見せて笑った。


自分の手で、娘を殺せなかった老婆の虚しい復讐はこの時に完結を迎えようとしていた。


遺体損壊。それこそが、田浦美津子の希望であり夢だったのだ。


それも娘である寿子が愛していた会員達の手でバラバラにされる事こそ、それを近くで眺める事を何よりも望んでいたのだ。


田浦美津子の会員の煽りは絶妙に効果があった。田浦寿子の身に纏われた白装束ははだけ、露わにされた裸体は、腕や足が引きずり回され、折られ、そこから肉片がずるずると千切られた。


カメラはその醜悪な映像を生中継で放映し続けていた。髪が引き抜かれ、田浦寿子の眼球が穿り返された。


皆がそちらに夢中になっている間、とある女性が田浦美津子へと接近していた。


いきなり目の前に現れると田浦美津子の首を真横へ掻っ切った。


噴き出す血飛沫に田浦美津子を護る為に雇われた民間警備員は余りの衝撃的な出来事に動けずにいた。


その女がマリオネットねように両膝をつき項垂れた田浦美津子の髪の毛を鷲掴んだまま拡声器を握った。


「皆。聞くがいい!偽の代表はこの手で屠った。

安心するがいい。[葉の雫]は邪悪な悪魔の化身であるこの老婆の手から私が奪い返した!これこそが田浦寿子代表が心から望んでいた事と、皆は知っておるであろう!母を憎み、殺意に悩まれておられた代表を知っているのは私だけではない筈で……」


そこまで喋った所で警察の手によりその女はマンションのエントランス前の地面へと倒され抑えられた。ヒヨリはそれを見届けた後、ごった返す会員やメディアの間をすり抜けて行く。

コージーコーナーのケーキが食べたいと思ったヒヨリは中野駅の方へ向かって歩き出して行った。


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