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爆ぜる  作者: 変汁
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第十四章 ①⓪②

冴木守親が、廃屋で発見されたのは1月も終わりかけた頃だった。


発見当時、冴木守親は随分と痩せ細っていたそうだ。


食べるものも飲む物も取れず良く1ヶ月も生きていたものだと廃屋に突入し冴木守親を救った刑事は思ったそうだ。


生きていたとはいえ、緊急を要する程、肉体は衰弱していた。髪の毛も三分の一白くなっていた。


そのような状態にも関わらず、冴木守親は、突入して来た刑事に向かって、目だけで笑い、


「僕の脳みそに穴が空いたよ?ほら?みて?脳みそ脳みそが……」と喚いたという。


冴木守親の精神が錯乱したその要因になったのは恐らく頭上にあった空のボトルにあると思われた。


ボトルの蓋に小さな穴が開けられていた事をみると犯人はある種の拷問を幼い冴木守親に強いたようだ。


冴木が叫んだようにボトルには水が入れられ水滴が冴木守親の額に落ちるような仕組みになっていた。


つまり、いつかは額に穴が空くと犯人はある種の洗脳を冴木守親に仕掛けた。


首下に巻かれた数本の包丁も、冴木守親の精神をより額に落ちる水へと向かわせる道具となったに違いない。


「自分なら数日も経たない内に頭を下げて自殺しますよ」


そういったのは年若い刑事だった。だが冴木守親はその道を選ばなかった。


いや必ずしも頭を下げなかったわけではなかった。首にはいくつも刺された傷があり、衣服にも首から垂れた血糊がついていた。


想像するしかないが睡魔に襲われる度に頭が下がりその都度、痛みで目覚めたのだろう。


ウンザリを超えた事をこの小さな子供は1ヶ月近くも繰り返していた事になる。


まとも精神では生きるのは到底不可能に思えた。

なのに冴木守親は逃げなかった。


監禁され痩せ始めたのがいつ頃かは定かではないが、手足を縛っていた拘束バンドは発見当時、すでにゆるゆるな状態だった。


意識がしっかりしていたならば、手足ともその拘束具から抜ける事は可能だったのだ。


だが冴木守親はそうしなかった。いや出来なかったのだ。その時が来る前に精神に異常を来したのだ。


無理もなかった自分の直ぐには友人でもある仲間の惨殺死体が転がっているのだ。


蝿が集り卵を産みゴキブリや、その方の虫という虫がわんさか集まり、屍肉を喰らい、そこに卵が孵化しウジが沸き、友達を喰らいつくすのを、肌で感じ取ったに違いない。


救急車で運ばれた後の精密検査でわかった事だが、冴木守親の体内にはウジやゴキブリの卵が複数あったらしい。


中には生まれて胃壁を食っているウジもいたようだ。冴木守親が生き延びる為にした事はそれだけではなかった。


口腔内の肉を噛み切っていたようなのだ。歯も数歩欠け抜け落ちている物もあったようだ。


それほどまでして生き延びようとした冴木守親には感服するしかないが、何がそこまで冴木守親を突き動かしたのか大人の刑事が集まってもわからなかった。


当の本人が支離滅裂な言葉しか語れない以上、真相が明らかになるのは難しいと警察は考えているようだった。


生き残った冴木守親以外の葬儀は身内だけで行われる事になったそうだ。


先生からの話を聞いた後、弓弦は直ぐに堀籠の方を見た。


堀籠は机の上に両肘を付きその間にかは頭を入れていた。伏せた顔が肘の隙間から覗いていた。


弓弦と目が合うと堀籠は頭を振った。

詮索しちゃダメ。そう言いたいらしかった。


確かにそうかも知れない。1月3日の午後、2人は堀籠の希望で待ち合わせ後、しばらくしてから初詣に出かけたのだ。


そこで、冴木守親を見かけた。弓弦はクリスマスイヴの事もあり、話しかけるのを躊躇した。


あの雨だから約束を守れなかったのは致し方ない。とは言え、やはり気まずかった。


だから側にも近寄らず寧ろ冴木守親から距離を取るように堀籠を誘導した。


それを不自然と感じたのだろう。いきなり問いただして来た。


仕方なく弓弦は冴木守親とした約束の話を堀籠に話した。


「雨に感謝やね。実は血脇君を殺す為に冴木が仕組んだ罠やったかも知れないし。下手したら血脇君が殺されとったかも知れんね」


「流石にそれはないやろ。ワシは冴木が虐められとるん見たしな」


「そんなの、冴木じゃないからわかんないじゃん?見られた事で、血脇君が先生にチクるかも知れないと思って誘い出したかもじゃない?」


「ワシは誰にも言わんて約束したんやぞ?」


「私に言ってるじゃん?」


「あ、それは、あれや。過ぎた事やからや」


「私に話すくらいだから、どうせヒヨリちゃんや雷鳥君にも話したんでしょ?」


図星過ぎて何も返せなかった。

その時に冴木と一緒にいた背の高い若いサングラスをかけた大人の男の事を弓弦は思い出したのだ。


あの時は冴木の親戚なんやろと気にもしなかったけど、アイツ達が行方不明者として捜索願いが出されたのが3日の夜とい事らしいから、そうなれば一緒にいた男が怪しいと思うのは自然の成り行きだった。それを堀籠はダメだという。


それはそうだ。4人もの子供が惨殺され、生き残った1人は頭がイカれた。


もしあの男が犯人であるなら、到底自分らに出来る事はない。下手な警察に話すのも良くない気がした。


ドラマやないが、警察官が、犯人だという事だってあり得るからだ。弓弦は視線を送り続ける堀籠に頷いて見せた。


初詣の後、2人は警察署へ行き、山で見つけた顎の骨を刑事の人に手渡した。説明をした後で2人はパトカーに乗せて貰い、山へと向かった。


車内では何だか落ち着かず乗り心地も良く感じなかった。気のせいだとはわかっていたが、弓弦は2度とパトカーなんかには乗りたくないと思った。


顎の骨が見つかった側から白骨死体が発見された。約50年以上前の人骨らしく人物を特定するのは難しいと三田という刑事さんが特別だよと教えてくれた。


弓弦にはそれが嬉しかったが堀籠はとても残念そうだった。せっかく人骨が見つかったのに、その人物の素性がわからない事に苛ついていた。


この顎の骨の持ち主は殺害されあの山に埋めらた事まではわかったのだけど、そこまでだった。


弓弦からすれば三田刑事の話には満足だったが、堀籠は消化不良で頬を膨らませ不満を表明していた。


が、三田刑事はどこ吹く風でそれ以上、口を滑らす事はなかった。


それから間もなくして、冴木守親達が行方不明になったという話を学校からの連絡網伝いで知ることになった。


冬休みが終わる2日前の事だった。いけないとわかっていたがその話を聞いた弓弦は、少しだけホッとした。


その事は今でも忘れる事はなかった。腐った中身を自分という卵の殻の中に1つ入れたみたいな気がして

自分の事が嫌いになりそうだった。



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