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爆ぜる  作者: 変汁
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第十四章 ①⓪①

堀籠から連絡が来たのは夕方を少し回った頃だった。


「びっくりしたぁ」


母親から受話器を受け取り出ると開口一番、堀籠はそのように言った。


「留守電、誰やと思ったら血脇君やってアワアワしたよ」


何がアワアワや。弓弦は思ったが、体育館倉庫での一件の事を思い出しその言葉は胸にしまっておく事にした。


自分に近づくだけで鳥肌が立ち、それは今は赤いブツブツへ変化?いや成長していっている。堀籠に触れたらブツブツは赤アザとなった現象は、確かに弓弦を困惑させた。


だからこそ豪雨が降り続く中、部屋に籠り連絡が来るのを今か今かと待っていたのだ。幸いな事に雨足はかなりおさまって来ていて避難警報も勧告も解除されたようだった。


「私の番号、良くわかったね」


「ヒヨリに聞いたんや」


「あ、そうなんや」


堀籠はいい、それに対して返事を返した弓弦に何も言わなかった。


しばらく黙った後で「だからかぁ」


と言った。


「だから?」


「血脇君から朱音のスマホの番号教えてほしいって言われたけど、いいかな?ってLINE来てた」


「来てた?って堀籠、ヒヨリに返信しとらんのか?」


「今気づいた」


堀籠はいい、ギャハハと笑った。


LINEに気づいていなかった事にそこまで笑えるか?

普通、教えていいよという返信をヒヨリにしていないのに、ヒヨリは勝手に弓弦に教えた。


きっとヒヨリはまだ弓弦が堀籠朱音の事が好きだと思っているからに堀籠の許可も得ずに先走ったのだろう。自分にはあぁは言ったけど、照れ隠しなんじゃない?なんてヒヨリは思っていそうだ。


そもそも本来ならその事を愚痴っても良さそうなものなのに、堀籠はそれには触れず、自分が忘れていた事にウケている。弓弦はやっぱり堀籠は普通という言葉がらかなり遠い所にいるようだ。


「で、血脇君、電話かけてきたって事は何か理由があるからやろ?」


堀籠は用事とは言わなかった。理由だと。

普通なら何の用?となる。だが堀籠は違った。


あの倉庫の件以来、近々にも弓弦から何らかのアクションがあるかも?と感じていたのかも知れない。


この堀籠からのアシストを逃すわけにはいかなかった。弓弦は事のあらましをゆっくりと話して言った。


堀籠は弓弦が話している間、横槍や相槌など一切つかなかった。電話の側からいなくなったと勘違いするくらいに、堀籠は静かに弓弦の話を聞いていた。


「カウントダウンは既に終わりへと近づいている。業火に身を投じねばならなかった我が怨嗟をこの場で晴らしてみせようぞって、ワシに向かって女王蜂が言うたんや。これはもう、幽霊ってか悪霊の部類に入るんよな?」


「血脇君、最近、昆虫が暴れまわるような、バグス・パニック的なアニメとか映画の観たんやない?」


「茶化すなや。堀籠もワシに腕掴まれて起きた事、忘れとらんやろ?」


「ごめん、悪気はなかったんよ。ただ……」


「ただ、何?」


「最近はずっと耳鳴りしとらんのやろ?」


「うん。全然ない」


「治ったとは思っとらんやろ?」


「そうやな。正直な所、思っとらん」


「終わりへと近づいてるって言葉が1番引っかかる。女王蜂はこの場で怨嗟を晴そうとしたのに失敗したんよね?なら今度は失敗せん為に、その時を待ってるんやない?終わりに近づいとるという事はさ。血脇君が酷い目に遭うっていう預言みたいなもんやないかなぁ。それが近づいとるから最近は大人しくしてる。私にはその可能性があるような気がするわ。ちなみに血脇君、これから先、酷い目に遭う予定でもあったん?」


「あるかいっ!そんな予定誰がわかるんや。先の未来の良い事だって誰もわからんのに、酷い目に遭う予定やぞ?そんなもん、好き好んで予定になんかしないわ」


言ってから弓弦は、酷い目✖︎クリスマスイブのイベント=重信悠人殺害という掛け算が頭に浮かんだ。勿論、それだけは堀籠に話すわけにいかない。だから弓弦は、わからんけど無いわと言い返した。


もし今日雨が降らなかったら、ワシは例の廃屋へ行っていた。


つまり堀籠のいう酷い目というのは恐らく殺人の事だろう。つまり、冴木が重信を呼び出した事を知ったアイツ達仲間が待ち伏せしていたら、確かに自分も酷い目に遭わされたかも知れない。


もし、これが正解なら、2度と耳鳴りは起きないのだろうか。あの異形な女王蜂のカウントダウンも完全に、無くなってしまうのだろうか。そうであって欲しいと弓弦は思った。


「私、思うんやけどさぁ」


「うん」


「血脇君の身に起きとる事って、心霊現象やないと思う。怨霊とか人の呪い類いでもないと思うわ。だってさ。心霊スポットに行って幽霊みたとかいうても、虫の化け物見たってのは聞いた事無いやろ?霊って元は人間だった人達だけの物やと思う。これは私個人的な考えやから、間違ってるのかも知れんけど、でも虫の幽霊なんて聞いた事ない。分類するなら悪魔とかの方が近いんやないかなぁ。悪魔って何でもありな所あるやない?まぁ悪魔にも序列があるから、牛やったり天使のように美しかったりするんやけど、そっち系の話なら蜂の怪物が出て来ても違和感なくない?話としては全然ありじゃない?ホラー映画とかでもあるけど、悪魔がゴキブリやらウジを大量に出して困らせたりするから、分類するなら心霊現象じゃなくて悪魔の方やろね」


「なんか凄い話になっとるやないか。悪魔って。簡単にいうなや。それにワシは悪魔となんか契約はしとらんで?」


「私も血脇君が、悪魔と契約はしとらんと思うよ。けど聞いた話から考えると悪魔のような事をしたよね?」


「は?」


「スズメバチの巣を燃やしたやろ?」


「そりゃ、危ないからな」


「そうよね。危ないわ。けど何で、自分でやらんといけんかったん?」


「ワシが最初に見つけたからや。家族が刺されたらえらい事になるやろ。家には爺ちゃん婆ちゃんがおるからショック死するかも知れんやないか。だからワシが処分したんや」


「家族に話して、専門の業者の人に頼む事は考えんかったん?」


「……考えんかった。直ぐ殺さんとって思った」


「ひょっとしたら、あれかもね」


「あれって何?」


「怒らんで聞いてな」


「うん」


「血脇君が見たっていう異形の女王蜂、実は普通の女王蜂やったんやない?」


「違うわ。ワシはこの目でハッキリ見たんや。あの怪物のような女王蜂の姿を」


「血脇君自身が、そういう風に女王蜂を見た 見たかったんかも知れんよ」


この言葉によって弓弦の身体は一気に熱を帯びた。ふざけんな!って怒鳴り受話器を叩きつけてやりたかった。けど、怒らんと約束した。だから弓弦はグッと堪えた。


「お爺ちゃんやお婆ちゃん、そんで家族を襲うかも知れないスズメバチの存在はそれだけで怖いよ。けど、血脇君はそれを利用したんやと思う。スズメバチを殺す、焼き殺してみたいって欲求を誤魔化す、ううん、正当化する為にごく普通の姿のスズメバチも異形な姿に映ったんやと思う。だから殺さないと!ってなった。自分のしている行為を正しい事だと血脇君自身が認識する為にね。それってさ。まさに悪魔のような行為やない?」


確かにそうだ。悪魔のような行為には違いなかった。だが弓弦は認めたくなかった。


「なら、何で耳鳴りは起こるんや?」


「それも同じよ。単に血脇君が虫や生き物を殺して楽しみたいだけ。けど、それだけだと血脇君の心が壊れるから、言い訳が欲しかったんよ。だって私らまだ小学生やで?もしこれが大人の血脇君なら、耳鳴りなんてしないと思う。気ままに生き物を殺す筈や。けど私らはまだ子供やから、やってしまう事に対して言い訳が必要なんやと思う。悪い事、いけない事とわかってるから、それを正当化する為に耳鳴りが聞こえたように感じて、元々殺したかったものに対して、耳鳴りが治まるのがこれしかないからや。生き物を殺したくて殺してるわけやない、そう自分に言い訳する為に鳴ってもいない耳鳴りのせいにしとるんやと思う」


「それなら、なして堀籠の腕があんな風になったんや」


弓弦は震える声を極力堪えながらそう言った。


「多分、植物に触ってかぶれたんやと思う」


「いや、それはおかしいやろ。赤いブツブツがワシが腕掴んだらいきなり赤アザになったんやで?」


「あのな。私、鳥肌やブツブツは思い当たる事があるんよ」


「え?」


「鳥肌はな、これ言いたくないんやけど……」


「何や今更それはないやろ」


「私、血脇くんの名前をな。ずっと妄想しとったんよ。血脇弓弦。弓で射られた男の脇から血が吹き出す、その音はまるで一本の弦で奏でられた不協和音の音楽のよう。それを聞いた人々の身体から次々と血が吹き出す、そんな姿が血脇君と重なっとったんよ。鳥肌が出たんは多分、その姿を私が見とったからやと思う。それに気づいたんはバスケットボールを、片づけとった時、血脇君をじっくり見たことあったやろ?私が手に負えないって言ったんは、私自身の妄想の事やったんよ。そん時は上手く言えんかったから、血脇君には話さなかった。赤いブツブツは、まぁ、あれ。

私が心霊スポットや山ん中、色々探索したせい。

それで植物に触れてかぶれたんやと思う」


「……その2つはまぁ、あれや。いいわ」


「答えがわかったら、なんて事ないやろ?実は心霊現象って言うてもそう頻繁に起こるもんやないんよ。言い方悪いしぶり返しになってしまうけど、心霊現象も血脇君の見た異形の女王蜂と同じで、その人が持つ心の中にある強い欲求が、見てもないのに見たように錯覚させたりするの。

大体がそう。けど、赤アザは?て言いたいのは良くわかるよ」


堀籠はそこで言葉を切った。


しばらく沈黙した後でふぅと息を吐く音が聞こえた。


「あれば血脇君が私の腕を強く握ったせい。それで血の巡りが悪くなったのを血脇君が赤いアザだって見間違えただけ」


「何もかも、ワシのせいなんか?」


「せい、じゃないよ。私ら子供にはそんな所がある。心が完成しとらんの。いうてみれば私らはまだ卵の殻なんよ。その卵の中身をヒヨコにするか、生卵にするか、それとも腐らせるかは私ら自身の問題。厳しい言い方をするけど、血脇君は自身で、中身を腐らせようとしとるんよ。私だって今よりまだ小さい頃は、死にかけた蝉が、可哀想だからっす踏み潰したりした事だってある。蟻とかもミミズとかも木の枝で、叩いて殺したりした。それはどんな子もやってしまうんよ。けど少しずつ大きくなるにつれ、そういう事をするのはいけないんだって気づいて止めるもんなんよ。私の場合、父親が側にいると、そんな行為がより増えとった。蝉とかは父親の身代わりに私が殺しとったんよ。そうする事でしか嫌な現実と自分の心との均衡を保つ事が出来なかったんやと思う。

私がそうだったから血脇君もそうとは言えんけど、でも、何かしらが、嫌な事、血脇君が心から嫌っている事を上手く処理出来ないから、その身代わりとしてスズメバチを殺したんかも知れん。

耳鳴りが聞こえたと思い込み生き物を殺すのも、それを言い訳にしてるのも、多分、血脇君が何かを殺したい程毛嫌いしているからじゃないかな」


「堀籠、悪い。ワシ頭悪いけん。ようわからん所もあるけど、原因はワシ自身にあるってのは何となくわかったわ」


「そう?なら良かった」


「でも、ワシの錯覚ならなして腕掴んだ時に話してくれんかったんや」


「だってあの時は、血脇君、私に全て話してくれんやったやろ?だから言わんかったし、わざと話に乗っかったんよ。そうすれば、血脇君が悩んで私に全て話してくれるかも知れないって思ったから」


「こうなる事を予想しとったんか?」


「何となくやけどね」


それを聞いた時、弓弦は思った。ひょっとして堀籠は最初からヒヨリに言っていたのかも知れない。


「血脇君から。私の携帯番号聞かれたら教えてあげて」と。


深く考え過ぎかも知れないが、ヒヨリがあんな風に茶化したのも、今となってはそのようなやりとりが2人の間で行われていたとしたら、弓弦の性格上、堀籠に連絡しないわけにはいかなかった。

かけなかったからヒヨリに色々突っ込まれるからだ。まぁかけたとしてもその点は同じだろうけど。



「話は変わるんやけどさぁ」


「うん」


「ワシ、人の顎の骨拾ったんよ。歯が3本ついとるやで」


「その骨何処で、拾ったの!?」


堀籠が食いつくような勢いで言った。


弓弦は山で見つけた事を話した。


「直ぐに警察に電話して!」


「なしてや」


「私、行方不明者を探すのも好きなんよ。探すと言っても探偵みたいな事をするんやないよ?ただ犯人がいるとしたらどう処分するんやろ?って推理するだけなんやけどな。でもこの町にも何十年も前に行方不明になった人がそこそこおるんよ。

ひょっとしたらその中の1人かも知れないでしょ?」


「そ、そうなんか」


「血脇君が警察にいうんが、怖いなら私が電話してあげる」


きっとこれは堀籠が自分の推理や妄想と照らし合わせたいが為に申し出たのだというのは、さすがに弓弦にもわかった。


「雨が止んだら、連絡するわ。今、連絡しても警察も動けんやろうし。けど、放火魔の事件もあるから、相手にされないかもやで?」


「いい。それならそれで構わないから」


「わかった」


弓弦はいった。


「正月までと1日、2日は、親戚やらが来るから無理やから、3日の日に一緒に警察に行くっていうのどう?」


「オッケー」


堀籠は「なら3日の午後、13時に学校の正門前で」といい、バイバイも言わずに電話を切った。


弓弦も、受話器を置いた。

居間に入るとニヤニヤした顔の母親が弓弦を出迎えた。


「偉い長電話しよってから、弓弦、相手の子、好きなんか?」


母親が弓弦を揶揄うように言った。


「そんなん違うわ」


弓弦は冷蔵庫からなっちゃんを取り出しそれを持って部屋に戻った。


「弓弦、やる事ないならお風呂沸かしてなぁ」


返事は返さなかったが、言われた通りにした。


部屋に戻りなっちゃんを飲みながら弓弦は考えた。


原因は自分にある。そして殺したい程、嫌いな奴が、いる。それが誰なのか弓弦にはわからなかった。


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