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爆ぜる  作者: 変汁
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第十四章 ⑨⑨

向き合うべき弓弦自身の問題とは、例の女王蜂の存在だった。突然、起こる発作のような苛立ちをこのまま放っておく訳にはいかない。


このままで良い訳がない。弓弦にはいずれ虫を焼き殺す程度では済まなくなっていく気がしていた。


行き着くところまで行ってしまうと、最後は人を殺さないと、その苛立ちは治まらないのではないか。


大袈裟に聞こえるが弓弦はそこまで起こり得ると真剣に考えていた。


今でこそ蜘蛛や蝿程度で治っているから良いが、その不安は決して無くなる事はなかった。


いつかは雷鳥とヒヨリにも話さないと思っていたが、いざ話そうとすると、何故か萎縮してしまい言い出せずにいた。


話してもいないのに、ヒヨリや雷鳥から生き物を殺す事について咎められたらどうしよう?嫌われたら?などと思ってしまうのだ。


だが弓弦の悩みもある日突然、光明が見えた気がした。それは体育の時間の後、バスケットボールを片付けている時に感じた事だった。


片付けの為、偶然側にいた堀籠朱音に言われた一言で、弓弦は漠然とながらも、堀籠なら何か対処方法を知っているのではないかと思ったのだ。


この問題は雷鳥やヒヨリではなく堀籠朱音に話すべきかも知れない。


堀籠が「見て見て見てよ」とバスケットボールを籠に向けて放り投げた後、自分の両腕に出来た赤いブツブツを弓弦の前へ突き出しながら


「まるで蜂に刺された後みたいやろ?前は鳥肌やったのに、最近、血脇君に近寄ると、こうなるんよ」


「蜂に刺された」という一言が弓弦の心を動かした。


みんなは陰で堀籠の事を馬鹿にしているのは弓弦も知っている。自分も最近までその中の1人だった。


幽霊や心霊現象、はたまたUMAや呪いに至る都市伝説まで、そのような話に堀籠は心酔しきっていた。


地方とはいえ、一応小学生モデルをやっているお陰で、女子からの陰湿な虐めに遭わないで済んでいる。


それが無ければきっとクラスの女子からは無視されていたに違いない。


柏木雫が東京に引っ越してから、堀籠と頻繁に遊んだり一緒に帰る友達はいなくなっだったようだ。


堀籠自身、参観日の父親の乱入の後、色々あって施設通いになっているが、だとしても柏木雫がいなくなってからは、勉強を教えて貰う生徒も明らかに少なくなった。


そういう意味で言えば、ヒヨリの存在は堀籠にとっても大きいと思う。休みがちな堀籠だけど、来た時はなんやかんやでヒヨリが構っていた。


そんな堀籠だから、ヒヨリと仲の良い弓弦達にも心を開いてくれていると、弓弦は勝手に思っていた。


給食を食べながら心霊写真を見て、「ふふっ」と笑うような女子だから、単に気まぐれから話しかけて来てる可能性もなくはなかった。


それでも弓弦に近寄り鳥肌が出たら必ず弓弦に見せたりするのは、その現象を面白がっている節もあるけど、嫌われてはいないと思った。


もし堀籠が弓弦の事を嫌っているなら近寄る筈がない。意味不明な鳥肌が立つわけだから、普通なら絶対に近寄ろうとはしない筈だ。


その点に関して言えば、弓弦も気兼ねなく堀籠に色々と尋ねられると思った。


例えば堀籠なら女王蜂の駆除の方法を知っているかも知れない、知らなくてもその道のプロの人、いわゆる霊能者と呼ばれる人と知り合いかも知れないとか。そのような事を聞きたいと弓弦は思ったのだった。


弓弦は赤いブツブツを見せつける堀籠の両手を、掴み、不思議そうにそのブツブツを眺めた。


「何でやろ」


「わからん。けどもしかすると血脇病かも知れんね」


「なんやそれ」


弓弦がいうと、瞬く間に堀籠の腕に出来たブツブツが、それぞれ広がりを見せ、あっという間に赤いアザへと変貌していった。


「うやっはやうはっ」


意味不明な声を上げて堀籠は弓弦の手を振り解いた。


「何何何何やこれー血脇君なんや怖いもん持っとるんと違うー?」


そういって堀籠は弓弦から距離を取った。すると赤アザはその色素を薄めて行った。


「血脇君から離れたら消えてくわ」


堀籠は更に2歩、3歩と下がってみた。赤アザは殆どの消えかけ、その下からブツブツが現れた。


「やっぱ、これは、、、もっとりんさるわ」


完全に倉庫から出た堀籠は中にいる弓弦に向かってそう言った。


「何をや?」


「わかっとるくせに、わざわざ私に聞くん?」


「もしかして、堀籠、お前……」


「私にはぼんやりとしか見えんよ。ハッキリとそれが何かはわかんない。やけど、うん。なんや日々力を増してるみたいやない?だって赤アザはさっきが初めてやったからね」


確かにそれまでは鳥肌が立つと堀籠は言っていた。だが、今さっき堀籠の腕は鳥肌からブツブツへブツブツから赤アザへと変貌を遂げた。


それは自分に近づき弓弦が堀籠に触れた事で起きたものだった。


だけど何故堀籠だけにそのような異変が起きるのだろう?やっぱり堀籠には霊感というか何か特殊な能力があるのだろう。


でなければぼんやりとしか見えないなんて言わない。堀籠自身が認めたようなものだった。


そうでなければ、雷鳥やヒヨリの身体にも同じような症状が現れる筈だ。なのに何も起きていない。


他のクラスの生徒も同じだった。唯一、堀籠朱音だけが、弓弦の持つ強い何かの力によって、その影響をハッキリと受けていた。


「どうすればいい?」


頭で思った。そう思っていた。けど自分の意思に逆らうように口に出していた。


堀籠は弓弦の言葉を聞くとさっきまでとは打って変わって真剣な表情へと変化していった。


しばらくの間、2人は見つめ合い続けた。

これじゃまるで決闘前のようなサムライのような空気感やないかと弓弦は思った。


「ごめん、血脇君、私にはわからない」


「嘘、マジか」


堀籠は弓弦に向かって頭を下げ「ごめん!」と再び言うと駆け出して体育館から出て行った。


この事があってから、いつかちゃんと話さなければいけないと思った。堀籠に話そう、自分の身に起きた事を全部話そうと思っていた。けれど冴木の事もあり気持ちだけが慌ただしくて、いつしか忘れてしまっていた。


それが良かったのかはわからないけれど、堀籠と話したあの日から今日の今日まで、例の発作のようなものは全く起きていなかった。


だけど今、思い悩んでいた1つの事に決着がつくような天気の中、弓弦は窓ガラス1つ挟んだ煙る雨の世界を見るともなく見ながら、改めて堀籠に話さなければいけないと思った。


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