断章番外 永井椎菜
私は悪くない。
全部サトちゃんが悪いんだ。
私これでも、だいぶ我慢してきたんだよ?
ずっと気を遣ってあげてたんだよ?
小学生の頃、暴れん坊のサトちゃんが男子に怪我を負わせたときも。おかあさんを亡くして塞ぎ込んだサトちゃんが、ほかの友達を無視しだしても。自分勝手なサトちゃんが、まわりにいろいろ言われだしてからも。
そういうとき私、いつも必ず、あの子を守ってあげた。なるべく周囲の空気を壊さないよう、やんわりフォローしてあげてた。
「そうだよね。サトちゃん、そういうとこあるよね。でも、ゆるしてあげようよ。だってさ、あの子ーー」
みたいなかんじでね? 尻拭いはいっつも私。私がいなきゃ、あの子ダメなの。
友達だから。友達だったから、助けてあげようって。本人にも、それとなく注意してあげて。
いままでのこと、頭を下げてお礼を言えとまでは言わないけど、せめて感謝くらいはしてほしいよね。
エリちゃんも、わかってないんだ。
私を抱き締めて、「もう、あんなやつ相手にしないで」なんてさ。
ちがうでしょ。私が構ってあげなくちゃ、あの子ひとりぼっちじゃない。そんなの、かわいそうでしょ。エリちゃん、そんな意地悪だから、教室で悪口言われちゃうんだよ。
私はサトちゃんが好きなんだ。だから大事にしてあげてるの。
それなのに、あの子。一体、何様のつもりで私に歯向かってきたのかな。
あの派手な女。例のアザミって子が、サトちゃんなんか本気で相手にするわけないのに。ばっかみたい。
どうせ遊ばれてるだけ。利用されてるだけ。そのうち、簡単に捨てられるよ。それか、ホントに向こうの頭がおかしいとかね。
だから私は、わざわざ助け舟を出してあげたのに。サトちゃんが傷つかないよう、関わんない方がいいよって、やさしく教えてあげたのに。
私を〈永井さん〉って言った。久しぶりに呼んでくれた名前が、他人行儀な〈永井さん〉。
ひどいよ。飼い犬に手を噛まれるって、こういうことを言うんだね。
そんな恩知らずの子のおかあさんが死んじゃったのは、当たり前だよ。きっとバチが当たったんだよ。神様はちゃんと見てるんだ。
だから私は悪くないの。
全部サトちゃんが悪いんだ。
「ねえ、そう思いません?」