断章三
六月二十五日、午前三時前。
私たちは黙々と山を登りつづけていた。
ナオさんはまだしも、こんなに無口なミカは彼を紹介してきたとき以来だった。けれど、驚きはしない。当たり前だとも思う。私だって、いまは必要以上に口を開きたくはなかった。
ふと、私は小学五年生のときに体育館で観させられた、古い洋画を思い出した。
四人の男の子が連れ立って、何十キロも歩いて、あるものを探しにいくっていう冒険譚。暗澹としたーーでも、どこか眩しい、青春と友情の物語。
上映後に初老の男性教諭は、「君たちがこの映画の本当の良さを理解できるようになるのは、もっとずっと先になってからでしょう」なんて目を潤ませながら言っていた。映画を夢中になって観ていた当時の私は、こっそり憤慨。「だったらいま観せるなよ」と小声で毒づいた覚えがある。でも時間を置いてみれば、その教師の考えもわかる気がした。きっと大人はああいう物語に触れて、若き日の郷愁に浸るのだろう。
いまの私は、その反対。映画を思い出し、現状と重ねている。そうして、なんらかの救いを見出そうとしている。
だって、似ていたから。状況だけなら。いまの私たちは、彼らと。
ただし私たちが踏み込んだのは、ひとすじの光も差し込まない昏い世界だ。
映画の劇中歌で繰り返し使われていたフレーズ、〈ロリポップ〉。
ぺろぺろキャンディー。
砂糖菓子。
甘ったるい、自分だけの宝物。
そんなの、どこにもありはしない。
草木や落ち葉、ぬかるみから漂ってくる濃厚なにおいが、不思議と嫌じゃなかった。
生ぬるい風や全身から湧き出る汗が、なぜだか心地よい。
それはきっと。山は。自然は。いま歩いている私たちは生きている。そう感じさせてくれるから。
私たちと映画に出てくる男の子たちの状況は、たしかに似ていた。でも、根本がちがう。
私たちは彼らの、ちょうど逆をしている。