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令嬢辞めたら王子に親友認定  作者: たぬきち25番
第1章 幼少期を変える!!
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8 誕生日の贈り物




「三日後、ギチュウカ語レッスン?? アルフレッド殿下、私に何をさせたいの??」


 私はアルフレッド殿下から招待状を見て首を傾けていた。

 あれから私は、頻繁にアルフレッド殿下から招待状を貰って二人の王子と一緒に時間を過ごしていた。ちなみに初めは月に1度くらいだったが、最近では週に1度くらいのペースで呼ばれている。


 ある時は乗馬。

 またある時は楽器演奏。

 もちろん剣術だって呼ばれる。

 そして前回は絵を描き……今回は近隣諸国の言葉を学ぶようだ。


「お嬢様……随分と王子殿下と仲良くなられたのですね……」


 エイミーがなんとも言えない表情で私を見ていた。もしこれが令嬢としてお誘いを受けていたとしたらみんなに大変喜ばれるだろう。


――第二王子と第三王子に気に入られた!! 


 だが、ここで忘れてはいけない、大切なことがある。私はジェイドという貴族令息として王子たちと定期的に交流しているのだ。 

 私は婚約者候補でさえもなく、あくまでも貴族令息、つまり男友達としての交流しているのだ。

 

――アルフレッド殿下も公務が始まればお忙しくなるので、そのうち呼ばれなくなるだろう。


 そう思って二人の王子と交流を始めてそろそろ2年が過ぎようとしていた。


 私は騎士団長仕込みの剣術指導を定期的に受けているおかげでメキメキと剣の腕を上げていた。

 今では二人とも互角に戦える。

 さらに背も第二王子と第三王子よりも高いし、女性にしては声も低い方だと思う。

 おかげで二人の王子と一緒にいても全く性別を疑われることがない。


「そうだね……私……令嬢に戻れるとは思えない……」


 一応、令嬢としてのマナーも母に学んでいるが、令息でいる方が断然楽なのでどうしてもそちらに意識が向かってしまう。

 元現代人にとって貴族令嬢は窮屈過ぎるのだ。

 私はパンツスタイルだって好きだし、口を大きく開けて笑うことも普通だし、走ることだってあった。

 それを貴族令嬢は全て禁止される。

 これはかなりストレスだ。


(私、貴族令息の方が合っているかも……)


 今では本気でそう思っている。


「そ、そんなことありませんよ……」


 エイミーが慰めるように言ってくれたが目が泳いでいた。

 そんな話をしていた時、ノックの音が聞こえて「どうぞ」と返事をすると兄が部屋に入って来た。


 今では兄の病気はすっかり良くなった。

 この二年間、お茶会など身体と心のストレスになるようなことは全て私が引き受けて、休養に専念できたのが何よりもよかったと、お医者様に言われたそうだ。

 ゲームでは兄は学園に入学する前に亡くなったと言っていたが、先月から学園に通っているのでゲームとはかなり変わってきているのかもしれない。


「ブランカ、今いいかい?」


「はい、何でしょうか?」


 私が兄の方を見ると、兄が私のすぐ隣に座った。そして私に小さな箱を手渡した。


「ブランカ、誕生日おめでとう」


 私は兄から箱を受け取るとお礼を言った。


「ふふ、ありがとうございます。ですが、夜の食事の時にプレゼントを頂くのかと思いました」


 いつもお誕生日のプレゼントは夕食の時にもらっていたので、夕食前にもらったことに少しだけ不思議に思った。

 兄は私を見て微笑みながら言った。


「どうしてもこの時間に渡したかったんだ。ねぇ、開けてみて」


「ええ」


 兄に言われて箱を開けるとガラス製の青い万年筆が入っていた。


(ガラスの万年筆があるんだ……)


「綺麗……」


 私が箱を開けて万年筆に見とれていると、兄が微笑みながら言った。


「ブランカ。それ、夕日に当ててみて」


「はい」


 兄に言われた通り、夕日に当てると万年筆は鮮やかな緑色に変わった。


「あ……翡翠色になった。……お兄様、これって??」


(もしかして……これは私の瞳の色!? みんなには私の目は、こんな風に見えているのかな?)


 自分では自分が見えないので、こんな風に見えるのだろうかと想像していると兄が優し気に言った。


「ああ、本物のブランカの瞳の美しさには敵わないけれど……これに近い色に見えていると思うよ」


 私は嬉しくて兄に抱きつきながら言った。


「お兄様、ありがとうございました」


 兄はにっこりと笑うと「喜んでもらえてよかった」と言って笑ったのだった。


「さぁ、食事に行こうか。お父様もお母様も待っているよ」


 兄は立ち上がると私に手を差し出した。私は兄手を取ると返事をした。


「はい」


 その後は二人で話をしながら食堂に向かったのだった。

 





 ◇



 それから三日後。ギチュウカ語レッスンが終わるとランベール殿下が私の手元をじっと見ていた。


「ランベール殿下、どうかされましたか?」


「ああ、すまない。不躾だったな。その万年筆がジェイドの目の色と同じだな、と思ったのだ。今まで持っていたか?」


 語学の勉強を終えた後に、ランベール殿下が私の持っていた万年筆を見ながら言った。


「私の誕生日に兄がくれたのです。どうです? 素敵でしょう?」


「え……誕生日?」


 ランベール殿下が青い顔で私を見ながら尋ねた。ランベール殿下の隣に座っていたアルフレッド殿下も眉を寄せ、片付けをする手を止めて私を見ていた。


「は、はい」


 急に二人の空気が変わったことに戸惑いながら答えると、焦った様子のアルフレッド殿下が声を上げた。


「ジェイドはもう誕生日が来たのか? いつだったのだ?」


「三日前です」


 アルフレッド殿下の問いに答えると、ランベール殿下とアルフレッド殿下が立ち上がり、私に近づきほとんど同時に声を上げた。


「なぜ言わない!!」

「どうして言わなかった!?」


 美形の二人に至近距離で凄まれるとかなり怖い。

 何か問題があったのかと思って小声で答えた。


「……聞かれなかったので……」


 オロオロとしながら答えると二人が脱力した。そしてランベール殿下が少し拗ねたように言った。


「まぁ、誕生日を自己申告というのも中々難しいものかもしれないな……事前に教えてほしかったが……」


(えええ~~!? 貴族令息って誕生日って事前に申告するのかな……知らなかった)


「お伝えするものだとは知らずに……申し訳ございません」


 素直に謝罪すると、ランベール殿下が困ったように言った。


「悪い。責めたわけでは……いや、責めたかもしれない。お前は、私たちの誕生日には贈り物をくれたのに……」


 アルフレッド殿下と、ランベール殿下のお誕生日は城でパーティーが開かれた。お二人は7日しか誕生日が違わないので合同で行われたのだ。

 私もその会に呼ばれたので参加したのだ。

 貴族の世界では、誕生会に呼ばれて贈り物を持参しない方が非常識なのだ。

 つまり誕生日パーティーに呼ばれるのと、必然的にプレゼントを持参するのでプレゼントを渡しても当たり前なのだ。

 ちなみに第一王子殿下のお誕生パーティーは最近では元気になった兄が参加しているが、第二王子と第三王子の誕生日は未だに私が参加しているのだ。


「王族の方や、高位貴族の方でもない限り誕生パーティーなど開きませんので、どうか私のことは気になさらないで下さい」


 特別仲が良ければ、気軽な雰囲気で個人的に自宅に招いて誕生パーティーをする人はいるかもしれないが、大々的に誕生パーティーを開くのは王族や公爵家の嫡男など特別な人々だけだ。

 私の家は傾きかけた伯爵家なので、いくら仲が良くても王族である王子殿下を二人の招いてパーティーをするなんてことは不可能だ。

 なんとも言えない重苦しい雰囲気を壊すようにアルフレッド殿下が楽しそうに言った。


「確かに、ジェイドが誕生日を言う機会を作らなかった私たちにも問題はあるな。だが、私だってジェイドに贈り物をしたい。そこで提案だ。これから三人で町に行ってみるか?」


(は? これから三人で町へ? 冗談だよね?)


 私が心の中でツッコミを入れていると、ランベール殿下が声を上げた。


「それ、町に行く口実にジェイドの誕生日を利用しているだけだろう? 抜け道を見つけたと騒いでいたからな、フレッドは……」


 アルフレッド殿下がいたずらを企むように楽しそうに口角を上げながら言った。


「まぁ、否定はしないが……折角抜け道を見つけたのだ。一度でいい町を自由に見て回りたいのだ。すでに町人に紛れるための服などは用意してある。お前だって、ジェイドへのプレゼントを自分で選びたいだろう?」


「すでに準備してあるのですか……」


 私があきらめたように呟くと、アルフレッド殿下が楽しそうに言った。


「ふふふ、用意がいいだろう? いつか三人で城を抜け出すために着々と準備を整えておいたのだ」


 どうやらアルフレッド殿下は、今回のことがなくても私を呼び出して城を抜け出す予定だったようだった。


「フレッド、一応聞くが……行かないという選択肢は……」


 ランベール殿下の問いかけにアルフレッド殿下は笑顔で答えた。


「ない!!」


 ランベール殿下は大きな溜息をつくと静かに答えた。


「ん~~じゃあ、行ってみるか……」


 ランベール殿下までアルフレッド殿下の提案を受け入れたのだった。










 

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