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令嬢辞めたら王子に親友認定  作者: たぬきち25番
第1章 幼少期を変える!!
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6 きまぐれな呼び出し


 今日は正装ではなく、剣術の稽古ができるような楽な服を着ていた。

 いくら王子殿下との訓練だと言っても『剣術訓練に華美は服では行かない』と兄に教えてもらったのだ。

 教えてもらわなくても剣の訓練だから普通の服で行くのは当たり前だと言われそうだが、貴族というのはそうでない場合もあるので恐ろしい世界なのだ。


 きっと他にも数人が剣術訓練を受けるだろうから、私はまたしても皆に紛れて目立たないように過ごそうと決めていた。


 だが……





「え? 呼ばれたのは私だけですか?」


 城に到着して案内されたのは、王子殿下たち専用の剣の訓練場という整備された場所だった。

 そんな場所に1人だけ……不安になった私は執事に今日の参加者が何人いるのかを確認したのだ。すると招待を受けたのは私だけだと聞いた。


「はい。お客様はリンハール様だけでございます。それでは少々こちらでお待ち下さいませ、私はこれで失礼いたします」


 私を案内して執事はすぐに去って行った。

 約束の時間の約20分前。

 誰もいない訓練場。遅刻してはいけないと早く着き過ぎたわけではなかったらしい。


(私だけが呼ばれた? どういうこと? まさか日替わりに1人ずつ呼ばれる……とか?)


 私はが首を傾けていると、後ろから声が聞こえた。


「……誰かいるのか?」


 私は振り向くと驚いて声を上げていた。


「え? あなたは……」


 そこには、お茶会の時に寝ている私を起こしてくれた男の子が立っていた。男の子は私を見てすぐに口を開いた。


「……君は……よだれの子……」


 確かに迷惑をかけてしまったが、その覚え方はどうだろう?


(ううっ……よだれの子……否定できない事実だけど、居たたまれない……)


 私はなんとか呼び名だけでも変えてもらえないかと交渉を試みることにした。


「先日は大変申し訳ございませんでした。……その……確かにその通りですが……一応……私にはジェイドという名前がありますので……ジェイドと呼んで下さいませんか?」


(よだれの子はやめて下さい~~)


 実は私の男装姿の時の名前がジェイドになったのは、私のミドルネームがジェイドだからだ。

 この国ではミドルネームは人前では口にしないのが一般的だ。


――なぜなら名前が長くなるから。


 ミドルネームを持っている人は多いが、人前では口にせず、名前と家の名前だけを名乗る。

 そして社交界デビューや、結婚などのタイミングでミドルネームを自分のファーストネームに変える人も一定数いる。

 だからジェイドと名乗ることは戸籍上は偽りではないので、不敬でもなんでもないのだ。


 ジェイドとは一般的には男性の名前だが、どうせ人前に出すことのない名前なので母が私を生んで思ったことを名前に入れたそうだ。

 いつまでも『よだれの子』となんとも羞恥心しかない名前で呼ばれたくない。


「よだれ……いや、ジェイド。なぜここに?」


(今、よだれの子って言おうとしたよね!? でも、言い直してくれたのはありがとうございます……)


 私は言い直してくれたことに少しほっとしながら答えた。


「アルフレッド殿下にご招待を受けました。もしかして先日の失礼な態度についての謝罪を求めるためにアルフレッド殿下にご相談されたのですか?」


 私はある可能性に気付いて声を上げた。

 すると男の子は慌てて答えたくれた。


「違っ、言わないと言っただろう?」


 よかった……どうやら居眠りやよだれの謝罪のために呼ばれたわけではないようだった。

 私がほっとしている横で、男の子がかなり不機嫌そうな顔をしながら呟いた。


「フレッドのヤツ……何を考えている?」


 私は比較的耳がいいので、はっきりと聞こえてしまった。


(もしかして、この人。アルフレッド殿下をフレッド呼びしてるの!? 恐れ多い~~~!!)


 実は乙女ゲームでは攻略対象と仲良くなると、呼び方を変えることが出来る。

 その呼び方でどのくらいの好感度が高くなっているのかがわかるのだが、アルフレッド殿下はいくら好感度最大になっても決して『フレッド』呼びだけは許してくれない。『アルちゃん』や『ハニーたん』などのふざけた呼び名も許可してくれるのに!!


 仲良くなってので油断して『フレッド』などと呼ぶと……


――その呼び方は止めろ!!


 きつく咎められて、好感度が急降下してしまうのだ。

 折角好感度を上げたのにと、悔しい思いをしたことを思い出す。


(うわ~~どこの誰だかわらないけど……止めた方がいいかな……)


 フレッド呼びにこちらの方がオロオロしていると、よく通る明るい声が聞こえた。


「ああ、ランベールにジェイドも早いな」


 声のした方を見るとアルフレッド殿下が立っていたが、私はそれどころではない。



 ……え?



(待って、私の耳がおかしくなった?? 今……ランベールって聞こえたような……)


 私の頭は高速回転で過去を思い出す。

 そして再び男の子を見た。


(ランベールって確か……第三王子殿下の名前……)


 その瞬間、私はふらりと地面に倒れそうになった。


 第三王子に……居眠りで起こしてもらった。

 しかも、腕にまで巻きついて……

 よりにもよって、第三王子の肩によだれ……




――どうしよう!! 不敬の極み!! まさか、ここでBADエンド……?




 自分の気のゆるみが招いた行動のせいで、BADエンドを招いてしまったことに愕然としていると、ランベール殿下がアルフレッド殿下を見ながら心底面倒と言った雰囲気で声を上げた。


「フレッド……どういうつもりだ。どうしてここにジェイドがいる?」


 アルフレッド殿下は、いたずらが成功した子供のように笑いながら言った。


「いや、ランベールを笑わせる者がどんな者か知りたかっただけだ。驚いたようだな」


 私は無邪気に笑うアルフレッド殿下を見て驚愕した。

 アルフレッド殿下と言えば、ゲームの中でもいつも完璧な笑顔や凛々しい顔しか見せない人だった。

 出会ったのは15歳で、今は恐らく殿下は10歳だろうと思う。

 しかも私をここに呼んだ理由も全く将来とか関係なく、ただ知りたいという子供のような理由だ……


(え? 私、本当にどうして呼ばれた??)


 困惑しているうちに、一人の騎士がこちらに向かって歩いてきた。

 するとアルフレッド殿下と、ランベール殿下が並んだので、私も急いでランベール殿下の後ろに移動した。


「アルフレッド殿下、ランベール殿下、こんにちは」


 そして騎士は私を見ながら言った。


「君が一緒に剣を学びたいという者だね。後ろではなく、ランベール殿下の隣に並びたまえ。そして名前を」


(学びたいなんて一言も言ってな~~~い!!)


 私は心の中で叫んだが、表情には出さずにランベール殿下の隣に立つと声を上げた。


「ジェイド・リンハールです」


 騎士は私を見た後に口を開いた。


「ジェイドか。私はデニスだ。騎士団の騎兵隊の隊長をしている」


(え? デニス!? もしかしてこの人、デニス団長!? 知ってる~~!!)


 今は隊長と名乗っているようだが、5年後、デニスは騎士団長に就任する。

 そして……この人が出るとほぼほぼBADエンド確定。


――BADエンドにデニスあり。


 これは、ゲーム経験者の中では結構有名な言葉だ。

 ブランカが誘拐され殺された時は、エンドロールのブランカの亡骸の前で『間に合わなくてすまない』と謝罪し、賊に捕まって殺された時も『私はなんて無力なんだ』と涙する。


 BADエンドで一番登場する脇役。

 それが騎士団長のデニスだった。


(もしかして……これがすでにBADエンドの序章……?)


 私はBADエンドの象徴でも言うべく団長の登場に白目をむいたのだった。




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