12 ランベールSIDE
今回はランベールの視点です。
それでは、どうぞ
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ランベールSIDE
夜会演習の準備中はずっと言いようのない不安が渦巻いていた。
ジェイドの口から「今日はモーリスと会場の演出の確認に行きます」「モーリスとダンスの曲の打合せをします」何度も『モーリス』という男の名前が出る度にイライラした。
さらにはバーバラ嬢の護衛をするとまで言い出した。
なぜ自分を小間使いのように扱っていた人間を守ろうとするのか、さっぱりわからないが、ジェイドが守るというのなら、俺も側で守りたかった。
それなのに……
――ランベール殿下、犯人をお願いします。
ジェイドに犯人探しを頼まれて引くに引けない。ジェイドに犯人を探させるのも不安だからだ。
「ジェイドに会いたい……」
思わず生徒会室で呟くと、フレッドに睨まれた。
最近フレッドは、城でやるべき仕事まで生徒会室に持ち込んでとにかく公務を終わらせようと努力していた。
「私だって会いたいのを我慢している。早く仕事を終わらせろ。泊まりに行けなくなるだろう? 学生の間に、なんとかジェイドの心を動かさなければ……時間がない……」
フレッドの頭にはすでに、ジェイドと遊びに行くことしかない。
しかも、最近のフレッドはどこか焦っているようにも見える。
だが、こんなにもジェイドとのんびりと話もできないのは久しぶりだったので、俺も仕事を終わらせることに集中した。
「そうだな、仕事が終わっていなくて遊べないんじゃ意味がない」
そして俺たちは必死で仕事を終わらせて、夜会演習の日を迎えた。
俺たちはジェイドを迎えに行くために馬車に乗っていた。
「フレッド、ジェイドにいつ言うのだ?」
ルーク兄上に頼まれていた仕事も全て終わり、俺たちはベルク侯爵家が別荘として所有している王都から離れた場所にある古城の夜会に代理出席することになった。しかも、すぐ近くにあるルーク兄上の友人が所有する大きな別荘の離れに、数日泊まれるように手配してくれた。
「夜会演習が終わったら帰りの馬車の中で言うつもりだ。ジェイドだって今日が終わらなければ余裕がないだろう?」
「まぁ、それもそうだな」
今のジェイドは、きっと夜会演習のことで頭がいっぱいのはずだ。それなら終わってから報告する方がいいだろう。
「ジェイド、喜んでくれるといいな……ずっと頑張っていたからな。少しゆっくりさせたい」
フレッドが目を細めたので、俺はフレッドを見ながら言った。
「そうだな」
「あと、今回の夜会は、私たちが無理に誘ったのだ。ジェイドの衣装は全て私が選ぶ!! 指輪を贈らないんだ。このくらいいいだろう」
どうやら指輪の件、フレッドは結構本気だったようで地味に気にしている。だが、そんなのは俺だって同じだ。
「待て、フレッド。ジェイドの服なら俺も選びたい」
「実はもう発注した」
フレッドが勝ち誇ったような顔で俺を見て、出し抜かれたことに怒りが湧いた。
「なんだと!? 今度機会があったら、絶対に譲らない!!」
「私だって譲らない」
フレッドが抜け駆けしていたことに本気で腹が立ったが、その後馬車がジェイドの家に到着してジェイドの顔を見たらどうでもよくなった。
バーバラが選んだ服というのは気に入らないが、ジェイドには本当に似合っていた。不快だが、ジェイドに似合っているので、心を落ち着けることが出来た。
馬車の中では少しジェイドと話ができたが、会場に着くとすぐにジェイドはモーリスと共に会場内に入って行った。
(また、あの男に取られた……)
まるで子供のようなことで嫉妬していると、隣でフレッドが眉を寄せた。
「ジェイドと、モーリスとかいう男の距離、やけに近くないか?」
この時俺は心底、フレッドの言葉に共感した。
「ああ、俺も近いと思う」
「だよな……それも今日までだ……ようやく終わる」
フレッドは、本気でほっとしたようだった。俺はなんとなくそんなフレッドの姿に違和感を覚えたが、その後俺たちも学長や指揮者とのあいさつなどがあり忙しくなったのだった。
◇
夜会演習が始まる時間の少し前に会場が暗くなり令嬢が襲われ、それをジェイドが助けた。
ジェイドは剣をしまうと即座に令嬢を抱きしめた。
(な……!!)
その光景を見た瞬間、俺の心が凍り付きそうなほど冷たく感じた。
煙が邪魔で急いで指示を出して、ジェイドの元に走った。
「ジェイド!! 大丈夫か!?」
近付いて、俺はさらに驚愕した。
(バーバラ嬢を助けたのか……)
「バーバラ、もう大丈夫ですよ」
ジェイドの言葉に俺はぎょっとした。
(呼び捨て?)
付き合いの長い自分でさえ未だに、ランベール殿下と呼ばれている。何度か『名前だけでいい』と言ったが『そういうわけにはいきませんよ』とはぐらかされた。
「ジェイドは、大丈夫? あの……ありがとう」
バーバラは頬を染めながらジェイドを見ていた。
その瞳が、熱量が、俺の不安を掻き立てた。
「いいえ」
ジェイドが微笑むとさらにバーバラ嬢は頬を染めた。
この女――やっぱりジェイドに惚れてる!!
直感でそう思った。
相手は侯爵令嬢。もしも、ジェイドを本気で好きだと言えば、ジェイドの両親は絶対に反対しないだろう。
ジェイドに寄り添って微笑む彼女を見て言いようもない恐怖や、不安、そして怒りが込み上げてきた。
(ジェイドは……俺のものだ!! ジェイドを幸せにするのは俺だ!!)
そして、強い感情のまま心の中ので叫んで気付いてしまった。
(俺……今……)
――俺のジェイドへの感情は、この女と同じ?
バーバラを見て微笑むジェイドを隠したいと、誰にも見せたくないと思った。
自分にだけこの笑顔を向けて欲しいと思った。
自分の感情はずっと友情だと思っていた。自分を助けてくれたジェイドに恩を感じているのだ、だからジェイドには幸せになってもらいたいのだ。
ずっとそう思っていただが……違う。
(俺は、自分の手でジェイドを幸せにしたい……)
これは、すでに友人に持つような感情ではない。
「バーバラ、もう大丈夫です。そろそろ模範演技ですよ。中央へ」
俺が自分の感情を自覚して呆然としていると、ジェイドがバーバラ嬢に向かって言った。
バーバラ嬢はジェイドを見上げながら言った。
「連れて行って下さる?」
ジェイドは「はい」と言って、バーバラの手を取った。
そして歩き出したジェイドの腕を俺は咄嗟に掴んでいた。
「ランベール殿下?」
ジェイドが驚いた顔をしたが、自分でも無意識の行動なので咄嗟に言葉が出なかった。
「私も行こう」
俺がそう言うとジェイドが切なそうな顔をして「バーバラのこと気になりますよね」と言って俺は3人で中央まで向かった。
フレッドも不安そうな顔でジェイドを見ていた。
その後、会場内の点検が終わったという合図があり、音楽が流れた。
「お手をどうぞ」
「ええ」
そして、フレッドとバーバラが中央で踊ることになったので、俺はジェイドの腕を握ったまま会場の端に立った。
「ランベール殿下、学長たちの場所に戻らなくてもいいのですか?」
「フレッドたちのダンスが終わったら戻る。それまで……ここにいる」
ジェイドの手首を握ると、ジェイドが俺の顔を覗き込んで言った。
「ご心配おかけしてすみません」
その顔を見た瞬間、ジェイドの腰を抱き寄せて彼の頭に頬をつけた。
「ああ……心配した……」
一体何を心配したのか……
純粋にジェイドの身体を心配したのは、ジェイドの元気そうな顔を見るまでの間で、それからはずっとジェイドがバーバラに取られないか、そんな醜い嫉妬心で二人を見ていた。
昂っていた感情が、ジェイドの体温を感じて少しだけ落ち着いた。
そして、フレッドたちの踊る曲が終わったので、ゆっくりとジェイドから離れた。
そして生徒たちのダンスの時間になった。
「ランベール殿下は誰とも踊らないのでしょう?」
「ああ。そのつもりだ、だが……ジェイドが俺の相手なら踊る」
ジェイドが楽しそうに笑いながら言った。
「はは、絶対踊らないつもりなのは理解しました」
俺としては本気だったが、ジェイドにはそうは取られらなかったようだった。
なんとなく、もやもやしていると、バーバラがこちらに向かって歩いて来た。
そして俺など一切目に入らないと言った様子で、ジェイドに向かって言った。
「踊って下さる?」
ジェイドはあれほど熱い視線を向けられているにもかかわらず「ランベール殿下は誰とも踊られないそうです」と全く意図に反したことを言った。
(この女が誘っているのはどう見ても俺ではないだろう)
案の定「あなたを誘っているのよ。夜会演習は成績が付くのよ。私が相手をして、あなたの成績を上げてあげるわ」と言った。照れ隠しなのが見え見えだ。
素直にジェイドと踊りたいと言えないのだろう。だが、そのセリフを言われて、ジェイドの気持ちがこの女に傾いても困るので何も言えなかった。
「ええ? 私の成績を上げて下さるのですか!? バーバラは義理堅いですね。では……胸をお借りします」
(絶対に違う。成績など口実に決まっている!!)
そう思うのに何も言えなかった。
「ええ、行きましょう、ジェイド!!」
バーバラ嬢はジェイドの手を取るといつもの高飛車な令嬢ではなく、まるで無邪気な少女のように純粋に笑っていた。
俺はそんな二人を見て居られなくて、会場を出た。
「ふぅ……」
会場を出て、人気のないバルコニーに向かうと、ジェイドと最近ずっと一緒にいたモーリスが、庭からこちらに向かって歩いて来た。そして俺を見つけると「不審人物は見つけられませんでした」と言った。見回りをしてくれていたことに気付いて素直に礼を言う。
「ああ、感謝する」
すると、モーリスが必死な顔で言った。
「あの!! 余計なお世話かもしれませんが……ジェイドほど、お二人のために働ける者はいないと……思います」
突然、何の話をされたのかわからなくて、困惑しているとモーリスが小声で言った。
「彼は本当に、素晴らしいと思います。どうか……側近や護衛もご検討下さい!! それでは失礼いたしました!!」
モーリスは頭を下げると、その場から走っていなくなってしまった。
完全にモーリスの姿が消えた後に呟いた。
「あいつ、何言ってるんだ? ずっと前から、ジェイドのいいところを知ってる」
むしろジェイドを誰にも渡さないと思っているくらいだ。
(なんなんだ!!)
俺は頭をかくと、再びジェイドを見るために会場内に戻ったのだった。




