4 審査員(仮)になって
次の日の放課後――ダンス審査、一日目。
私は時間まで生徒会の仕事をすると、時計を見て立ち上がった。
「それでは、いってきます」
「悪いな、ジェイド。気を付けて!!」
アルフレッド殿下が時計を見た後に声を上げた。
そして私がドアに向かって歩いていると、ランベール殿下が立ち上がって私の前に立った。
「ジェイド、やはり俺も行こうか?」
とても心配そうな顔を向けてくれるが、ふと昨日、バーバラ様を見て頬を染めるランベール殿下を思い出し、なんだか不快感を感じた。
「いえ、学習会の方にも私が行くと返事をしています。それよりもランベール殿下は他をお願いします」
ランベール殿下は「わかった。気を付けて」と行って見送ってくれたが、その顔が置いていかれる小動物のようで胸が痛んだ。
(あ~~そんな悲しそうな顔をしないで~~)
私は振り向いて、ランベール殿下を見ながら言った。
「しっかりと立ち会ってきますので!! それではいってきます」
私は今度こそ生徒会室を出たのだった。
そして、時計棟の一番奥にあるダンス室に行くとすぐに審査が始まった……
(レベルが高い……)
私は令嬢たちのダンスを見て本気でそう思った。
やはり、王族の相手を務めようというのだ。皆、とても上手い。
実は私も審査の参考として、誰のダンスがよかったのか一日に一人か二人選んでほしいと言われていた。
(私、選べるかな……)
一人か二人の令嬢なんて選べない、そんな風に思っていた私は、その日の最終ダンスの組で、一人の女性のダンスに目を奪われた。
(凄い、圧倒的な表現力……)
大胆なステップを優雅に踊るその姿はまさに大輪の華。
貴族令嬢としての華やかさ、優美さ、大胆さ……
全てが詰まったいいダンスだった。
(バーバラ様ってこんなにダンスが上手だったんだ)
そう、私が見とれていたのは、悪役令嬢´sの一人、バーバラ・ヴァルト様だった。
私は1日目、バーバラ様の名前を書いたのだった。
◇
「意外でした」
「え?」
私は、審査が終わった後にモーリスと二人で会場の隅で今日のダンスについて話をしていた。
モーリスが突然、脈略もなく話かけてきたので私は驚いてしまった。
「すみません、いえ……ジェイド殿って、ずっと彼女に雑用を押し付けられていたでしょう? それに彼女たち問題があって生徒会を辞めたと聞いたので……てっきり苦手なので選ばないかと思いました」
確かに、彼女自身は苦手だ。だが、ダンスは本当に他を圧倒していたのだ。
「ああ、そうですね……でも、ダンスは一番目を引かれました」
きっと彼女は幼い頃から『王太子殿下の妃に選ばれるように努力なさい』と言われたのだろうと思う。私たちの世代には王太子を始め、他にもアルフレッド殿下にランベール殿下と2人王子がいる。だかた、王族と結婚できるように高位貴族の令嬢はかなり厳しい指導を受けたと思われる。
ゲームのブランカも大変そうだったので気持ちは痛いほどわかる。
「そうですね。バーバラ様はきっと……かなり幼い頃からダンスをされているのでしょうね」
モーリスもしんみりしながら言った。
「そうでしょうね……あ、モーリス殿。これから二人の打ち合わせも多くなりますし、私のことはジェイドと及び下さい」
「そうですか? それでは私もモ―リスと」
「ええ。ところでモーリスがダンスを見る時に基準にしている点などはありますか? 私ほとんどわからなくて……」
これだけのダンスを見て私も少しでも令嬢を選ぶ精度を上げたいと思ったのだ。
するとモーリスが微笑んだ後に言った。
「そうですね……ジェイドは女性パートを踊れますか?」
私は一応、令嬢に戻った時のために昔は兄のダンス練習の相手をしていたので、女性パートも踊れなくはない。だが、ずっと踊っていないので、今すぐに踊れるとは言えない。それに『なぜ女性パートが踊れるのか』を勘ぐられても困るので、私は苦し紛れに返事をした。
「……いえ」
不自然だったわろうか、若干声が上ずってしまうと、モーリスは慌てて声を上げた。
「ジェイド、そんなに申し訳なさそうな顔をしないで下さい、普通は踊れませんので……私と少し踊ってみましょうか?」
「私とモーリスが踊るのですか?」
「はい。私は女性パートも踊れますので……」
(あ、そういいうことか……私が女性パート踊るのかと思った……ダンスの先生の資格もあるモーリスと踊るのか、ちょっと緊張するかも……)
いつもは女性の先生や、クラスの令嬢と踊るので、兄意外の男性相手に踊るのは初めてで心臓が早くなった。モーリスも攻略対象なのでかなり顔が整っているといのもある。
「ジェイド、手を」
「はい」
(う……ダンスって近い)
モーリスに手を取られて身体を密着させる。手と手の体温を感じて勝手に心臓が早くなった。
「では、まず一般的に上手な令嬢の動きです」
「はい」
モーリスは基本的なステップで、リードしてくれた。
(うわ……上手……)
私の練習相手の令嬢には悪いが、モーリスが相手だとかなり踊りやすい。相手が上手いとこうも動きが楽なのか、と痛感した。
一通り踊ると、モーリスが至近距離で私の目を見つめながら言った。
「では、ハイレベルな令嬢のダンスです」
「はい」
(は……身体が勝手に動く。流れるみたい……凄い、自分がダンス上手くなったみたい)
「どうですか? 動きやすいしょう?」
基本のステップなのに、動きがなめらかになるだけで全く違う。
(凄い!! これ、モーリスがアルフレッド殿下のお相手をすればいいのでは?)
もしも昨年度だったら、ジュリアが生徒会長だったので、お相手に選ばれていたのは確実にモーリスだっただろうと思う。
「はい!! とても動きやすいです!! むしろ、私までダンスが上手になったように思います。本番、私はモーリスと踊りたい」
「ありがとうございます。上手な方は、動きがとてもなめらかで自然です」
「なるほど……実際に体感してしまうと違いがわかりますね。私も少しダンスのコツを掴んだ気がします」
「ふふふ、そうでしょう? いつでもお相手いたしますよ」
「ありがとうございます」
モーリスと踊っていると、ダンス室にランベール殿下が入って来た。
「ランベール殿下」
このダンス室は時計棟の一番端にあり、特に扉などはない。
私たちが動きを止めてランベール殿下の方を見ると、ランベール殿下が不機嫌そうに言った。
「何をしている?」
私たちは身体を離すとランベール殿下の方を見た。そして私はランベール殿下をに向かって言った。
「少々ダンスの確認を……もしかしてお待たせしてしまったでしょうか、申し訳ざいません」
ランベール殿下は眉を寄せたまま答えた。
「いや、待っては……いない。だが、確認と言って、フレッドの相手に立候補したわけではないジェイドが、人気のない場所で二人っきりでダンスを踊っていた理由は知りたい」
審査の終了時間は過ぎている。私たちは今日の審査の確認と、どのように上手いダンスを見ればいいのかの個人的な確認をしていたとも言える。
この場所は今日から3日間、放課後はずっと借りていると言っても、やはりよくないと思われたのだろう。私はとりあえず、ランベール殿下に聞かれた理由を伝えることにした。
「実は生徒会の代表として私も『素晴らしいダンス』だったという令嬢を選ぶのですが、皆様大変お上手で、選ぶコツなどを教えてもらっていました」
するとランベール殿下が驚いた顔をした。
「ジェイドも選ぶのか?」
「一応、形式的に……」
実際に私の意見が反映されることはないだろうが、一応生徒会も『その場にいて、選んだ』という事実は必要なのだ。
私の隣で、王族に詰問されたモーリスは震えているが、ランベール殿下は少し考えた後に、私たちを見ながら言った。
「なるほど……では、まだ何かあるのなら付き合おう」
私はモーリスと顔を見合せると、モーリスは首を横に振ったので、私は再びランベール殿下を見ながら言った。
「もう確認は終わりました。また明日、選定を行います」
「そうか……では、ジェイド。戻るぞ」
「はい」
私はモーリスを見ながら言った。
「では、明日もよろしくお願いします」
モーリスはほっとした顔をしながら「はい、ではまた明日」と言ったので、私はランベール殿下と一緒にダンス室を出た。




