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令嬢辞めたら王子に親友認定  作者: たぬきち25番
第1章 幼少期を変える!!

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10 お忍び視察




「これが普段の町の様子か……」


 町に出るとアルフレッド殿下は、とても楽しそうだった。古びた服を着て、かなり汚い帽子で顔を隠していたが、アルフレッド殿下の美しさはあまり隠れていない。しかも周りをキョロキョロと見回し挙動不審だ。

 私はアルフレッド殿下の腕を持って、耳元で小声で言った。


「そんな首をあちこちに動かしていたら、周りから浮きますって……普通に普通に……」


「そ、そうだったな。すまない……」


 アルフレッド殿下と小声で話をしていると、ランベール殿下が私たちの間に入って腕を離させた。


「通行人の邪魔になっている。ほら、どこに行くんだ?」


 確かに荷物を持った男性が私たちを不審そうな目で見ながら避けてるように歩いて行った。私は「すみません」というと、アルフレッド殿下がニヤリと笑って歩き出した。


「では、少し歩いてみるか!!」


「はい」


 こうして私たちは町中を歩き始めた。

 この辺りは城下でもかなり治安のいい地域のようだ。高そうなお店が並び、町を歩く人々も優雅だ。

 私たちの格好はここでは少し浮いていた。


「この辺りには貴族が多いようだな……もう少し城から離れてみよう!!」


 アルフレッド殿下は、貴族が買い物をするような高級なエリアを離れて活気あふれるエリアに向かった。





「いらっしゃっい、いらっしゃっい。うちの野菜は新鮮だよ!!」

「奥さん、花はどうだい?」


 私たちは市場のような場所に来た。

 通りを挟んで小さな露店が立ち並び、四方八方から活気のある声が聞こえる。

 周りからいい匂いが漂って、ふと周りを見ると前世で見たケバブのような食べ物や、焼き鳥のような香りにお腹がなる。


(美味しそう……たまには焼き鳥食べたいよね……)


 私がじっと焼き鳥のような食べ物を見ていると、ランベール殿下が私の顔を覗き込みながら尋ねた。


「食べたいのか?」


 本当はかなり食べたいが、よく考えてみると私はお金を持っていない。


「食べたいですが……」


「ジェイド、遠慮せずに食べればいいだろう?」


 アルフレッド殿下が当たり前のように言ったので、私は二人に向かって言った。


「ですが……私、お金を持っていないので……」


 私も普段からお金を持ち歩いているわけではない。だから美味しそうだと思っても買うことができないのだ。するとアルフレッド殿下とランベール殿下が首を傾けた。そしてアルフレッド殿下が口を開いた。


「お金とはなんだ?」


「え?」


 二人はお金の存在を知らないようだった。

 私は前世の記憶もあるので知っているが、傾きかけた伯爵家でさえ行商人が家まで来てくれる。貴族の令嬢や、子息はお金の存在を知らないかもしれない。

 もし、外で買い物をしたとしても学園などに入るまでは執事や護衛などが会計を済ませるか、家の紋章を書いた何かを見せれば家にまとめて請求される。

 そもそも買い物でさえ、家に行商人を呼ぶのが普通なのだ。貴族令息や令嬢が自ら店に行くということも有り得ないので、学園に入るまで貨幣経済の仕組みを知らない人が圧倒的に多いのだ。

 前世でも電子マネーしか使ったことがないという子がいたがその感覚と似ているかもしれない。

 私は二人の腕を引いて小声で伝えた。


「町の人たちはお金という物を商品と交換する道具として使用しています。ほら、よく見ていて下さい。ものと硬貨を交換しているでしょう?」


 二人は周りをじっと観察した後に頷いた。そしてアルフレッド殿下が小声で呟いた。


「確かに何か小さな物と交換している。なるほど……あれがお金か……」


 ランベール殿下が私を見ながら尋ねた。


「……それで、お金とはどこで手に入るんだ?」


 私は少し考えた後に答えた。


「お金は働くことで対価としてもらえますので、私たちが今の状況で手に入れることは不可能です」


 アルフレッド殿下は驚きながらもどこか納得したように言った。


「なるほど、この服を用意させた者が、『必ず私に声をかけて下さいね。そうでなければ、町に行っても何も手に入れることはできませんからね!!』と言っていたが……お金という物と交換できる道具は自分といなければ使えないという意味か……」


 アルフレッド殿下は困ったように「知らなかったな……」と言った。

 そしてランベール殿下がぼそっと呟いた。


「民からの集める税というのは、お金を納めるという意味か?」


 お金は知らないのに《《税》》という言葉は知っている。帝王学を学んでいる二人は今後、知識を経験と結び付けて多くのことを知っていくのだろうと思い、私は頷いた。


「はい」


 アルフレッド殿下は大きな声を上げて野菜を売る男性や、額から汗を流しながら花を売る女性を見た後に呟いた。


「そうか……税というのは民が働くことで得たお金を集めていたのか。では、慎重に使い道を吟味なければ、皆が働き手に入れ、本来なら自分のために交換できるはずだった物との交換でもあるのだな……個人では実現が難しい道の整備や、治安の維持など民の暮らし向きが良くなるように税を使う必要があるな……」

 

 私は思わず言葉を失った。

 アルフレッド殿下とランベール殿下は、まだ12歳だ。

 だが、たったこれだけの説明だけで税の仕組みを理解したばかりか、税の使い道まで考えることが重要だという結論に行きついた。


(凄い……かなり充実した視察だ……)


「そうだな」


 ランベール殿下もアルフレッド殿下の言葉に頷いた。

 アルフレッド殿下は、私を見ながら綺麗な笑顔を向けた。


「やはりジェイドを連れて来てよかった。では今日はどのような物があるのか、見ることにしよう!! そして次にお金をどのくらい用意するべきかの考えることにする!!」


 どうやら、またしても町に来るつもりらしいアルフレッド殿下の言葉を聞いて、ランベール殿下と一緒に笑ってしまった。


「ああ、そうしよう。では順番に見ていくか!」


「そうしましょう!!」


 私たちは三人で露店を見ることにしたのだった。




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