勇者と共に入るスーパー銭湯
数年前、スーパー銭湯に行くのがマイブームだった頃の話。
その頃はまだ「芸能人じゃあるまいし」と己を鑑みる事が無かったコロン。
スーパー銭湯にびんぼっちゃま仕様のパンツで行き、履いているような履いてないようなパンツを他の人に見られるのが恥ずかしくて、パンツの脱ぎ着を音速でしていた当時。
無事ロッカーに鍵をかけるミッションを終え、ひとっ風呂浴びる為に洗い場へ向かう。
ポチッと押し込むと一定時間だけお湯の出る節水タイプの蛇口の前に座る。
本当はひねると好きなだけお湯の出る蛇口のほうを狙っていたのだか、あいにく空いてなかった。
ポチッ。
ジャーー!(強)ーー………(弱)
ポチッ!
ジャーー!(強)ーー………(弱)
ポチッ!!
あああっ!もうっ!
この餅つきぺったんみたいな蛇口!ぜんっぜん落ち着かない!
何度かポチッとを繰り返してやっとカラダを洗い終えて湯船へ向かう。
湯船は何種類か選べるので、とりあえず人の少ない「今日のお風呂」へ向かう。
「菖蒲湯」と書かれた紫色の入浴剤が入っているだけのお風呂にカラダを沈め、手足を伸ばす。
ゆら〜と揺れるお湯を見ながらのんびり入っていると、ザワザワと声が聞こえて3人のおばさまたちがコロンと同じ「菖蒲湯」に入ってきた。
「菖蒲入ってる?」「入ってるのかしら?」
そんな声が聞こえる。
《入ってねーよ》と無慈悲なコロンの心の声。
和気藹々と話しているおばさまの話題は健康についてだった。
今日のお題は「目」について。
「針に糸が通さなくて〜」とか「小さな字が見えなくて〜」と話していた。
「暗いと全く見えないわ〜。この前部屋の電気をつけようとして、ぼんやり見えていたスイッチを押したらそれがゴキブリだったの!」と。
指でゴキブリを押さえたと?
吹き出しそうになったコロンは顔をお湯につけて「ぶくぶく」と息を吐いて遊んでいるふりをした。
ゴキブリがスイッチってなんだよ。
なんて笑いをこら……堪えてないんだけど、ぶくぶくしながら思っていた。
その話を聞いて別のおばさまが「あ!〇〇さんいるでしょ?背中に何か落ちたなと思って手を回して取ったら大きなハガチ(むかで)だったんで、刺されちゃって大変だったって!」
ぷふぉふぉ…クックック…
お湯のぶくぶくを思う存分楽しんで「菖蒲湯」を出た。
ゴキブリを指で捉えるとか、ハガチを素手で捕まえるとか。勇者揃ってんな〜。
そんな事を考えなが電気風呂に入りビリビリを楽しむ。
電気風呂とは、お湯の中にタイルで出来た椅子があって、そこに電気が流れているお風呂のこと。
ちょっと腰掛けるだけならばピリピリっとするくらいであるが、深く座ると罰ゲームレベルにビリビリする。
友人と行った時、あう!痛ーい!きゃー怖い!などと言いながら、どれだけ深く腰掛ける事が出来るか張り合った。
ビリビリ感は人によって違うのかもしれない。
そして何に効くのか全くわからない。
人気があったのは「炭酸温泉」だった。
ぬるめのお湯に浸かるとカラダに小さな泡がつく。炭酸成分がカラダに吸収されなんとか…元気になるらしい。
そこ、いつもぎゅうぎゅうしてた。
みんな健康になりたいんだね。
お風呂を満喫し、光速ではなく、音速と控えめな速度でびんぼっちゃま仕様のパンツを装着し家路につく。
。。。
コロナ禍で行けなくなったり、脱衣所でカメラを作動する人がニュースになったりでスーパー銭湯に行かなくなって数年。
勇者の話を聞くことは出来ないけれど「おうちのお風呂がいちばん!」と思うコロンであった。