新顔
三題噺もどき―ろっぴゃくにじゅうご。
端の欠けた月の下、散歩ついでの買い物に出ていた。
昼間にでも雨が降ったのか、アスファルトは濡れている。
所どころ、まだ小さな水たまりができていた。
「……」
空には少しだけ雲がかかっているから、もしかしたら今からでも降るかもしれないが。
まぁ、その時はその時で良いだろう。今は降っていないし、予報を見た限り明日に向けて腫れが続くようだから。
雨上がりにしては少しぬるいような感じがするのは、そのせいだろうか。
「……」
風は確かに冷たいが、先日までの身が震えるような寒さとまではいかない。
ありがたい限りなので、このまま温かくなって欲しいものだ。また冷えるとか言われたら溜まったものじゃない。寒いのは苦ではないが、得意でもないのだ。
「……」
歩く道の先には、少しずつ灯りが増えていく。
とは言え、人通りの少ない田舎道だし、街灯は消えたりしている。
信号機もこの時間は、点滅になっている。
「……」
住宅街から降りて、町中と言われる方にまで降りては来たが、それでもこの辺りは暗い。周囲に畑があるからだろうけど、それにしても真っ暗なものだ。
車も走ってはいないから、そこだけぽっかりと穴が開いたようにさえ見える。
まぁ、私の眼には普通に見えるので、人の目から見たらそう見えるだろうと言う想像だ。
「……」
一週間の中日ということも相まってか、いつも以上に人の気配がしない。
これが、週末あたりになると、もう少し車が走ったりしているんだけど。
もう少し離れたところに、居酒屋が集中している通りがあったりするから、その辺の客だろうけど。たまに歩いているのもいるが……そういうのを見つけたらすれ違わないようにしたりはする。勝手な被害妄想だが、絡まれそうで面倒だ。
「……」
歩きなれた道を進んでいく。
黄色点滅になっている車の信号をよそ眼に、横断歩道を渡る。
車が来ていないことは確認済みだ。
「……」
そのまま真っすぐ進んでいけば、見慣れた24時間営業の店がある。
いつもの彼は今日もいるんだろう。あまりそいう区分は知らないが、正社員なのだと。だから……かは知らないが、ほぼ毎日この時間帯の仕事らしい。
この時間に開いているのは、こちらとしてはありがたい限りなのだが、彼の体調が心配になってしまわなくもない。
「……」
ガランとした駐車場を抜け、煌々と光っている入り口へと向かう。
もう少し光量を落としたらいいのに……こういう店の電気代とかどうなっているんだろうな。その足しにもならないだろうが、今日も買い物をさせてもらおう。
「……」
とは言え、今日はほんとにちょっとしたモノを買いに来ただけなのだが。
ホントに足しにもならない。何かあれば買ってもいいとは思うが……メモに渡されたもの以上は買うなと念を押された。また。
「……」
相変わらずセンスのよく分からない選曲がされている店内BGMを聞きながら、軽く回っていく。買うものは決まっているし、回る必要もないのだけど。
もう行き慣れた場所だから、さすがに売り場の場所は分かっているから。
「……、」
そうして、あまり広くはないが、それなりに品ぞろえのある店内を回っていると。
珍しく、自分以外の人影を見つけた。
客か、もしくはいつもの彼かと思ったが、どうやら違うらしい。背格好からして全く違う。髪をくくっているから女性だろうか……。いや、それで判断するのはおかしいか。
「……」
こちらには気づいていないのか、せっせと棚の商品の整理をしたりしているようだった。
彼と同じ服を着ているし、仕事をしているようだから、ここの店員なんだろう。制服というのだったか。ああいうのは、身分の証明が見てわかっていいものだ。
「……」
わざわざ声を掛けるもなんだし、どうやら集中しているようなので、気づかれぬように一層音を潜めて進んでいく。
この時間は大抵見慣れた彼しかいないから、驚いた。区分は分からないが、あの人も正社員というやつなのだろうか。それともバイトとかか。
「……」
見て回りながらも、特に買うものはなかったので、メモに書かれたモノを手に取った。
ずっとお菓子づくりをしているのかと思う程にキッチンに立っているアイツが、その材料を買ってきてくれとのことだったので、粉や粉を買っていく。
「いらっしゃいませ~」
少し間延びしたその声が、いつもの見慣れた顔だと教える。
ふむ、やはりあの人は見間違えでも何でもなさそうだ。
軽く聞いてみるとしよう。もしかしたら、今後話す事もあるかもしれないからな。
「奥にいた人は誰なんだ?」
「あぁ、新しいスタッフですよ。」
「……もしや辞めるのか?」
「いやいや、辞めないですよ。」
「そうか……しかしあまり無理はするなよ」
「えぇ。そうですねいい歳ですから」
「お互いにだな」
お題:雨・制服・空