プロローグ 白髪の少女
「私とお友達になっていただけますか?」
その言葉をくれた君の笑顔を、守ってみせる。
白い髪が雪のように閃く、美しい君を――。
◇◆◇
俺、アルスは孤児として保護されている。
「パン一切れにベーコン…今日はご馳飯だな。」
少し豪華だった朝食を終え、いつもの土木仕事に向かう。
ここ、リバーデ王国の王都ラッスルでは、孤児たちは孤児院で保護され、自給自足のために仕事を導いてもらう。物乞いになったりスラム街で活動するよりはましだ。
この日もいつものように土木仕事をこなした後、親方から休憩を許された。余る時間をどう過ごそうか考えながら、なんとなく大通りを歩く。
「久しぶりの自由時間だし、図書館に行くか」
図書館は俺の行き付けの場所だ。知らない世界が書籍に広がっている。そんなことを考えながら歩いていた時だ。
「キャー」
騒ぎの声に見上げると、目の前で一人の少女が雪で滑って馬車の前に飛び出した。
「危ない!」
とっさに俺は飛び込み、少女をかばった。雪の冷たさが身体中に浸み込む。
「わ、悪かった…」
馬車の主らしき商人が慌てて降りてくる。
「いえ、飛び出した私が悪いんです。そこをこの方が助けてくれて…」
雪に覆われた地面から起き上がりながら、少女は俺を指差した。
「そうか。坊主、すまなかったな。嬢ちゃんも気を付けるんだぞ。」
商人は軽く礼をして馬車を走らせていった。
「本当に!このたびはありがとうございました!」
少女は改めて深々と頭を下げる。
「怪我は…ないか?」
俺が尋ねると、彼女はきれいな白い髪をゆらして答えた。
「ええ、大丈夫です。あなたのお名前を伺っても?」
「俺はアルスだ。…そっちは?」
「私はソフィア・ブランシャールといいます。」
「ブランシャール…貴族様でしたか。」
「そんなにかしこまらなくていいのよ。私のことはソフィアと呼んで!」
「…わかった、ソフィア。」
「やった!じゃあアルスさん、私とお友達になっていただけますか?」
「俺でいいのか?こんな薄汚れた平民でも…」
「もちろん!命の恩人ですから!」
ソフィアの微笑みは、春のような暖かさを感じさせた。
「そうだ!お互いを知るために少し歩きながら話しませんか?」
「ええ、ぜひ。」
こうして、俺たちは並んで歩きながら、互いの話をし始めた。
◇◆◇
ソフィアは男爵家の令嬢らしい。彼女はこっそり家を抜け出し、王立図書館で本を借りて帰る途中に事故に遭ったそうだ。
「その本って何を借りたんだ?」
「魔術に関する本よ」
魔術。
火、土、水などの基本属性を持つ攻撃魔法、解毒や回復を行う治癒魔法、さらには魔力を直接操って身体強化や障壁生成を行う基本魔法。誰もが魔力を持ち、その量や適性は生まれつき決まっているという。
「やっぱりソフィアは魔術学院に行くのか?」
「うん。でも正直、少し怖いの。」
ラッスル王立魔術学院。
13歳以上の貴族は必ず通う学校だ。平民も試験に合格すれば入学できるが、魔力の総量と制御技術が問われる厳しい条件があるそうだ。
「そういえば、ソフィアはいくつなんだ?」
「ふふっ。いくつに見える?」
「そういうのは、もう少し大人になってから聞くもんだろ…えっと、11歳くらい?」
「正解!」
ソフィアはにかっと笑う。
「じゃあ同い年だな。」
「そうなの!?それなら一緒に魔術学院に行かない?友達がいれば心強いもん!」
「俺に才能があれば、だけどな。」
「だったらさ、うちに来てみない?」
ソフィアが身を乗り出してきた。
「魔力水晶で魔力の総量を測れるし、お父さんなら魔術を教えてくれるかもしれない!」
「本当⁉」
魔術に憧れていた俺は思わず身を乗り出した。
「もちろん!じゃあ明日の昼、鐘が二回鳴るころにここで集合しましょうね!」
ソフィアは手を振りながら去っていった。その後ろ姿を見送る俺の胸は、不思議な期待と興奮で高鳴っていた。
こうして、俺の人生を大きく変える運命の出会いが幕を開けたのだった。
ここまで読んでくれてありがとうございましたm(__)m
次回は「ブランシャール家」です