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06 ヒロインと当て馬、出会う

 

「お隣さんで幼馴染なんだ、いいなー。私は中学からこの県に引っ越してきたからそういう存在いないんだよね。」


 つむぎと紺と私、ゼロファに向かう道中。おしゃべりが得意ではない紺と私なので、つむぎのトーク力に助けられていた。必然的につむぎが色々と話題を振ってくれ、私たちが答える形になる。

 漫画を読んでつむぎの性格はなんとなくわかっていたが、素直で明るいつむぎは想像していたより話しやすい。五分ほどであったが居心地が悪くなることがなかった。


 のだが、私はソワソワして会話に集中できていなかった。というのも「マーブルキス」内で紺と冴が幼馴染なのが判明するのはもう少し後だった気がするのだ。

 紺に惹かれていることをなんとなく気づきながらも彼女がいるなら諦めようと葛藤したはず。毎日一緒に帰る冴を彼女だと勘違いしていたのだ。

 いや、それでも冴と紺の間に深い絆があるのを感じて諦めようとはしていたはずだし……。



「そう、私にとって紺は一番の存在。」

 とりあえず深い絆アピールをしてみる。紺がちょっと驚いてこっちを見た。珍種を見るような顔である。


「困った時は絶対助けてくれるし、今もね。」

「あっもしかして二人は付き合ってたり……?」

 とつむぎに振られて、しまった!と思う。幼馴染ということはバレたが、恋人かどうかは別である。勘違いされているほうがよかった。


「そんなわけない。」

 と紺に強く否定された。厳しい口調にちょっと傷つくほどに。

 原作の冴も言っていたが、真面目で客観的に物事を捉えられる紺にとって冴は最初に恋愛対象から外れる存在なのだ。冴と何かあるということは沙良と絶対に結ばれないことになるから。


 私は紺の返答に黙っていた。私は紺のことを好きかもと思わせた方がいい気がしたからだ。



「そっかー。でもそういう特別な存在がいるのはうらやましいな。」

 つむぎの朗らかな声のおかげで悪い空気になることもなく、ちょうどゼロファについたのでそれ以上話も広がらずでよかった。



 つむぎの今の感情を知りたい。これが少女漫画ならつむぎのモノローグでわかるのに。紺にもう惹かれ始めているのか、私と紺の関係をどう思っているのか。

 優しい表情のつむぎからは何もわからなかった。



 ・・



 お店のドアをあけると「いらっしゃいませー」と声がかかる。

 この声は……!と顔を向けるとやっぱり新だった。


「いらっしゃいませ、三名様ですか?」

「あ、私は今日からここで働く湯岡冴です。」

「私たちは湯岡さんに誘われてお茶しにきました、二人です。」


 私の後ろからひょこっと出てきたつむぎ。

 お、推しカプが会話している……!!!!!

 二人が顔を合わせるだけで体温が5度はあがった気がする。

 柔らかい雰囲気の二人はどこからどう見てもお似合いだ。並んでみると雰囲気がすごく似ているし、見ているだけで癒やされる。


「それじゃあ、お二人はこちらにどうぞ。湯岡さん後でね。」

「バイト頑張ってねー。」

 つむぎが手を振ってくれ、新が案内していく。紺は特になにもいわずついていった。こんな無愛想な男より絶対新だよ!


 推しカプの会話と、そして新が私に話しかけてくれた事実にまだ胸の高まりはおさまらない。

 こないだも店員とお客さんとしての会話はあったが、湯岡冴として認識してくれて喋ったのは初めてだ。


 推しとの会話ってこんなドキドキするものなんだ。一息ついてスタッフルームに向かった。



 ・・


 とりあえず、とにかく、つむぎと新は出会った。

 まだ紺と出会って四日、早ければ紺のことを気になっているかもしれないけど恋はまだ深まっていないはずだ。

 予想外の事も起きているけれど、紺との恋が始まる前ならチャンスは大いにある。


 つむぎと新の、漫画内のストーリーを思い出していた。

 苦しい片思いをしているつむぎに新は、俺に気持ちがなくてもいいよ、彼のかわりにしてくれていいから。俺がつむぎちゃんを笑顔にするよ。と提案。一週間だけお試しということでなかば強引に期間限定恋人になる。

 新はすごく優しくてつむぎを大切にしてくれてすごく楽しかったけどやっぱり心のなかに紺がいて……という少女漫画あるあるの展開なのだけど、そのときのつむぎは本当に楽しそうだったのだ。

 心のなかに紺がいなければ本当に幸せになれたはずだ、現につむぎはそのときのモノローグで「築山くんよりも新くんに先に出会っていれば、こんな苦しい想いをすることはなかったのかな?」と語っている。


 私はそのモノローグをもう一度頭の中で復唱した。うん、私のやっていることは正しいことなんだ。

 紺に恋に落ちる前に新と出会わせることは出来た。大丈夫、大丈夫。



 不安な気持ちを正当化しながら制服に着替えていった。

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