最終話 少女漫画のライバルに転生したので、大好きな人と結ばれます!
息をつく暇もないくらい色鮮やかなフィナーレが終わった。途端にまわりがザワザワし始めて非日常な空間が終わる。
「終わりましたね、花火。」
まだ手は重ねられたままだ。新先輩は立ち上がろうとしない。花火の余韻もあるけれど、話をしなくてはならなかった。
「まずごめん、勘違いしてました。」
新先輩はもう一度謝った。今度はみじめな気持ちにはならない謝罪だった。
「ずっと私が紺を好きだと思ってたことですか?」
「そう。よく紺のことを気にしてたし……。」
「普通に心配して見守っていたかもしれません。」
「そうなんだ……。勘違いってことはわかりました。」
新先輩はしおらしく敬語を使ってくる、可愛い。
「俺がアドバイスがきっかけで二人はお試しでも付き合うことになるし。映画のチケットも二人のデートのきっかけ作っちゃったし。」
「あ、それで私に申し訳ないと思ったんですね。」
なるほどと思って新先輩を見ると、新先輩は三角座りをして顔を膝につけた。勘違いしていたことが恥ずかしいらしい。
「冴ちゃんのことも応援したいって思ったのに、俺二人を応援しちゃってて。」
「まあ勘違いでしたしね……。別に二人を応援していいんですよ。」
「いや、そうなんだけど。俺ずるいなって。二人が付き合えばいいのにって思ったから。」
「付き合ってよかったじゃないですか。」
私が言うと、新先輩はうつむいたままため息をついた。新先輩の中ではそんな簡単な問題ではないらしい。
「結果的にはそうなんだけどさ……。」
「……?」
「俺が冴ちゃんのこと気になってるから、二人に付き合ってほしいっていう打算だったてこと。ずるいでしょ。」
新先輩は顔をあげた。自然と上目遣いになる顔は赤くてますますかわいかった。
男の人に可愛い、愛しいと思うのは変だろうか。でもその言葉しか今は見つからなかった。
「ずるくていいですよ、私は嬉しいので。」
「あのさあ……。」
また新先輩は右手で顔を覆う。「かわいすぎるでしょそれは。」
まだ理解が追いついてないけど、新先輩が私に好意を持ってくれてるということだろうか。本当に頭が追いつかない。
「ネコエモンの映画、最初断ったの、お姉ちゃんと毎年行くからじゃないんです。」
ずるいのは私も同じだ。懺悔することにする。
「えっ?」
「私も、新先輩はつむぎを好きになると思ってて……それで新先輩を諦めようと思っていました。だから映画観に行くことで好きになるのが怖くて断りました。私もずるいんです。」
「それはずるいって言わないでしょ。」
そして新先輩はカバンをゴソゴソし始める。そして何かを取り出して私の手のひらに載せた。
「これは…ネコエモンですか。」
手のひらの上にコロンと転がるこれには見覚えがある、つむぎが以前見せてくれた特典の海賊ネコエモンだ。
「これって……」
「そう。友達にもらったの嘘。自分で買った。から、これあげる。」
私と映画に行く口実でチケットを購入してくれていたということか…。私が断った時、あんなにあっさりなんともない顔をしていたのに。本心は違ったのだろうか。
「あの、これ大事にします。
それから私新先輩のこと好きになるの怖くてシフトも削っちゃって、それもずるくてごめんなさい。」
「だからそれはずるいって言わないし……。」
新先輩はまたため息をついた。呆れているわけではなさそうだけど。
「それ言われても全部かわいいだけだから。」
「そ、そうなんですか……。」
どうしよう、何を喋っても甘くなる。嬉しい気持ちが追いつかない。
「なんでつむぎちゃんのことが好きだと思ったの。」
「だってみんな私のお姉ちゃんとかつむぎが良くないですか?一緒にいて楽しいし、可愛いし。私は話もうまくないし暗いし、可愛くないですよ。」
新先輩は困ったようにうーんと唸ってから答える。
「まあつむぎちゃんがいい子なのはそう。でも冴ちゃん自分の良さに気づいてないでしょ。」
「良さですか。」
「冴ちゃんは素直だから一緒にいると楽だよ。素直でわかりやすいし。」
「紺を好きだと思ってたのに?」
私の言葉に新先輩は吹き出してそういうところがいいよねと笑った。
「私アピールしてたと思うんですが全然気づかれてませんでしたけど本当にわかりやすいんですか。」
「あはは。確かにもしかして、って期待しそうになった時もあった。でも最初の思い込みがさ……。」
私も「新先輩はつむぎを好きになるに違いない」と思い込んで暴走したから、人のことは言えなかった。
新先輩はまた真面目な顔に戻って話を続けた。
「俺はさ、冴ちゃんが言うように誰とでも仲良くなれるんだ。別に演技してるわけじゃないんだけど、接する人によって役割を変えないとって思うことがある。
この人はお話が好きだから聞き役になろうかなとか、この仲間の中ではリーダーでいないと、とか。」
「それはすごい才能ですね。」
そういうことを自然に立ち回れる才能が私にも欲しかった。お姉ちゃんやつむぎみたいに。
「別にそれで疲れるっていうわけじゃないよ。みんなが楽しく過ごせればいいと思うから。
でも俺さ、冴ちゃんといるときの自分が一番好きなんだ。」
「そうなんですか……?」
「うん、冴ちゃんといると釣られるのか、自分も一番素直でいられる。冴ちゃんは今何を考えているのかな、俺はこうすればいいかな、て余計なことを考えないでいられる。
だから、冴ちゃんは冴ちゃんでいてほしいんだ。」
すごく嬉しいことを言われた気がする。私のことを素直って言ってくれるだけで嬉しい。冷たい、何を考えているかわからない、そんなことばかり言われてきた。
心の中ではたくさんのことを考えているけど、それを表に出すことができない。でも新先輩はそれに気づいてくれて、それを肯定的に受け入れてくれている。
「あ、ありがとうございます。私も新先輩といるとずっと嬉しいんです。いつも人に伝わらないことを新先輩だけはちゃんと受け取ってくれて。」
「冴ちゃんと時間をゆっくり過ごせばみんな伝わると思うよ。」
「そうでしょうか、じゃあ頑張ります。」
これも私の思い込みなのかもしれない。私なんて、と卑下して人とあまり近づこうとしなかった。自分から近づいてみて、わかってもらう努力をしないといけないのかもしれない。新先輩が何度も肯定してくれるから、そう思える。
「あーでも……。それあんまり男にはしないでね。」
「え?」
「あのさあ…冴ちゃん自分の可愛さに気づいてないだけだからね。俺の友達も本当に可愛い可愛いっていつも言ってるし、冴ちゃんが寄せ付けてないだけで、一緒に過ごしたら好きになるって……。」
「それは買いかぶりすぎですよ。」
それは新先輩が私のことを好きだからそう思うだけだろう、でもこれはヤキモチを焼いてくれているのだろうか。そう思うと胸に甘いものが広がる。
「新先輩だっていつも女の子といるじゃないですか。」
「あれは完全に友達だから。冴ちゃんだって紺がいるじゃん。」
「それはそうですけど……。新先輩はかっこいいから、みんな好きになりますよ。」
つい拗ねた口調になってしまう。あ、これは拗ねたらダメなところだったか?と不安になって新先輩を見上げると、新先輩は私の顔を見てつぶやいた。
「本当にめちゃくちゃかわいいんだけど、やっぱり抱きしめてもいいですか?」
新先輩が困った顔で聞いてくる。恋愛経験ゼロでもわかる、私のことを好きだと思ってくれている顔だ。不安になることはない。
だって私といるときの新先輩は一番素直な新先輩らしいのだから。
「いいですけど、予告の告白、まだしてもらってないです。」
細かいことを気にしてしまったが大事なことだ。ちゃんと聞きたかった。
私への返事の前にぎゅっと抱きしめられた。顔は見えない。またあの困った顔が見たかったのに。
「本当にかわいい。冴ちゃんが好き。好きだよ。」
耳元でそう言われると悲しくないのにまた涙がぽろんとこぼれた。新先輩が私のことが好き。信じられないけど、たしかに伝えてくれた。
「彼女になってもらってもいいですか。」
「はい。実は私も新先輩のことが好きなんです。」
もう一度、新先輩の顔が見える。目が合う。困ったような嬉しいような顔がかわいい。どうしよう。
「あの、めっちゃかわいいので、私も抱きしめてもいいですか。」
「あはは、どうぞ。」
人混みの波は駅の方に進んでいて、私たちの周りは誰もいない。非日常の時間が終わっても、まだ非日常の中に取り残されている気がする。
そろそろ帰ろうかと私たちも非日常の場所から立ち上がる。
でもまた繋がれた手が熱くて、これは間違いなく現実なんだと思った。
大好きな少女漫画の世界に転生してしまった。
大好きな当て馬とヒロインに幸せになってほしくて、二人を応援するつもりだった。
でも、この話のヒロインは私だから、新先輩は当て馬なんかじゃない。
大好きな人を私だけのヒーローにしなくちゃ。
「少女漫画のライバルに転生したので、大好きな人と結ばれます!」
fin
・・・
初めて小説を書きました。読んでくださった方、評価やブクマをしてくださった方 励みになりました。ありがとうございます!
物語は完結しましたが、その後の新と冴や紺とつむぎはいつか書きたいです。
新作連載も書き始めました。異世界ファンタジーですが、また推しキャラの為に頑張るヒロインなのでよければ読んでいただけると嬉しいです。
ありがとうございました。




