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26 告白の失敗とスターマイン

 

 映画から一週間ほどたった日、私は浴衣姿で新先輩のことを待っていた。そう、今日のデートはお祭り、そして花火大会だった。

 先日の花火大会はフェスのおまけだが、今回のは隣の市で開催されるそれなりに有名な花火大会だ。時間も打ち上がる数も比にならない。


 新先輩は今日も午前バイトに入っていたので、現地の駅で待ち合わせをしていた。



 先週、思わずまたデートしたいと言ってしまったが、すぐに花火大会の提案をしてくれた。


 前回に続いて二回目のデートだ。新先輩がどういうつもりでデートをしてくれるのかはわからない。

 私にとってはデートなんて生まれて初めてのものだけど、新先輩にとっては女の子と出かけることは気軽なものだと思う。

 私が知らないところで昨日だって、一昨日だって、もしかしたら女の子と遊んでいたのかも。


 デートしたら、その後はどうするんだろう。

 恋愛初心者すぎるから、次の行動もわからない。それから今は「一緒にいたい。」という感情しかわからなかった。


「彼女になる」というのは一体どういう事なんだろう。

 今日告白をしてみようか。告白したらどうなるのかわからない。でも、気持ちを伝えてみたいとも思った。



 ぐるぐる考えていると、待ち合わせ場所に新先輩がやってきた。



「おまたせ。わ、浴衣かわいい。」

「あ、ありがとうございます。」


 気合いを入れすぎていないかと気恥ずかしかったが、新先輩が褒めてくれたのでヨシとする。


「じゃあ会場に行こうか。」


 時間は五時。開始時刻の七時まではまだ時間がある。

 それまでは出店を楽しむことにしていた。


「私かき氷食べたいです。」

「いいねー。あ、あそこの唐揚げも買っていこ。」


 先日のフェスはバタバタしていたけど、今日は楽しむ余裕がある。また違った雰囲気のお祭りで心が踊る。



 ・・


 いくつか食べ物と飲み物を買って、開始三十分前には土手の近くについていた。

 またメイン会場から少し離れた場所に私たちは座った。今日はビニールシートも持参している。


「ここだとナイアガラは見えないかも、大丈夫?」

「はい。これくらい落ち着いているところのほうがいいてわす。」


 ビニールシートに食べ物を並べて準備万端だ。いつ始まってもいい。外も徐々に薄暗くなっていく。


「そういえば今日紺とつむぎも来てるみたいですよ。」

「そうなんだ。」

 新先輩はそう言った後、少し考えてから続けた。



「二人はお試しで付き合ってるんだよね。」

「でも順調そうじゃないですか?紺もなんだかんだ受け入れていますし。」


 あの日タルトを受け取りに行った時に、紺にデートの感想を聞いてみた。別に普通、と答えた声が柔らかかった。

 そしてまた花火大会にも来ている。紺は人混みはあまり好きではないはずだ。それでもつむぎが望むなら来ている。

紺の恋愛感情の有無はわからないが、つむぎとの恋人関係は気に入っていると思うんだけど。



「俺がさ、お試しとかどうかなって言っちゃったんだ。」


 暗い声で新先輩が切り出した。


「お試しでも付き合ってみたら紺も意識するかなって。紺も無意識につむぎちゃんに癒やされてると思って。」



 そういえば原作で、つむぎに新先輩は提案していた。俺とお試しで付き合ってみないかと。紺に気持ちがあるままでいい。少しでも忘れられるなら。少しでも意識してもらえるなら。



 心臓が嫌な感じでバクバクする。もう一度新先輩を見るが、やはり暗い表情をしている。


 もうつむぎのことを好きになったのに、優しすぎるから背中を押してしまったのだろうか。


「そうだったんですね。」


 なんと言っていいかわからず私の声も暗くなってしまった。



 そのまま黙っているとしばらくして



「……本当にごめん。冴ちゃんの気持ち考えられなくて。」



 新先輩は突然私に謝ってきた。……私の気持ち?考えられない……。

 つまり……告白する前に振られてしまったみたいだ。



「あの、私の気持ち、気づいちゃってましたか。」

「……初めて二人がケーキを食べに来た時にね。」

「えっ…と、紺とつむぎがケーキ食べに来た時ですか?」

「うん。」


 というと私の初出勤日だ。

 新先輩が教育係になってずっとついてくれていた。目の前の推しキャラに興奮して好意が漏れ出てしまっていたようだ。



「それなのに俺がずるくてごめん。」

「ずるい……。」


 こうして謝られると悲しくなる。振るつもりなのにデートをしていること、ずるいと思っているのだろうか。

 私は少しでも一緒にいられたならそれでいいのだから、謝らないでほしい。ずるいのはこちらだって同じだ。


「謝らないでください。悲しくなります。」


 それ以上、言葉も見つからなかった。新先輩の顔は怖くて見れない。沈黙が続く。



「あの、でも…嬉しかったです。映画とか、今日の花火も新先輩が一緒にいってくれて。」


 それだけは伝えたかった。ずるくはない、私は嬉しかったのだから。

 ……私もつむぎみたいにお試しでいいから付き合ってもらえないか提案してみようか。隣にいるだけで嬉しいのだから。



「全然いいよ。それで気持ちが楽になるなら。」

「楽…?ですか。」

「なんなら俺たちもお試しで付き合ってみる?俺一緒にどこにでも行くし。」

「……」

 


 新先輩の顔を見る。いたって真面目な顔をしているがふつふつと怒りがわいてきた。



「そこで新先輩がお試しっていうのはちょっと私に失礼じゃないですか?」


  お試しでいいから付き合ってほしいとは私も思ったけど、新先輩がそういうのはさすがに傲慢じゃないか?



「私だってお試しでもいいから付き合いたいですし、可能性があるんならお試しだっていいです。でも振った後すぐにそんなこと言うのは優しさじゃないですよ。」


 悔しくて言葉と一緒に涙がぽろんと出てしまった。告白もさせてもらえないのに、振ってすぐお試しならいいよ、なんて。

 私は初めての恋なのに。そんな風にすぐに割り切れない。



 新先輩は私を見つめている。私が怒ってしまったから驚いているようにも見える。


「ごめん、」

「謝らないでください、更にみじめになります。」

「いや……」


 新先輩は少しだけ思案してから続けた。


「振ったって誰が?」

「えっ…?」


 質問の意図がよくわからない。困惑していると新先輩も同じく不思議そうな顔をしている。


「ごめん、ちょっと整理していい?混乱してる。」


 混乱しているのはこちらの方だ。


「冴ちゃんは紺のことが好きなんじゃないの?」

「え、紺?」


 突然紺の名前が出てきてさらに混乱する。


「なんで紺が出てくるんですか?」

 と聞くと、新先輩は右手を顔で覆ってうつむいた。うわーという声が聞こえる。数秒で顔を上げる、少し顔が赤い。



「ごめん、勘違いしてた。」

「紺を好きだと思ってたんですか?」

「はい。」

「本当に1ミリも恋愛感情ないですよ。」

「そのようですね。」


 私は涙も引っ込んで答えた。私の表情を見て紺のことが好きじゃないのは伝わったらしい。



「それでもう一つ勘違いしてるかもしれないんだけど。」

「はい。」

「今の話から考えると、冴ちゃんは俺に振られたと思ったの?」


 今度は私が赤くなる番だった。勘違いから来る流れで気持ちを暴露してしまった。告白できたらいいなと思っていたけどこんな告白になるなんて。



「あの、そうやって赤くなると抱きしめたくなるんですけど。」


 そしてまたさらに混乱させる言葉が聞こえて、うつむいてた顔を勢いよくあげる。新先輩の顔が見える。新先輩はなぜか少し嬉しそうだ。


「えっと……?どういう…」


 混乱したまま聞こうとすると、大きな音がした。花火が始まってしまったようだ。


「花火が終わったら、冴ちゃんに告白してもいい?」

「えっ!?」


 どういうことかすぐに聞きたかったが、花火の爆音でとても話ができる状態ではない。それに……告白……?抱きしめる?

 もしかして振られていない……?どころか、告白……?


 新先輩を見ると、いつもの笑顔を向けてくれる。……勘違いしちゃっていいのだろうか。


 隣に並んだ手が触れる。そのまま手を重ねられた。不安が徐々に消えていく。

 疑問はあとで答え合わせしよう、今はこの手の熱さを信じていたかった。

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