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24 ヒロインたちのデート

 


 翌日、約束通り十時につむぎは我が家にやってきた。その後三人でどこか食べに出かける流れだった……が、


「あれ、築山くんもう来てたの。」


 紺とはお昼の時間に集まる予定だったが、暇だからとつむぎが来る少し前にやってきてリビングのソファに寝転んで漫画を読んでいる。


「おはよ。」


 紺はくつろいだままつむぎを迎える。マイペースなのはいいが、つむぎと恋人になってから初めて会うにしては緊張感のないやつだ。


「本当に仲良しだよね、二人は。」


 キッチンで飲み物を用意しているとつむぎがやってきて手土産を渡してくれる。よく考えると二人は一応恋人なわけだし、こうやって紺が家に来て、私と二人きりになるのはもう断ったほうがいいかもしれない。私たちはお互い恋人がいたことがなければヤキモチをやかれたことも今までなかったので気にすることはなかったが。


「あ、別に二人はそのままでいてくれて大丈夫だから。嫌味とかじゃなかったの、ごめん。」


 私の気持ちが読めたのか、つむぎは小声で付け加えた。


「隣に住めていいなあとは思ってるけど、二人の距離感わかってるから。家族みたいなものだし。」

「うーん、イトコくらいな感じだとは思うけどね。」


 他の人より特別なことは確かだが、恋人に……もし新先輩が彼氏になってくれて嫌な気持ちにさせるくらいなら……全然紺とは二人で会わなくてもよかった。そもそもそんな頻繁に遊ぶことはない。本当に家族未満友達以上の存在だ。


「二人にたいしてヤキモチとかはない!から。あっでもこのおうちにくるとお姉さんにも会うことあるのかあ。」

「お姉ちゃん忙しくてそんな会うことないけど。」


 離れた場所にいる紺はのんびり漫画をめくっている。紺はお姉ちゃんに長年片思いをして健気にケーキを差し入れたりはするが、積極的に会おうとはしていないと思う。ケーキに関してもお姉ちゃんが喜ぶ顔が見たいからしているだけで、会いたいとか自分をよく見せたいといった感情はないと思う。


 それに私個人としては、お姉ちゃんがいるときのすました表情をしている紺より、こうやってリラックスしている紺の方がずっといい。


 私とつむぎもリビングに移動してソファに腰掛ける。紺がひとつのソファを占領しているので、私とつむぎはもう一つのソファに二人で座った。



「お昼は○○駅でもいいかな?色々ご飯できそうなところあるし、近いし。」

 ソファの前のローテーブルに、オレンジジュースのグラスを並べながら私は切り出した。


「実はこの後、新先輩と映画観に行くことになって。」

「わ、ほんと!」


 つむぎが嬉しそうに手を口でおさえる。紺もこれには反応して漫画に集中するのをやめて私の方を見た。


「新先輩と映画?」

「うん、昨日誘ってみた。バイト終わった後に○○駅に来てくれるみたいだから、どう?」

「それはいいけど……なんで誘ったの。」

「なんでって、それは私が新先輩のことが好きだからだけど。」

「え、そうなんだ。」

 私の突然の告白に紺は普通に驚いていた。鈍感な紺が私の気持ちに気付いているとは思っていなかった。



「よかったねえ…!!!映画何時から?」

「二時に待ち合わせしてる。」

「じゃあ○○駅でランチしてたらちょうどいいね。私○○駅初めてなんだ、何があるかなーお店。」

「結構色々あるよ。」

「あ、このお店とかおいしそうじゃない?」


 私とつむぎがどのお店がおいしそうか、インスタのタグ巡りをし始める頃には、紺はもう興味なさげに漫画に戻っていた。



 何軒か候補を決めてふとつむぎを見る。


「今日なんかつむぎかわいいね。」


 よく見ると髪の毛はくるくるふわふわになっている。元からくせ毛のつむぎだが、丁寧に巻いているのがわかる。お化粧もしているし、服もすごくかわいい。


「変じゃないかな?」


 そういえば、デートだ!映画デートの日のつむぎは見ていないし先日の花火大会はバイトの延長だ。紺のために可愛くしているつむぎに見るのは初めてだ。



「すごいかわいいよ!ね、紺!」

 紺の方を向くと、紺はこちらの方を見ていた。漫画を読みながらも私たちの会話には耳を傾けているらしい。


「うん。」

 紺は一言だけだが肯定した。まっすぐつむぎを見ていた。すぐにまた漫画に戻っていったが、つむぎの顔は少し赤くなった。紺は嘘だけはつかない。それはつむぎもわかっているだろう。


 初々しい二人に挟まっていていいものか、私は部屋にこもってやろうか、なんて考えてしまうほど。お試しとはいうけど二人に流れる空気は少し甘い。



「冴は?新先輩と今日デートなんだよね。」

「うん。でもあんまり化粧うまくないし、髪の毛も短いから。」


 つむぎみたいに柔らかくて長い髪の毛ならアレンジもできるが、私は硬い髪質のボブだ。


「じゃあ今日は外ハネにしてみるのは?コテかアイロンがあれば私やるよ。」

「お姉ちゃんのがあると思う。」

「私髪の毛いじるの結構得意なの!やらせてやらせて!」

「ほんと?」


 その場でつむぎのヘアメイクが始まった。紺は意外と興味深そうにこちらを見ている。私も紺も話が下手だからあんまり会話には参加しないがその場の空気を楽しむのは好きだ。一人が好きというわけではない。


 暇だからとやってきた紺だけど、つむぎといる空間がきっと好きなんだろう。そうじゃなければ約束の時間前に来るわけ無い、きっとそうだ。


 つむぎはいつもニコニコしててそばにいるだけで柔らかい気持ちになる。たくさん話してくれて、私と紺の下手な会話にもたくさん笑ってくれる。

 今も私のことなのに、すごく楽しそうにコテを巻いてくれている。



「はい、出来た!かわいい!」

「すごい、おしゃれな感じする!」

 前下がりボブから、流行りの外ハネになっている。


「ほんと似合う!かわいい!」

「ありがとう。」

「楽しみだね、新先輩に見せるの。」


 そのままつむぎは簡単にメイクもしてくれて、ランチに出かけるまでの時間はあっという間に楽しく過ぎていった。



 ・・・


 インスタで見た目がかわいくて選んだお店は、ランチも美味しくて大満足で私たち三人はお店から出てきた。

 紺には少し物足りないくらいの量のワンプレートランチだったが、デザートにケーキと甘いドリンクをつけていたのでお腹も心も満たされたらしい。


「美味しかったね、また来たい。」

 そう言いながらつむぎはスマホを取り出して、時間を確認する。

「一時半かあ、冴たちはどこで待ち合わせしてるの?」


「駅前。つむぎ達はどうするの?」

「あー…。」

「どこもいくとこはない。」



 私がお昼から退散する作戦ではあったが、明確につむぎと紺はその後を約束していたわけじゃない。ご飯もデザートも終えてしまったわけだし解散となってもおかしくない。この後二人がどこかへ出かけるように何かアシストするべきか。しかしデート経験ゼロの私にいいネタはない。



「なんもないならうちでも来る?」


 紺はさらっとつむぎに言った。じゃあ帰るかと言われることも覚悟していたつむぎはパッと顔が明るくなる。


「いいの、いく!」

「まあうちきても何もないけど。」

「いいよ、築山くんと話せたら嬉しいし!」


 最初からおうちデートなんてハードル高いところを選んてきたが、紺は何も考えていなさそうだ。もちろん下心もないだろう。でもどこに行くか悩んで歩き回るよりかはゆっくり過ごせそうだし、紺らしいとも思える提案だ。



「じゃあケーキでも買って行こうよ。築山くんまだ食べられるでしょ、私お腹いっぱいでさっきは食べられなかったから。」

「いいね。」


 つむぎの提案は紺にとってかなり魅力的だ。つむぎはスマホを操作して「このお店はどう?」と私たちに見せた。歩いて五分の場所だし美味しそうだ。

 新先輩との約束の時間はまだあるので私も一緒についていくことにした。



 ・・


 フルーツがたくさん載った宝石みたいなタルトを購入してごきげんで私たちは駅についた。見ていると食べたくなってしまったので私の分も買った。紺に持って帰ってもらって夜に受け取るのだ。



「ちょうど二時になるね。」


 駅のロータリーにある時計を見上げる。この時計は待ち合わせの目印にもなるので、待ち合わせらしき人も何人かいた。


「多分そろそろ来ると思うし、二人はもう帰って大丈夫だよ。」


 と私が言い終えたのとほぼ同時に、「冴ちゃん」という声が聞こえた。

 私たち三人が振り返ると小走りで新先輩が向かってくるのが見えた。


「あれ、つむぎちゃんと紺もいたの。」

「お昼までは私たちと遊んでたんです。」

 つむぎが答えて、紺も小さく頭を下げる。


「今から二人はデートなんですよ。」

「デート?」


「あ、言っていいのかな?」と私が聞くと二人は頷いた。「二人付き合ったんです。」


「へええ!おめでとう!」


 新先輩は目を丸くしてすごく驚いたようだ。つむぎの顔がまた赤くなる。紺は特に何も言わないけど、お試しと付け加えることもない、やっぱりまんざらでもないじゃないか?



「じゃあ二人は楽しんで。」


 紺はまたペコリと頭を下げるとつむぎに目配せして改札の方に歩き出す。


「じゃあまたバイトでねー!ばいばーい!」

 つむぎもそのまま紺と並んで改札に向かった。


 こうして隣に並んでいるのを見るとやっぱりお似合いに思えた。つむぎが何か話しかけて、紺はつむぎのことを優しく見ている。

 つむぎが早く、私と紺もバイトを始めたことで、運命はやはり変わっているのかもしれない。



 二人が見えなくなるまで見守っていると、「付き合ったんだ…?」と新先輩はまだ驚いているようだった。


「いいですよねえ……。」


しみじみつぶやくと、新先輩はいつになく真面目な顔をしていた。もしかしてショックを受けているのだろうか。二人が付き合ったことに。つむぎのことが……とまた考えてしまいそうになり頭を振る。今日はそういうことは考えない。


「あ、映画館行きましょうか。すぐ始まっちゃうかも。」


 時計を見上げるとあと十五分ほどで始まりそうだ。


紺とつむぎの運命も変わってる。不安になりすぎない。今日は映画を楽しもう……!


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