02 推しカプ成就作戦始動
まず目標と現状を考えてみよう。
リビングのソファでゴロゴロしながら「マーブルキス」のあらすじを復習していた私は棚からシャーペンとノートを取り出してダイニングテーブルに座った。
目標:推しカプ成立。紺とつむぎカプ阻止。 と大きく書いた。
現状:
つむぎと紺は出会ったばかり、つむぎは紺をまだ好きではない。
つむぎと新はまだ出会っていない。
紺は沙良が好き。
冴は紺に恋をしていない。
とここまで書いたとき「ただいまー」と声がきこえてノートを急いで片付ける。
「おかえり」
「高校どうだった?はい、お疲れのプリン。」
お姉ちゃんはコンビニのプリンを渡してくれる。大学生になる姉は五歳下の私をかわいがって甘やかしてくれる。
「中学同じ子そんないなかった。」
「まあ高校ちょっと遠いしね。紺とは違うクラス?」
「うん、三組と五組。」
「紺と一緒ならよかったのにねー」
少女漫画あるある隣の家の幼馴染設定が、例に漏れず今回も使われていて私と紺はおとなりさんだ。
少女漫画あるある親同士が仲いい、も採用されていて、紺は幼い頃からよく遊んでいた。
紺に聞いたこともないし、言われたこともないけど、紺のお姉ちゃんへの恋心は明確だった。
これまた少女漫画あるある設定で、ヒロインの壁となる沙良お姉ちゃんはもちろん美人だし、コミュニケーション能力に欠点がある私と違って、あるゆる方面でパーフェクトだ。誰からも好かれているけどいやみがなく親しみやすい。
ヒロインに立ちふさがる敵として、私が序盤の雑魚敵だとしたら完全にラスボス級。
幼い頃から近くに沙良お姉ちゃんがいるのは紺にとっても不幸でもある。女神を超えられる存在が同年代にひとりもいるわけがない。
新とつむぎのカプを応援する者としては、お姉ちゃんと紺が結ばれるのがいいのだけど二人が結ばれることは原作ではない。五歳年下で赤ちゃんの頃から知っている紺は弟としか思えないようだ。
そして高校の時から付き合っている彼氏がいて、紺がアピールしたとしても全く揺らぐことはないだろう。
紺は紺で、ヘタレだし、そもそもきれいで美しい恋心を大事に大事に持っていてそれを誇りに思ってすらいるものだから告白して玉砕するつもりもない。
この紺のピカピカにしまい込んでいる宝物みたいな片思いが続くぶん、つむぎの苦い恋は続き、そのどうしようもない切なさが「マーブルキス」が人気の理由なのだ。
「じゃあバイト行ってくるね」
また頭の中の考えにどっぷり浸かっていた私に、お姉ちゃんは声をかけてさっさと出かけてしまった。
「バイト…」そして思いついた。
「つむぎが紺に恋する前に、新と出会わせたらいいんだ…!」
・・
新とつむぎの出会いはアルバイトだ。
出会いから季節が変わった夏につむぎはバイトを始め、そのバイト先の1歳上の先輩が新だ。そしてバイト先ではなく学校も同じことが判明し、距離が縮まっていく。
時系列を思い返してみる、つむぎの紺への恋を自覚する話はいつだったか。紺とつむぎが推しカプじゃないから細かい部分を覚えていないが、2巻くらいで恋心に気づいていたと思う。新と出会った時には既に恋していたはずだ。多分4巻の表紙が新だった。
新とつむぎの出会いはよく覚えている。夏休み、新のバイト先のカフェがマルシェに出店した。イベント出店は人手が足りないからと、友人に誘われ一日お手伝いをしたつむぎはそのまま正式採用される。
逆に言うときっかけを与えればつむぎはバイトを始めるはずだ。バイトイベントを早めに起こすためには、友人に早く誘ってもらわないといけない。
たしかつむぎのグループのひとり、名前は覚えていないがショートカットの子だったはず....しかし、その子につむぎを誘ってもらうにはどうしたらいいんだろう。接点が全くない。つむぎのクラスの知り合いは紺しかいない。
ショートカットちゃんはもうバイトを始めているんだろうか。始めていなければどうしようもないが、入学早々働いていなさそうだ。
そもそも新はいつから始めたんだろう。つむぎと初対面する夏休みの時点では先輩として働いていたが。
とにかく夏の時点でつむぎはもう紺のことが好きだ。なるべく早くつむぎと新を引き合わせる必要がある。
作戦ノートに、
「作戦①紺に恋に落ちるまでに新と出会わせる」と書き込んだ。




