世界設定、大体分かった。つまりここは未知の世界って事なんだな(思考放棄)
「そもそも俺クシさんはこのゲームのことを何処まで知ってんの?」
「あー……戦闘関連のが大半であとはさっき実際にプレイして得た情報くらい」
「脳筋じゃん。ウケるw」
「……そう言う湯湯婆さんは、」
「ユーたん」
「え? なんと?」
「ユーたんって、この状態の時は呼んで欲しいなーって」
「………………」
「……そのお面、すっーーごい高かったなァール」
「ユーたんはどれくらいやってるんですか」
フレンド申請を受諾した俺は早速、儀礼のお面を貰い装着した。
その効果により今の俺は現実での喋り方に近い口調で話せている訳だが……実に快適だ。
自分が話した内容に自分でツッコミを入れたり、困惑したり、外付け語彙力に脳の容量を圧迫される事がなく普通に会話して普通に喋れる。
この4時間でその凄さを体感したよ。
だからソロプレイヤーして行くんだーってほざいていたクセに厚かましく図々しくお面を貰った事で湯湯婆さんに多大なる恩義と罪悪感を感じてしまっている。
アイテムのためにフレンドになったと思うと更に辛くなる。
ネカマプレイを嬉々として行なっている変態性を受け入れてそれに付き合えるぐらいには負い目がある。
「んーと、大体1年半近くかなぁー。VRゲーム自体が高くって申請とか、諸々の登録に手間取って、んでその当時ちょーど仕事が忙しかったから発売日から1年経ってようやく始められたって感じアルYO」
ASSが出てから今年で3年目になる。
周年記念日は俺の初配信の1ヶ月前に行われてその盛り上がりからあの課金パックを出したんだからそりゃあ色々荒れるわな……つまり湯湯婆さんはそれ以前からやってて俺の先輩に当たるわけだが。
「アんシは去年で三十路を迎えたけど俺クシさんは?」
「43だね」
「なら俺クシさんのが先輩ってことになるアルね。先輩」
「ゲームに歳は関係ないと思うんだが」
ゲームの中で行う年の差マウント程虚しい物はない。
現実と違って年齢が尊重されるのではなくプレイ時間と実力で人権が得られるからだ。
コミュ力は現実でも必要とされるスキルなので持っている事前提である。
人格は知らん。
人それぞれだろ煽り厨は処すが。
「取り敢えず話を戻して、俺クシさんが戦闘くらいしかマトモな情報がないって事YOね?」
「それ関連で得られたのもあるけど……まあ概ねそうなるな」
「なら、まずは基本をおさらいしYOーう。どの辺まで覚えてるの俺クシさん」
「えっとあそこら辺まで?」
数時間前のあのクソ長プロローグを記憶の底から復元する。
と言うかあのプロローグに基本となる情報なんてあったか?
ーー2
『君は宇宙飛行士。数多にある惑星の一つ地球に住む君たち人類は、何千年の歴史を経て遂に科学は惑星の外に行くだけでなく何光年先の別の惑星へと人を送り出せるほどに発展した技術を持ち、それは超科学と呼べる代物になっていた。しかし宇宙に進出する宇宙船に乗れる人員は限られており、その限りない人員の中から特に環境適応能力に優れていた君がその宇宙飛行士の一員に選ばれた。だが幸運はそこで尽きてしまった。君は火星探索の道のりで突如発生したブラックホールに宇宙船が飲み込まれ、気が付いたらこの謎の星にいた。自然に溢れた光景は明らかに火星の環境ではない事はすぐに理解し、君は状況を解明すべく歩き出した。しかしそんな君の前に獰猛な生物が襲いかかって来た! いやこれは生物なのか? 地球では決して見られない不可解な形容の生物を前に固まる君に容赦なく襲いに来る未知の生物。命かながら逃げ切った君は次に顔を上げた瞬間、目にしたのは────人類文明だった。
君はこの世界を歩く1生命体。そして、他の生命と共にこの世界に生きる隣人である。
これは別の世界に迷い込んだ君が隣人と出会い別れ、そして数々の試練を乗り越えて故郷の地球に帰還する物語である。』
「うん、やっぱ長い!」
ーー3
結局全部を思い出せなかった俺はメニュー画面からヘルプの項目を選択してそこからこのプロローグを探り出し、読んでいた。
だが、新発見した情報も見つからず、意味深な物だって未知の生物ってだけだがそれはこの先明かされるのだろう。
と言うか、プロローグで語っている人類文明は最初の街なのだがそこの住人に話しかけて伺ったところモンスターと言っていた。
だから俺はモンスターと呼んでいたのだけど、もしかしてつまりそう言う事なのか?
「別の惑星だとしたら地球で生み出されたモンスターって単語や言語が通じる事に不可解に思ったけど……仮にここがパラレルワールドの地球とかだったりするならその違和感にも納得が行く……っ!」
「違うアル」
「違うんかい。てかネタバレッ」
なんだぁ?
それっぽい考察を出したところ否定されて、ついでにネタバレに近しい事されたぞ。今後パラレルワールドとか関係なくなってくるじゃないかそれだと。
「目の付け所が違うのよ。最初に注目するところは宇宙船なのYO」
「……そう言えば宇宙船無かったね」
2回目の配信の時、チュートリアルをしていた筈だがスタート地点では近くにそれらしき物を見かけなかった記憶がある。
「それに、チュートリアルの内容と文章の内容が異なってるのも気にならないアル?」
「確かに」
チュートリアルでは虚空に文字が表示されると言う実際に見ると面白い現象の指示に従っていたが、プロローグでは逃げたと書かれていた。
言われてみれば確かに矛盾している。
「その2つが気になった先人プレイヤーは攻略組と考察組のガチ勢の集まりを結成し、半年程で解明したんだけどぉ……ここから先、マヂのネタバレするんだけどOK?」
「え、え? マジのネタバレとは?」
「マヂのネタバレ」
「えぇ……」
マジのネタバレってどう言う事なのか、言葉としてちょっとおかしいようなおかしくないような困惑する言い方なんだが。
要するにゲームの根本にまつわる話と言うことだろうか。
「……気になる……だけどそう言うのは自分で確かめたいって気持ちもあるしなぁ」
「俺クシさんが求める装備にも関連アル話だけど」
「詳しく聞きたい。是非とも話して下さい」
感情<欲望
俺は私情に囚われない。
己の欲しい物なら取れる限りの手段を取って、そしてその後で後悔するんだ。
手の平クルクルしてるが今だって言った後で後悔してるよ。
「まず、この世界には知的生命体に干渉し、知識と文明を再現する種族────クリエイターとゆうのが存在しているんアル」
「クリエイター……」
「想う像で想像と言う字に種が付いて想像種ってゆーのをあるプレイヤーがカッコよく言い換えたのがクリエイターアルね」
「非公式名なのか……」
確かにクリエイターのがカッコいいし覚えやすいが、勝手に改名された感じになって運営はどう思っているのだろうか。
少なくとも俺は嫌だなぁー。
「それで、そのクリエイターと……基礎?でいいんだよね。それとなんの関係が?」
「クリエイターは"知識と文明を再現する"。今見てるこの人類文明、たまたま不時着した場所にたまたま繁栄していたなんてのは都合が良すぎる……っしyo?」
「つまり、クリエイターが俺たちプレイヤーに干渉して人の知識を獲得した上で人類の文明を再現したって事なのか」
「そう! これはストーリー20章のレベル90のボスが話す事実なんアル。で、これが基礎の世界設定ネ」
「なるほど……だけどそれなら宇宙船の下りはどうなるんだ?」
世界設定は分かったが、話した内容だと宇宙船がない理由には繋がらない。
いやまあ、何らかの原因で操縦席から放り出されて別々に落ちたって可能性もあるんだが、その場合だと落下時にお亡くなりになってるはずだが人間。
「ちょー簡単な話アル。宇宙船を基盤に人類文明を触れて学んだからアル」
「雑に片付けたね。にしてもよくブラックホールに飲み込まれて形保てたな宇宙船もこの体も」
「あっ、そこも20章で明らかになるんだけど、この世界に来る前に既に亡骸になってたんだけどクリエイターが宇宙船と一緒にその亡骸も干渉してて、んで人間を作る前段階に練習ついでにソイツの知識から理想像を亡骸を分解して再現したのがアんシらのプレイヤーアバター設定なんYO」
「……すっごいネタバレに情報量。しかも改造人間って事になるのか作り変えたとなるなら」
ついで感覚で蘇生した上で俺らのキャラクリ通りに体を作り変えてるとか神にも等しいじゃないかクリエイター。
「……と、前振りはここまでで、この先が本題アル」
「前振りだったのか今さっきの話は」
「あくまで"基礎"だからYO」
湯湯婆さんはそう言った後、ゆったりした歩きで1歩、2歩、と数歩くらいかけて俺の目の前に移動した。
そして、小馬鹿にしたような扇状的なあざとい微笑みとポーズを取って彼は問いかける。
「SF装備、キョーミなぁい?」
「────っ!」
ーー
これは俺がASSを始める数ヶ月前のアプデで追加された新コンテンツ。
「現代の機械工学にゲームだからできる空想的技術が合わさった結果……何々? SF機械を作れるようになった……まとめるとこう言う事かな?」
俺は今、湯湯婆さんから聞いた情報の整合性と整理のためにASS関連の記事を漁っていた。
「ふむ……確かにこれなら変形させる事はできるな。……ただ……デカいな」
百聞は一見にしかず。
文字を見てるだけでは具体像が思い付かないので投稿されている画像からどんなもんかと見ていたが……俺が望むパワードスーツはほとんどなく、ガン○ムみたいな巨大ロボットが大多数を占めていた。
と言うのも、このゲームなんか巨大ロボットバトルを全面的に押し出していてそれ専用のルームも用意してるんだとか。
その影響で人並みの大きさのが皆無。
検索ワードを色々変えて検索してもあるのはプレイヤーが改造した失敗品だけ。
ロボットに使われる部品を無理やり小さく加工して改造したが本来の性能と変形機能を失った動くガラクタと、画像のリンクから飛んでその画像の研究記事を見た俺はそう評す投稿主のコメントに頷いた。だって尤もなんだよ書いてる事が。
「でも、手掛かりはこれだけなのも確か……急にアダムとの戦闘イベントが発生する訳でもなさそうだし、これを主軸に思考していくか……」
ロボット関連のコンテンツを扱うにはいくつか条件がある。
・レベル50以上
・ジョブが機械技師である事
・ロボット制作のための工房を所持している事
これらの条件が揃って初めてSF技術に触れる。
しかし俺はこの3つのうち、どれも満たしていない。
レベルは時間の問題だが、工房はすぐに手に入れられる物でもなさそうだし、なによりジョブを変えれない枷をつけられている俺では機械技師のジョブを取得出来ない。
「はぁ……どうしたもんか……」
リセットしようかと思ったが、そもそもあのアバターになったからアダムとのイベントが発生しただろうし。
装備を捨てるとか売るとかも考えたけどかなり勿体無い。
アダムがどう言った条件で現れるのか、それが分からない以上、最終的な目的であるアイツのとの再戦チャンスを自ら手放すのは愚策だ。
だからリセットや売却は前提から無くす。
だが、それだと機械技師ジョブに変えれない行き詰まりに打ち当たる……一応解決法はなくはないけど前例がないから失敗に終わるかもしれない。
「誰かに一回預けてその間にジョブを変更する。装備が原因だとしてそれが手元に無ければ強制力は働かないはず」
問題は件の装備を渡せられるか、だ。
これも過程だけどワンチャン他プレイヤーに渡せない可能性がある。試してないから確証はないけど。
だからもう一つの案、『誰かに代行してもらう』。
これが現状では最善なのだが……。
「湯湯婆さんとスケジュール合わせられるかなぁ……」
俺は無職だが相手は社会人だ。ちゃんと仕事をしている。
いつでも遊び呆けられる俺と違って湯湯婆さんは仕事に追われる身なのだ。なのに俺の都合に付き合って無駄に苦労を掛けさせるわけにはいかない。
ましてや湯湯婆さんのゲーム進行の邪魔をしたくない。
そう言うわけで自分で解決する他ない。
「……まずはレベルだな。明日、レベリングしながら考えようかな」
とりあえず眠い。
自分のライブ配信の中からアイツとの戦闘を切り抜く作業と編集に手間取って結構時間かかった。そこから調べ事をしていたので今は深夜1時ほどなわけだが、とにかく眠い。
不健康はゲームの天敵。
この前みたいに強制退出されたくないから充分な睡眠を取るべく、ベットに向かおうとしたその時。
「ASSからの……通知?」
データを連動していればログアウトしていても別の端末からASSに触れる。最も、その場合はゲーム側の通知だけでゲームをプレイできないが。
にしてもこんな真夜中になんの知らせかと、最後にこれを見てから寝ようと通知を開いた。
『湯湯婆から。
ーーー
明日暇ですか?暇ですよね。
貯めてた有給を使って僕は明日から3週間は暇ですので俺クシさんが良ければしばらくの間、手伝いましょうか?』
※長文なので読み飛ばし推奨
《補足》 part1 ASS
VRの設定は既存の既に出回っている設定を参照するとして、Another Space Simulation 通称ASSは元は別惑星を探索する時のために如何なる状況にも適切な行動を行えるようにN○SAが作り出した脳内シミュレーション仮想体験装置がなんやかんやあって一般社会に流出してしまった物である。
一応理由として資金集めやより多くの観察データを得たいとかそれっぽいのはあるけど作者の頭が足りなかったので「そう言う物だから」「皆さんのご想像にお任せします」で濁させて頂きますね。
《補足》 part2 アダムルート
アダムのイベント発生には、
・ジョブが「聖女」
・主人公さんが装備している防具
・果樹園のボスと対峙する
が条件です。
特に制限とか無いので条件を満たしていれば誰でもアダムイベントを発生できる。
だけど例えばこちらのレベルがMAXならアダムもそれに合わせてレベルが上がるし、スキルも相応に整ってくる。
何より厄介なのはAIの賢さも上がり、対戦相手を徹底的にメタりに来ること。のでアダムに勝つだけなら低レベルのが良いのだがそうすると別の敵を相手にする場合、レベル差で押し負けてしまう可能性が出てくる。
とても悪趣味なシステムをしているが有効策がない訳でも無い。
その一つがアダムの戦闘スタイルの元となった近接戦ビルドである。
具体的には言えないけど抽象的に例えるならインフルにかかった状態で全裸で人の頭上を往復タップダンスする感じのビルドです。