最初の仮面
今回は短いです。
手抜き執筆ですみません。
「装備品は鍛治職の方達でしか出来なのはご存知でッスわと思いまッスが……それをどうにか出来る手段は無いかと今は模索しておりまッスの」
コーヒーとは何なのか。
黒くて苦くて渋い匂いがするのがコーヒーなのか、それともコーヒー豆を使った飲み物がコーヒーなのか、カフェインが入ってる物なのか。
まあどうでもいいや。
俺はコーヒーは微糖派だが、このゲームにおけるコーヒーは無糖みたいだ。いや、今飲んでるのがコーヒーに似てるだけでコーヒーとは限らないが……湯湯婆さんが迷惑をかけたお詫びに買ってくれたから俺はこの商品名は知らない。
そんな微糖派の俺とは違って、コーヒーはコーヒー成分抜きのミルクと砂糖を沢山入れたのが好きな湯湯婆さんに成り行きで今悩んでいる事を打ち上げている。
「そうわねぇ……アんシが思うにそのままでイーと思うけど……なんか多様性を求めてる感じアル?」
「と言うよりも、対応力って感じでッスわ」
缶なら雰囲気出るんだろうけどなぁ。
湯湯婆さんに奢られたコーヒーっぽいのは木のコップみたいな物に入っている。それをチマチマ立ち飲みしながら会話をしているのだ。
「対応力? ……さっきの戦闘を見た感じじゃあ今でも充分出来てそーアルが?」
「アレは前提として既知だったから食らい付いて行けたのでッスわ。スキルの構成もそれに拍車をお掛けになっておりまッスわ」
ASSで撮られた写真や動画はフォルダに保存されると同時にゲーム内でも見られる。
さっきの配信は切り抜きでいつか動画サイトの個人チャンネルに流そうかと思っているので録画していたが、コーヒーを飲みながら湯湯婆さんに見せていた。
どうやら俺のソロモードのルームを特定するのに夢中で配信を見てなかったらしく、だから件のアダムのところまでを見せた。ちなみに倍速にしたり飛ばしたりしながらだ。
そして見終わり、今はその感想と反省会……みたいな感じに意見を言い合っている。
「聖女って確か格闘系のスキルとか習得出来たはずでしょ? それじゃダメなんYO」
「Powerが、ね? あの装甲を突き抜けてダメージを与えるにはPowerが足りませんことでッスわ」
「oh……器用貧乏」
プレイヤーは様々な武器のスキルを修得できる。
だが、正確には装備出来る武器だけだ。
例えば聖女ジョブは杖、鎚などの武器がそれに当たる。
しかし例外もあって武器とかジョブとか関係なく覚えられるのが格闘系のスキルだ。
拳や蹴りでダメージを与えるこのスキルは、そもそも人体由来の技なので腕と足があれば誰でも出来る。四肢欠損してるアバターを作らなければ、な。
アレは中々ショッキングだったよ……。
ともかくそんな格闘スキルだが、例に漏れず聖女も扱えるが雀の涙と言うか……試しに一つ覚えてみたがカスダメだった。
ヘカノティアで殴った方が早かった。
総じて聖女は難儀なジョブだ。
万能と言えば聞こえはいいがその実、前線を張るにはSTRが足りず、かと言って後衛で魔法を撃つなら他の魔法を使えるジョブに任せるべきだし、回復に専念するにしても修道者と立ち回りが変わらず上位職にした意味が薄れる。
ヘイト管理だって大変だし、上手く出来なければ器用貧乏だと詰られる。
だから俺はパーティを組みたくないってか組んでも迷惑をかけるだけで相手の気苦労半端無いだろうから避けているんだ。
まあこんな奴と組みたいと思う人、居ないと思うが。
「アんシは組んでみたいと思ってるアルYO」
「有難うございまッスわ」
思わず口に出して愚痴ってしまったが、こんなつまらない話にもちゃんと聞いてくれて反応を返してくれる。
「無断でお写真を撮影して無断で人の敷地に入ってくる異常性以外は普遍的なお方なんでッスわのね」
「さっきのはそのスタイルで扇状的な服を着てたからつい興奮してローアングルから撮りたくなっただけです。僕は一線は弁えるてるつもりです」
「淫乱にお写真を撮るのが一歩手前なら貴方様の一線の振り幅ってかなり大きい……ん? "僕"……ッスわ?」
なんで急に一人称が変わって……うおっ。
なんか変な仮面付けてる!
「飛蝗の……仮面……ッスわ?」
「ふふふ……これはですね。『儀礼のお面』って言うアイテムでアクセサリーの枠組みに入りますね。要は飾りです」
アクセサリーは武器や防具と違って直接的な強さに繋がるわけではないが特殊な効果が多く、戦闘補助の物からお遊びにしか使えないような物まであると聞いてるが……声帯や口調を変更するアクセサリーは無かったはずだ。
と言うかあるなら速攻調べて最速で手に入れるよ。
だって変なお嬢様口調、疲れたんだよ。言うにしても聞くにしても。
「俺クシさん、どうして僕がここに来たか覚えてますか?」
「……確か俺クシのルーム設定だと番号特定されたら不法侵入され放題だから教えに来たんでッスわよね?」
「そうです」
「それ気になったのでッスが……お配信の時にコメントお教え出来ましたわよね?」
「でも渡す事は出来ないでしyo?」
「え?」
湯湯婆さんのそんな一言と共にフレンド申請が届いた。
「アイテムを譲渡するにはフレンドにならないと行えないから。だからフレンドになってー!みたいな? ……うん。お願いします」
トレード……交換に出すからか儀礼のお面を外して素の面を地面に向けて頭を下げる湯湯婆さん。
何故そこまでするのか疑問に思ったが多分、彼なりの誠意があり、それに従っているんだ。
「………………」
ゲームの中で何やってんだとは思う。
でも、電脳の世界と言う場だから唐突に写真を撮ったり叫び声を上げたり騒いだり変な出会い方からこんな風に話せたりするんだ。
現実ではあり得ない出来事をここでは再現出来る。
なら、彼の意に答えたい。
それを再現するには、
「此方こそ……よろしくお願いしまッスわ!」
《補足》儀礼のお面
実のところお面自体に能力はなく、口元の声音機と言う機械により強制口調変更を上書きしているだけだったりする。
詳細は今後の話の中で明かしていく。