奇人変人、トランスして別人!
「はーい。つゥ訳でぇ配信初めて行こうと思いますぅー」
我ながら老けた声になったなと思いながら同時接続数13人のカウントを見ながら画面を操作する。
「いやーにしても最近はすごいねー。VRゲームって言うんだっけ? まさかゲームの中に入って実体験でゲームが出来るなんてなー」
『今更かよw』
『表現古!」
『ジェネレーションギャップを感じる反応だな』
と、そんな感じに少ない視聴者から煽られるが仕方ないだろ。
俺が寝ている間にここまで技術革新してるとは思わんだろう。それもたかだが3年で、だ。
「いやいや、君らの感覚がおかしいんだよ。だってホラ、3年前なんてP○4がまだまだゲーム市場に牛耳ってた頃だよ? それから数年でこんなゲームハードが普及するなんて予想だに出来ないよ」
『牛耳ってたって例えはアレだがまあ確かにあまりにも革新しすぎだよな』
『それもこれもN○SAのお陰だな』
「え、このゲーム作ったのN○SAなの!?」
『それも知らなくて始めようとしてたのかw』
『普通に起動画面でロゴ出てただろw』
『いやまあ…N○SAが作ったとは言え違う会社で販売してるから知らない人は知らないけどな』
『バーチャリアルコンバート社だっけ? 確か"現実と仮想を入れ替える"を社訓としてる危険思想が漂う委託会社』
「ほへーそうなんだ。でもまあゲームプレイするのに支障なさそうだし別にどうでも良いか」
『人の親切を踏み躙っていくスタイル』
『正直言って無いわ。ファン辞めます』
『配信一回目でファンとはこれ如何に』
『てかなんで俺達はイケメンでもない美少女でもないただのおじさんボイスの配信に居るんだ?』
『知らんわそんな事。強いて言うならASS関連の動画漁ってたら地雷臭するサムネに引き寄せられたとしか言えんわ』
「俺の魅力に引き寄せられたとかじゃないの?」
『ない』
『絶対ない』
『あり得ない』
『顔出してない時点で魅力もクソもない』
『特段声が良いわけでもない』
『トークも特別面白くない』
『結論』
『魅』
『力』
『な』
『い』
「なんでそんなに息合ってるんだよ!? 打ち合わせでもしてるんか!」
年甲斐もなくツッコミを入れてしまった。
少し恥じている俺に対して、いいツッコミしてんね。とかツッコミはまあまあ面白い。とか好き放題言う視聴者共をもうスルーする事にして俺はユーザー登録を済ます。
各種ゲーム設定をして、クレジットカードとの連携を終わらせたところで今回の配信の主題、
[Another space simulation]
通常ASSを起動させる。
『ようやく本編に入ったか』
『長かった…これで僕達の旅も終わる…』
『何言ってるんだ? これからが始まりだぞ?』
『俺たちの冒険はこれからだ!』
『先生の次回作に乞うご期待!』
「終わってないからな。これから始まるんだからなゲーム配信」
『ならとっとと始めろよな』
『なんで設定とか事前に済ませなかったんだよw』
「ワクワク感と言うか、そう言うの感じなのをみんなと共有しながら始めたかったんだよね」
『いらない』
『いらないねー』
『いらねっす』
『ウチらは素早い展開を求めてる』
「……次からは裏作業として済ませとくよ」
批判されながら俺はロード画面からタイトル画面に移り変わったところで話を切り替える。
「これがOPなのか……え、振動とか感触とかリアルに伝わってくるんだけど! すごっ!」
『それなー半年今でも未だにビクッとなる』
『VRゲームは元々あったけどアレらはどちらかと言うとARに違いからな。一体どう言う技術革新したら骨伝導をゲームに取り組めるようになったんだ』
『N○SAの本気』
『天才はいるもんだ』
『天才の集まりがN○SAだぞ? 詳しくは知らんけど』
「君らタイピング早いな……あ、これも肉体の振動や脳波を利用してるから指で打つよりも直接打ち込んでるから早いんだ。……よくわがんね」
そう言うのに詳しい人からのコメントが流れて拝借させて貰ったが何度見ても分からん。分かるのは一部の変態は二行三行を10秒以内で書けるようになったらしい。
どう言う思考回路してるんだホント、天才ってのはいるよな。
「さて、OPも見終わった事だし、これよりお待ちかねのキャラクリに移りたいと思いまーす」
『ktkr』
『でた。配信で間違えてリアルモジュールした結果身バレしたV殺しのクリエイションシステム』
『人の性癖性格が謙虚に出るキャラクリにようやく入ったか…この為に残り続けたんだよな』
「ははは。色々と言っちゃくれてるけどさて、ご待望のキャラクリは勿論リアルモジュールで決まりですね。素顔晒していきますよー」
『いいねこのノリ。声だけの配信はこのための伏線だったか』
『一人のおじさんの身バレに一喜一憂するの、変態的だと思う前に愉悦で頬が歪む』
『ワクワク』
「えーとリアルモジュールにするには──アレ、なんだこの項目は。なになに……追加課金で強力な武器と一緒に始められる……って!?」
『あーそれかー』
『確かに強力なんだけど…是非で言ったら非しかない有料コンテンツ』
『凄いよな。予告の時点で炎上したのに本実装したら歴史に残るくらいの勢いで只今"大"付いて炎上中なんだぜ?』
『これのせいで俺ら鍛治職の数ヶ月が実質無料になった』
『もちろん主さんはそんなのに頼らず一から始めますよね?』
「いや頼るけど。はいポチッと。こんな明らか強そうな事しか書いてない課金武器があるのに買わないのは損だろ」
『早!? 即断即決かよ』
『躊躇いとかないんです?』
『それ強いけどデメリットのが大き過ぎてゲームに支障来しまくりだって理由で今、炎上しているんだぞ』
『ランダム生成に強制口調変更』
「でもランダムでキャラクター生成されるのと喋り方に縛りが付くだけなんだろ? 性別は現実と一緒で統一されるし、もしかしたらイケメンになれるかもしれない可能性があって俺今ワクワクしているんだ。このまま行かせてもらう』
『んまー案外リアルモジュールで身バレするってより面白そうではある』
『イケメンになれるかは乱数だが普通にイケメン顔作るよりかは面白味ある』
『このゲーム、キャラクリが一回しか出来ないのに理想の顔作るのに各パーツ毎に課金しないといけないんだよね』
『一応既存の物でも作れなくはないけどなんかフツ面からちょっと綺麗になりましたねって感じな出来になる』
『いや買ったら女になったぞ』
『それな。一体俺が男の娘作るのにいくら掛かったと……』
『男の娘スキー、涙拭けよ』
『気持ちは分かるぜ男の娘スキー』
『え?』
『え?』
『なるの?』
『性転換したのか!?』
『なった。バグかなんかは知らんが』
『あ、……主さん押しちゃった……』
「え? なんかマズった……って女になるって──あ」
姿見。
クリエイションしてる時に確認するための設置されていた2メートル程の三面鏡が最後の確認とばかりに目の前に現れる。
そこに映し出される────少女。
男ではない。女だ。
照り輝く金色の髪はボーイッシュにも短髪で整えられておりそれに反比例するように耳たぶの髪は首元まで伸びている。
それだけでも元の自分とは異質なのにも関わらずはち切れんばかりに窮屈そうに服に収まっている豊満な胸。
華奢でそれでいて程よく肉付きされた完璧なボディ。
これが自分ではなかったら見た瞬間、即座に告っていただろう。
そう思うほどに美しい……美少女を体現させた顔。
「………………なっ」
数秒くらい見惚れていたが我に返り、改めて非現実な状況を確認して発狂した。
「なんなんでッスのーー!! 俺クシ、一体どうn」
ーー
「つまりなんだ。沢山のクレームが寄せられて来たから緊急メンテ開いたと? そんでその時が丁度俺が課金完了した時でーキャラクリが完了したピッタでーメンテが始まったから取り消せなくなった、と……ふぅーーーーゴミッッ!!」
ボシュっとゴミ箱にダストシュートしたVRゴーグルを見送って俺は不貞寝した。