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やり直し聖女の恩恵  作者: 長月遥
第四章 黒光が導く魔道
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 以前はなぜそこまでとやや不思議に思っていたものだが、クロードから聞いた金眼の持ち主の人数で察せた。


「では、その候補とやらに国々に圧力をかける権力があるのか?」

「いいや。どちらかというと小国だ。うちは勿論、ラトガイタより低い国力しか持っていない」


 話だけは持ち込まれた、という感覚だ。先方も高い競争率を誇るエルデュミオの妻の座を、自分たちが手にできるとは考えていないのだろう。


 懸命さはそれほどなかった。――先日までは。


「名前はウィシーズ。鉱物資源が豊かな山岳王国だ。僕がルチルヴィエラに行っていた辺りから、来訪の招待が頻繁に来ている、らしい」


 エルデュミオがそれを知ったのは最近だ。話がずっと父――イルケーア公爵ヴァノンの所で止まっていたためである。


(父上の判断は正しい。ウィシーズの姫なんかもらっても、旨味は薄い。時間を割くだけ無駄だ)


 そのように取りつく島もなかったので、やや常識外れに、公爵を無視して直接エルデュミオに接触を図ってきた。そこでようやくエルデュミオもやり取りを知った、という運びになる。


 常であれば鼻で笑って相手にしなかっただろう。しかし今は常ではない。


「ウィシーズにも、リューゲルやルチルヴィエラと同様の傾向が見られる、という噂を稀に耳にしますね」

「正にそれだ」


 ウィシーズがエルデュミオを招きたいのは、婚約話を進展させたいからではない。自国に起こっている問題を解決してほしいのだ。


 一見すれば、ストラフォードにもイルケーアにも益はない。公爵が取り合わなかったのもそれが理由だ。

 しかし今のエルデュミオには、充分に行く理由となる。


「自国に問題があって、しかも自力で解決できないから助けてくれ、なんて弱点を晒すような真似を国がするわけもない。だから婚約者候補に名乗り出ている姫を名目に、僕を招きたがってるんだ」

「それは、行かない訳にはいかないな」


 おそらく仕込まれているのだろうリザーブプールの破壊は、ルーヴェン一派の足止めとして必須だ。


「もう一つ利点がある。ウィシーズのローグティアが魔力を含んでいるなら、そこから権能を使って魔物に命じて、世界の異変を調査させたい」


 すべてのローグティアは神聖樹と繋がっているが、どれも同一というわけではない。その地域に満ちる属性の傾向で、マナは変化していた。


「リューゲルやルチルヴィエラと同様の状態なら、程度は分からないながら魔に染まっていると推測できる」


 大陸各地にストラフォードから調査員を派遣するのは不可能だ。しかし魔物であればどこにでもいる。彼らの目と耳を借りれば、かなり精密な情報が集まるだろう。


「ああ、それは良い手だ」


 納得したようで、アゲートはうなずく。


「――リューゲルと言えば。前回も邪神信者が生贄を立てて、ローグティアを魔に染めようとしていたんだよな? それはどういう経緯でそうなったんだ」


 今回はアゲートと会ってしまったせいもあり、積極的に活動している集団がいるのかと思っていた。

 だがアゲートは個人であり、各地に異変をもたらせるような影響力も持っていない。


「そもそも、ルティアたちはどうやって敗けたんだ」


 本人には多少聞きにくい話であり、やり直し自体、話せる場所が限られてしまう。そのせいで確認が遅れていた。


 切羽詰まって知らなくてはならない情報ではなかったので、その時その時で必要なことをしているうちに後回しになってしまっているせいもある。


「俺が直接立ち会っていたわけではないから多分に想像が含まるが……。目的は二つだったと思う。一つは、場を魔力化してルティア王女たちに不利な場を作る事」


 ルティアたちが、というかこのレア・クレネア大陸で一般的に使われるのは聖神に寄った呪紋だ。場のマナが魔力に寄れば、威力も減退するし使う体内呪力も多くなる。

 戦うときに有利な戦場を作るのは有効な戦術だ。自然な発想と言える。


「それがリューゲルだったのは、お前を排除するためだろう」

「なぜ僕を」


 これまで、エルデュミオはルーヴェンと敵対したことはない。ひたすらに疎遠だっただけだ。

 ルティアに協力を持ちかけられなければ、今も変わっていなかったと断言できる。


「ルティア王女がいなくなれば、次はお前が担ぎ上げられるからでは? 実際、前回のストラフォードではその動きがあった」

「うん? 時系列がおかしいぞ。僕が死んだのはルティアより前だろ?」

「前のルティア王女は武官派の脅しで城を脱出した後、ずっと旅をしていた。数回帰ってくることはあっても、長く留まることはなかった。王として戴くには難しい人物であったと言えると思う」

「……あぁ」


 そういえばリーゼも、逃げてきたルティアを連れてそのままルチルヴィエラに行ったと話していた。

数ヶ月単位で城を無断で空けていたわけだ。王の資格を問われて当然の行動である。


「王の子であるルーヴェンと比べて、お前は大義名分に弱いが、金眼だ。可能性はある、と考え……たのか? 悪いが心情や、事実可能なのかはよく分からん」


 ルーヴェンの心情は本人にしか分からない。アゲートの言い方は完全に憶測のものとなった。

 確かなのは、エルデュミオが排斥されようとしていたということ。これだけは、見てきたアゲートが言うのだから事実だ。


「僕の王位継承権なんて、ずっと下だぞ。押し切ればいいだろう。肝の小さい奴だな……」


 呆れた口調で呟くが、ルーヴェンの肝の小ささだけはエルデュミオも否定しない。


「そういう状況だったから、ルーヴェンは今回より遥かに自由に、ストラフォードの力を王の最有力候補として振るうことができた」


 当人が帰って来ないのだ。選挙どころではなかっただろう。


 おそらくリッツハングマー侯爵がエルデュミオに乗り換えて――という話なのだろうが、ルティアと比べ、旗頭にするには無理がある。盛り返すのも難しかったはずだ。


「当時大陸各地は大量にマナが奪われていて、どこも実りが悪かった。オルゲンは己の評価を落とさない様、例年と同程度の税を支払うために、仕込まれた人身売買に手を染めた」


 マナが魔力化し減衰して、さらには人々に非道が働かれているという噂を流せば、ルティアたちを誘い込むのは難しくない。


 魔力化したリューゲルでルティアたちを殺せれば最良。そうでなくても、第三者が明るみに出すことでイルケーアの力を削げる。聖女という名声を得ていたルティアならば適任だ。


(そして僕は、まんまと引っかかったわけだ)


 そこで死ぬことまで計算されていたわけではないだろうが、謀った者からすれば嬉しい誤算だったに違いない。


「魔力に染めるのは望むところだったから、ついでになぞってみたんだが。早々に余計な邪魔が入って断念せざるを得なかった」

「成功していたら僕はまた死んでるだろ、それは」


 呆れて言ったエルデュミオに、アゲートはゆるりと首を横に振る。


「そこまで大事にする気はなかった。要は、本当にセルヴィード様の信徒と見なされれば、言い切れれば問題なかったんだろう? お前が手出ししてきたから面倒になったが、本来は魔物化させて魔力を使わせ続けるつもりだった。死なない程度には血も使うが」

「……」


 そのためにセルジオ一人に責任が集結できるようになっていたし、早々にマナを奪われるのを止めたおかげで、オルゲンは本当に関わっていなかった。


 操られたセルジオや町の人々からすればとんでもない話だが、アゲートやスカーレットにとって、フラマティア信徒の人間は敵対者。利用することにためらいも罪悪感も持たない。


「それと、ルティア王女たちの状態は、俺のあずかり知るところではない」

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