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やり直し聖女の恩恵  作者: 長月遥
第三章 白光が導く聖道
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「内容は?」

「王族の私的区画へ続く廊下を護っていた近衛騎士が、倒れているのが発見されました」


 前回と変わって、随分乱暴な手段に出たものだ。忍び込むのではなく強引に通過したということは、相応の人数がいると考えられる。


「分かった。騎士団長への報告は?」

「擦れ違った別の近衛騎士に、言伝を頼みました」

「結構。ご苦労だった。追って団長から指示があるまで、僕たちは待機する。第二部隊にはそう周知させろ」

「はッ」


 敬礼をして、報告を行った騎士は部屋を後にした。


「団長から指示があるでしょうか?」

「さあ。あってほしいところだがな。ではレイナード。あとは手筈通りに」

「承知しました。お任せください」


 後から来るフェリシスのためにレイナードを残し、エルデュミオとスカーレットはルティアの元へと向かう。


 王都が脅かされているときに、ルティアが担うような重要な公務はない。いつもの彼女ならば部屋にいることだろう。


 ――が、今日は生憎、『何となく』いつもと違う行動を取っている予定だ。


 公的区画と私的区画の間にある中庭。エルデュミオとスカーレットが景観と、ある実用の面も備えて設えられている噴水の近くまで行くと、正面の生け垣がガサリと揺れた。そこからルティアが這い出して来る。


「上手くいきました!」


 思い通りに進んでいるのにほっとした様子で、開口一番そう報告してくる。


「警備の近衛兵を倒した奴は見たか?」

「近衛第一部隊の正騎士です。部隊は違っても、仲間だというのに。彼らは迷いなく警備の騎士を殺しにかかりました」


 後々余計な整合性を取らなくてもいいように、口を封じる手段を取ったようだ。


 怖れ三割、怒り七割の口調でルティアは言う。先の安堵した言い様と合わせて考えるに、殺されかけた騎士はどうやら助かったらしい。


「間に合ったんだな」

「はい。どうにか命を繋ぐことができました。だから『ここ』だったのですね」

「否定はしない。一番はただの合流のしやすさからだが」


 被害に遭った騎士が相手を覚えていれば黒幕を辿ることもできるだろうが、追及するべきか悩ましいところだ。


(第一部隊は、ヘルムート直属の精鋭だ)


 選び抜かれた近衛騎士の中から、さらに絞り込まれた人員のみで構成される、ストラフォードの最強部隊。


 その刃が本来護るべき王族の首を狙うとは、笑い話にもならない。


 今頃はもう、部屋にルティアがいないのに気付いた頃だろう。フェリシスの合流まで、時間をかけて私的区画を捜し回ってくれればありがたいのだが。


「まあ、そう都合よくはいかないよな」


 諦めた息をつき、剣を抜く。同時にエルデュミオとルティアが立つ噴水を中心にした一メートルほどの空間を除き、地面から天へと、垂直に紫雷が立ち昇った。


 ばぢッ。


 ルティアが発動させた、侵入者対策の罠だ。衝突した音が響き、ふらついた騎士の姿が数メートル手前に現れる。


「ル、ルティア王女殿下。こちらにいらっしゃいましたか」


 それでも騎士は踏み止まり、割と平然と話し出した。


(一瞬の足止めにしかならないぞ。見直しが必要だ)


 舌打ちをしたい気分だが、そんな場合でもない。歩み寄ってこようとした近衛騎士へ向け、エルデュミオは剣の切っ先を突きつける。


「……イルケーア隊長。何の真似ですか」

「姿を隠して近付こうとして来て、白々しいにも程があるだろ。残念だが、ここの警備に立っていた第三部隊の騎士は生きているぞ」


 言外に、下手人は知れていると告げた。


「……」


 返事はない。代わりに一瞬で抜刀した剣を片手に、彼は地を蹴った。


 第一部隊の騎士隊服は、通常の硬度を維持したまま柔軟性を加え、金属糸へと加工して織られた錬金神銀(アルケミア・ミスリル)。配備されている武器もミスリル製だ。


 エルデュミオやルティアが身に付けているのは、更に希少で特殊な効果を持つ金属を複合させた錬金(アルケミア)稀神銀(・レアミスリル)と言ったところ。装備の軍配はややエルデュミオたちに上がるが、技量の差を埋めてくれる幅ではない。


 エルデュミオの力は、確実に近衛騎士よりも劣る。更に、懸念はそれだけに留まらない。

 騎士が力強く踏み込んだ時に地面にできたへこみの深さが、懸念が正しいと教えてくれた。


 重さをまるで感じさせずに突き出された刺突を、エルデュミオは受けない。やや過剰に横に飛んで回避する。


 生まれた風圧が背後にある噴水の水を穿ち、一瞬だけ穴を開ける。触れもせずに。

 刃を返して当然のように横薙ぎに移行した一撃は、無詠唱で作った呪紋の盾で受ける。途中まで降り抜かれたその余波で、今度は噴水の水が上下に裂けた。その幅で、生まれる衝撃波の範囲を大体目測する。


(呪紋じゃない。力だけで衝撃波を生んでいる。やはりマナでの強化済み)


 それに気付いたルティアも、表情に迷いを浮かべた。騎士たちがその強化方法の末路を知っているかどうかを含め、命を気遣っているのだ。


 騎士の剣を受けた盾そのものはあっけなく破壊されたが、始めから止められると思っていない。破壊されると同時に剣の表面に磁力が生まれ、勢いよく地面へと引っ張られる。エルデュミオが盾の直後に作った磁力場が反応したのだ。


 攻防の反転。無防備となった体を目掛け、今度はエルデュミオが袈裟懸けに斬りかかる。


「ぬぅっ」


 まともに斬られるのは危ういと判断したか、騎士は磁力に引き寄せられる剣を両手で持ち、強引に飛び退いた。そうしながら剣にまとわりつく磁力を生んでいる呪紋を打ち払い、構え直す。


 エルデュミオの剣は騎士の肩を浅く捕らえたが、コートの強靭さに阻まれ、僅かな裂け目を作っただけで終わった。


 一呼吸分息を整え――空いた距離を駆ける。相対するエルデュミオを前に、騎士はほんの微かに、唇に笑みを浮かべた。


「!?」


 そこにあったのは、勝利の色。


「ルティ……っ」


 互いの勝利条件に大きく影響する少女の方へと、つい顔を向けてしまった。エルデュミオにつられるようにルティアも己の背後を振り向くが、そこにはなにもない。


(誘導か!?)


 引っかかった己に腹が立つ。向き直る間もなく、前方広範囲に風を起こした。せめて足を鈍らせられれば、と思っての悪足掻きだ。


 だがその風の中に、ちかり、と紅の光が輝いた――ように見えた瞬間。


 ゴッ!


 風に乗って、炎の波が騎士へと襲いかかる。慌てて飛び退いた騎士だったが、引き戻すのが遅れたミスリルの剣の先端が炎に触れ、一瞬で溶解した。液状の金属が地面を焦がす臭いを漂わせる。


 ほぼ同時に、二ヶ所から硬い金属音が響く。


 誘導だけではなく、事実ルティアの背に迫っていた刃をスカーレットが、エルデュミオの側面から伸びた刃をフェリシスが打ち払う。


「無事か!」

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