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やり直し聖女の恩恵  作者: 長月遥
第三章 白光が導く聖道
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 途中何人か第二部隊の騎士と会い、都度最初の騎士と同じ言伝を頼むのを繰り返して、到着。扉の手前で待機していた騎士が、少しばかり不服そうな空気を流しつつ敬礼をして、扉を開けた。


 無理のない話だが、他部隊の騎士は基本、第二部隊を自分たちと同じ騎士だとは認めていない。その隊長であるエルデュミオのことも同様だ。


 真面目な話し合いの場に第二部隊がいることが、すでに彼らには納得いかないのだ。そんな視線を黙殺して、中へと入る。従者であるスカーレットは外で待機だ。


 足を踏み入れれば、集まった面々から一斉に顔を向けられた。


 議長席に座っているのが、武官派筆頭とも言える騎士団長ヘルムート・セイン。その隣にいるのは助言を求められたか、前騎士団長アイリオス・ルーテリッサ。他、席に就いているのは各部隊長だ。


 その中で自分の代理として席を埋めていたレイナードの元へ歩み寄る。適当な椅子を引き寄せて着席をすると、まずヘルムートから声が掛けられた。


「会議に遅れたことに対して釈明はないのか、エルデュミオ殿」

「人助けをしていたら、どうも少し遅れたようだ。謝罪する」

「貴殿は……っ」


 反省が欠片も窺えないエルデュミオの態度に、ヘルムートは更に何事かを続けようとして――しかしアイリオスが手を上げて遮ったため、口を閉じる。


「人助け、大いに結構。しかし今後はご自身の立場をもう少し考えられるとよかろう」


 アイリオスは武官派ではあるが、王族の武術指南役という役目から、ルーヴェンだけでなくルティアとも相応に親交がある。


 そのせいだろう。ルティアの護衛でエルデュミオがこの場にいなかったことを、あまり咎める雰囲気ではない。そうなると、ヘルムートも強くは出られない様子だ。


「気を付けよう」


 現状、エルデュミオが誰にとっても敵対派閥ではないことも併せ、口頭のみの注意でお開きの空気が流れる。それを面白く感じない者がいるのも、場の空気から察せられたが。


「さて。人助けをしてきたエルデュミオ殿には、状況説明はいらんじゃろう。斥候隊の報告により、魔物が強化され、王都に向かってくるのは王都を中心に半径十キロの円周内であることが判明した」


 机の上に広げられた地図を、ぐるりと円でなぞってアイリオスは言う。


「ここを境目とし、その内側、もしくは外側近郊に要因があるのは間違いなかろう。元凶を探りつつ、王都の防衛に騎士団を動かすことになった。まあ、平たく纏めるとそんなところじゃな」

「何か、貴殿に意見はあるか?」

「いいや、異論ない。僕たちは待機でいいんだろ」

「その通りだ」


 予想通りの答えが返ってくる。


 その後どこの部隊がどの方面の防衛を担うかなどの話が詰められていくのを、ただ黙って聞いておく。そうしてすべての話に結論が出て解散になり、エルデュミオも他の出席者と共に会議室を後にする。


 扉の外でスカーレットと合流し、執務室が隣で行き先はほぼ同じなので、しばらくレイナードと並んで歩く。そして彼と別れるよりも先に声を掛けた。


「レイナード、来い」


 スカーレットに自分の執務室の扉を開けさせつつ、レイナードを招き入れる。

 三人が執務室に入り、エルデュミオが着席するのを待ってからレイナードは口を開いた。


「会議内容の報告でしょうか」


 自分が呼び止められた理由を分かっていない様子で、そんなことを聞いてくる。


「違う。不服に感じていたのが顔に出ていたことへの注意だ」

「……申し訳ありません」


 自覚はあったのか、レイナードは素直に謝罪した。

 騎士と呼ばれながら、騎士として扱われない。そこに鬱屈とした思いが生まれるのは理解できる。


「お前が努力して騎士らしくあろうとしているのは知っているが。第二部隊に正騎士が出張らねばならないような魔物と戦う力はない。求められてもいない。お前は同僚を死なせたいのか?」

「いいえ。私が未熟でした。申し訳ありません」

(こいつも、家が文官派でなければ正騎士になっていたのだろうにな)


 勿体ない、という気持ちはある。もっとも、そのレイナードがいるおかげでエルデュミオが助かっている部分もあり、何とも言えない。


「分かっているならいい。――さて、本題だが。これから僕たちはルティアの護衛に当たる。そのつもりでいろ」

「は……っ?」


 予測できなかったのだろう。エルデュミオの言葉が飲み込めない様子で、レイナードは間の抜けた声を上げた。


「そのようなお話はありませんでしたが」

「当たり前だ。今王都を襲っている魔物は、ルチルヴィエラで襲ってきた連中と同じだぞ」

「!」


 そこまで聞いて、レイナードははっとした顔になる。


 ルチルヴィエラで襲ってきた者たちが、裁炎の使徒を名乗ったことをレイナードは知っている。ルティアが以前にも裁炎の使徒に襲われていることも。

 そして手引きをしたのが武官派――騎士団に強い影響力を持つ誰かであるだろう、という推測も。


 ルティアの護衛の話など、手引きした者と繋がっているかもしれない相手を交えてできるはずもない。わざと空白時間を作られるのがオチだ。


「幸いにして、僕たちは待機を言い渡されている。宮中をフラフラしていても怪しまれないだろう。そのつもりでいろ」

「承知しました」


 先程と打って変わって、レイナードは力強い瞳でうなずいた。


「お前に第二部隊は荷が重そうだな。王位争いに決着が付いたら、別の部隊に移るといい。僕が推薦してやる」

「ありがたいお話ですが……。辞退させていただきたく思います」

「なぜだ?」


 家柄が文官派であるレイナードだ。勿論、居心地は悪いだろう。


 しかし決着が付いた後なら目の敵にされるところまではいかないはずだ。ルティアが王になれば――というか絶対にするつもりなのでこれは確定の未来だが、宮中で権力を強く持つのは文官派になる。


 そのとき、伝手となれるレイナードはむしろ周囲から歓迎されるはずなのだ。上手くやれば充分溶け込める。

 レイナードにはそれだけの気概と才覚があるとエルデュミオは見込んでいた。


「隊長は少し誤解をされているようですが、私は第二部隊に所属していることに不満はありません」

「そうは見えなかったが」

「先程の会議で不快だったのは、他部隊の長たちの多くが、揃ってこちらを軽視していたからです」

「……まあ、面白くはなかったな」


 他人から軽んじられるのが好きだという者の方が少数派だ。エルデュミオも自分が感じていたことを否定はしない。


「私が行き先に迷った末に騎士になるのを決めたのは、幼い頃に見た第二部隊が格好良かったのを思い出したからです。夢を見せる勇壮な騎士の姿を演じる道を進むのも、やり甲斐があるのではないかと思いまして」


 少し照れくさそうに、そんな思い出を白状する。


「人員確保のための広告塔も、戦力を維持するためには必要です。事実、騎士を志す者の多くが初めに『騎士』として認識するのは第二部隊ですから」


 そこで騎士に憧れた子どもが、将来警備軍に所属するのだ。その連鎖は間違いなく存在している。


「槍働きだけが戦ではありません。だから、武官と文官は仲が良くないのでしょうね……。どちらが欠けても国としてままならないのは分かりきっているというのに」

「理解していない奴らばかりではないが、己の仕事が一番大変で価値がある、という思い込みは往々にして存在する。……ああ、今身につまされる思いがしたな。気を付けよう」

「はい。私も忘れないよう、心がけています」


 エルデュミオが我が身可愛さに目を曇らせる可能性を、レイナードは否定しなかった。角が立たないように自分の話に持って言って纏める辺りが、如才ないと言える。


 たとえ見え透いていようが、エルデュミオは世辞を言われるのが嫌いではない。むしろ社交の一環だと思っているから、できない人間には相応の評価をする。


 それを理解して尚、世辞を口にするのを避けたレイナードの意図も分かるので、苦笑をしてあえて指摘はしない。


「そういうことだ。ともあれ、僕たちが警戒しているとは気付かれないように当番を割り振る必要がある。お前の意見も聞かせてもらおう」

「承知しました」

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