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「邪神狂信者の魔術によって支配されていたセルジオもまた、被害者と言える」
「では、そのように」
昨夜は疲労で頭が回らなかったとはいえ、セルジオの顔と立場を知っていて、エルデュミオの介入を目撃した者たちをそのまま町に帰してしまった。
一晩経てば、当然彼らから親しい者に話が伝わっているだろう。取れる手段は限られてくる。
隠蔽のために事情を知る者を消そうとすれば、余計に目立つ人数だ。口を噤むよう交渉したとしても、確実にどこからか漏れ出る。
それよりは、多少外聞が悪かろうとも、こちらも被害者になって事実を公表した方がいい。
勿論、公表する事実の範囲は選ぶが。
(マダラの捕縛も急務だが……。そっちは城に帰ってから話を通した方がいい)
頭の痛い問題だ。
ローグティアが生えているのは、ストラフォードだけではない。他国のどこかが下手を打っても、神聖樹に出た悪影響は世界全土に及ぶ。
マダラのやろうとしていることは世界の危機だが、言葉で説明したところで脅威を正しく理解できる者がどれだけいるか。
エルデュミオとて、ローグティアが見せた映像がなければ失笑して終わらせていただろう想像が付く。
(王不在の今、他国への働きかけはどうしても弱くなる。これはルティアの言う通り、ぐだぐだと王座を巡っての内輪揉めなんかをしている場合じゃない)
何故ルティアが知っているのかは謎だが、彼女にその覚悟があるのなら、半ば後継が決まっていたにもかかわらず混乱を招いたルーヴェンよりは期待が持てる。
(城に戻ったら、支持の切り崩しと取り込みか。面倒だが、やるしかない)
だがまずは、リューゲルの後処理を滞りなく終わらせてからだ。
人生で一番だと断言できる疲労からまだ回復しきっていないことも、理由の一端ではある。
――かくして、半月ほど前から町を脅かしてきた賊徒は、警備軍によって一掃された。
賊徒たちの証言から、役人でもあるセルジオの関与が浮上。彼の私邸から、さらわれた住民たちも無事発見された。
同時にローグティアの丘で生贄にされかけた人々から、首謀者が邪神信徒であることも判明。セルジオは邪悪な魔術によって操られていて、被害者でもある。
魔術の抗い難さを、純粋な被害者である住民たちも述べ、セルジオは罪には問われないこととなった。
とはいえ、立場のある者が操られるなどあってはならない。行政に携わる資質はないとして、役職は罷免されることとなった。
彼は近くイルケーア家の聴取を受けるため、領都トルトーワに移送される。
主犯である邪神信徒は逃亡。国を挙げての捜索が求められる案件だ。
しかし代官始め国の対応が早かったため、幸いにして命を落とした者は出なかった。
特にローグティアの丘にて民を救った金眼の男性の話は広く広まり、王族への好感度の上昇に一役買ったという。