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やり直し聖女の恩恵  作者: 長月遥
第七章 虹が織る歴史の旗
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「……そうだな。けれど、これからのストラフォードは少し変わるんだろう。王であるルティアがそのつもりでいる」


 そして多くの国民が求めてもいる。


「帝国が打ち建てられる前、知識は貴族のものだった。ゆえに、権力も貴族が独占していた。だが皇帝は民に学を与えた。その結果がもたらしたものは言うまでもない」


 歴史の進んだ後世においてさえ凌駕できない、大陸最大の繁栄だ。


「ストラフォードは豊かだ。だからこそ今、次の時代に進むべきだろう」

「人材は多い方がいいに決まっている。ストラフォードには、そうであってほしい。生まれ育った国だからな」

「僕も同じだ。……ああ、本当に。当然だったのに、今更分かった気がする」


『同じ』ストラフォード国民だということを。


 そして他国の民だろうとやはり『同じ』人間で、魔物も聖獣も、『同じ』世界に生きる生物だ。

 敵対する理由など、どこにもない。


 決意を込めてうなずいたところで、外壁の階段を上ってくる人影が見えた。シャルミーナだ。


「エルデュミオ様、フェリシス様。状況、終了しました」

「ご苦労。被害はどうだ」

「正確にはこれからです。規模の割には……というのは救いですが、生じた犠牲は許されるものではありません」

「そうだな」


 応じながら、ルーヴェンと戦った市街地へと目を向ける。


(あいつは、犠牲などとは思っていないんだろうな)


 殺している自覚さえ薄いだろう。ルーヴェンにとっては再生への過程に過ぎず、歪んだ現在を失わせるのに罪悪感など持っていない。当然だとさえ感じているのではないか。


 その一人を想う現在の誰かにとっては、唯一無二だというのに。正しさのためにはどうでもいいことだと、理解もせずにうそぶいて見せる。


「それと、聖席の方々から伝言があります。今後について話し合いたいとのことです」

「分かった。すぐに行こう」

「予定通り、という顔をしているな。聖神教会に何を求めるつもりだ?」


 フェリシスに問われて、エルデュミオは一瞬、言葉に詰まった。


 伝えたとしても、フェリシスやシャルミーナは問題ない。しかしどこの誰が聞いているとも限らない場所で口にするのははばかられた。


 結果、エルデュミオは肩を竦めて。


「すぐに分かる」


 誤魔化すセリフを口にする。


 信用されていないように感じたか、フェリシスとシャルミーナの表情は少し曇った。

 それには本心からのため息をつく。


「お前たちはもう少し、政治の機微を理解してくれ」


 ――切実に。


「では、僕は本神殿に戻る。後の処理を頼む」

「分かった」

「お任せください」


 ストラフォードとツェリ・アデラ。両方に話が通せる二人がいるので、まず大丈夫だろう。うなずき、エルデュミオは外壁を下りた。


(神殿に行く前に、スカーレットとリーゼと合流しておきたい)


 共に行動しているはずなので名前は並べて思い浮かんだが、主目的はリーゼだ。どうしても、共に来てもらっておきたい理由がある。


 ピアスを弾き、連絡を試みた。


『――はい?』

「状況はどうだ。話していても大丈夫そうか?」

『大丈夫ですよ。創世の種は片付きましたから。スカーレットのお墨付きです』


 町中も落ち着いたらしい。スカーレットが判断したのなら、目の行き届かないところも問題ないだろう。


『これから合流しようと思っているですが』

「丁度いい、僕もそのつもりだ。本神殿前で合流しよう」

『分かりました。でも、あれです。相変わらず、図太い所は図太いですねえ。つい数時間前、そこで裁判を受けていたのに』

「無罪だからな」


 正直なところ、有罪であっても必要であれば気にしないが。


『確かに、この場合より気まずいのは神官たちの方ですかね。じゃ、すぐに行きます』

「そうしろ」


 通話を切り、本神殿へと急ぐ。


 リーゼたちも急いできたのか、それとも近くにいたのか。エルデュミオが到着したときには、すでに二人が待っていた。


 片手を上げて左右に振るリーゼの元へと駆け寄ると、にこりと笑って勝利宣言をされた。


「わたしたちの方が早かったですね。勝ちです」

「無効だ。そもそも勝負などしていない」

「軽口でくらい、負けを認めてもいいんじゃないです?」

「理に適ったものならな」

「らしいですけど」


 苦笑しつつ、リーゼは持論を引いた。言った通りただの軽口で、彼女にとっても然程意味のない会話だったのだろう。


 本当の意味で実のない無駄話を振られるようになったことを、ふと実感してしまった。つい、エルデュミオも苦笑する。


「それで、どうして聖神殿です?」

「聖席の皆が僕に話があるのだそうだ」

「ほう。それは楽しみなことですね」


 持ち込まれる話を、スカーレットは察したようだ。目を細めて狡猾そうな笑みを浮かべる。


「あまり急激な変化は期待するなよ」

「勿論です。かつて帝国がフラマティア信仰を広めたときも、一朝一夕ではありませんでした」

「分かっているならいい」


 そしてこの点に関しては、スカーレットとエルデュミオが求める着地点は一致しない。エルデュミオ自身が、もう決めてしまったからだ。


「ええと……。それ、わたし要ります? ああ、念のための護衛ですか」


 内容には無関係ではないが、直接関われる立場にないのはフェリシスと同じ。

 首を捻ったあと、自分なりに納得できる理由をリーゼは口にする。


「少し違う。だが側に待機していろ」

「いいですけど、目的は基本、教えてくださいね。何が起こったときどうするべきなのか、迷った一瞬で後悔するかもしれないですから」

「……考えておく」


 以前ならば『必要があれば』と答えただろう。

 フェリシスやシャルミーナに対してやったように、不利益が見えれば取り合わない。


 だが、リーゼには可能な限り伝えるべきだとは思った。

 それでも言葉を濁したのは、彼女の意思の方がまだ分からなかったから。


 関係性によっては今と同じだ。


「行くぞ。あまり先方を待たせたくない」

「はい」


 スカーレットとリーゼを連れ、奥の中枢へと向かう。


 もう少しすれば治療を求める人々でごった返すのだろうが、今は神官も聖騎士も多くが出払っているため常よりも静かだ。

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