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やり直し聖女の恩恵  作者: 長月遥
第六章 空と地で描く謀略戦
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 聖神教会とルーヴェン一派からの謀略を退け凱旋したルティアは、予定通りに王宮内で式典を行い、正式にストラフォードの王となった。


 彼女が冠を戴くのを見届けてから、エルデュミオは急いでローグティアのある地下へと向かう。


「まったく、忙しないことだ!」

「仕方ありませんね。ルティア陛下が演説で稼げる時間も限りがあります。走ることに注力した方が良いかと」

「ああ、まったくもって正論だ!」


 王宮にて合流したスカーレットに悪態をつきつつ、地下に下りる。

 地下通路を走る中、耳に飾った鈴がリン、と音を立てた。


『ルティアの演説、始まりましたよ。そちらはどうです?』

「今走っている所だよ!」


 言いながら鈴を弾いて、ルティアのものと繋げる。奇跡を起こす瞬間を計るためだ。


『――の魔力化、マナの枯渇。これらの異変を、フラマティア神の怒りだとする声もあります。とんでもないことでしょう。人にとって都合の悪いことが起こったとき、すべてを不心得者のせいだと原因を追究しないのは、思考を放棄した行いと言えます』

(よし、着いた!)


 勢いあまってローグティアの幹に手をつき、大きく息を吐く。そして待っているだろうルティアへと報告する。


「いつでも、いいぞっ」


 途中、息継ぎのために妙な部分で言葉が切れたが、通じてはいるはずだ。


『神の名を、都合よく騙る者たちに告げましょう。貴方がたが思う程、神は世界に無関心ではない。ゆえに』


 しゅす、と衣擦れの音がする。どこかしら体を動かしたためだ。おそらく、祈りの姿勢を取った。


『ただ、誠実であれ』

(ここだ)

「スカーレット、繋げろ」

「はい」


 スカーレットの補助を受け、アゲートが各地で刻んで回った印の位置を補足する。


 ルティアの祈りに呼応したように見せ、エルデュミオはローグティアから聖神と魔神のマナを半分の割合で具現化させ、光の柱として立ち昇らせた。


 まずはフラングロネーアで、最も強く輝く太い柱を。それからクロードから情報を得て、外交官を派遣した国々の首都にあるローグティアに。


 そちらには二回りほど力を弱めた柱を出現させる。誰の目から見ても、明らかであるように。

 そのほか、やや魔力化が進んだ国々にもさらに細い柱を立てた。


 ストラフォードに益のある国だけというのはあまりに露骨だし、これはセルヴィードへの認識を覆すための一石でもある。


 光の柱は天へと昇った後、幾筋もの戦に別れて地上に降り注ぐ。

 害を与えるものではない。地面が少し抉れるぐらいだ。ただしそこで幾つか、壊れたリザーブプールが発見されることになる。


 ――遠く、歓声が聞こえた。


 それは耳のピアスから聞こえたものであり、深くローグティアと触れ過ぎたエルデュミオのマナが、地上で起こったことまでをも拾ったものでもあった。


 ふらつきながら手を離し、地面に座り込む。


「……とりあえず、これでシナリオ通りには進んだはずだ」

「後はストラフォード外交官の手腕次第ですね。まず大丈夫でしょうが」


 信仰心が薄くはなれど、それでも人の心はまだ聖神を信じている。だからこそ、直接神の力を目にすれば衝撃は大きい。


「……ふっ」


 もの凄く、疲れた。

 しかし気分は悪くない。


 エルデュミオの唇には不敵な笑みが浮かんでいた。


「さて。少しばかり時間がかかったが、そろそろ反撃といこう。この僕を陥れようとしたんだ。その愚かさ、思い知らせてやる」

「ああ。そして世界を歪める行いへ、制裁を」


 お互いの目的への本質はややずれているが、問題ない。そのための行動は一致している。


「……ま、実際にはあともう一仕事、だけどな」


 地上での後始末が待っている。




「くっくっく。いや、重畳、重畳」


 今後の騎士団の編成を聞きにエルデュミオが団長室を訪れると、アイリオスは機嫌よく髭を撫で、不気味な笑い声でもって歓待してきた。


「じゃあ、上手くいったんだな」

「うむ。大方の膿は出せたじゃろう。気を抜くわけにはいかんが、派手な行動を起こせるだけの人手も力も、もうあるまいよ」


 王族が身の回りに気を遣わねばならないのは、大なり小なりいつものこと。そういう意味での平時に近くはなったらしい。


「ルティアを囮に使ったんだから、誇るほどのことじゃない。上げてしかるべき成果だ」


 正式に反逆者として捕らえた騎士たちからも情報を得て、粛正は厳格に行われた。さすがに、これ以上潜んでいる者は多くあるまい。


 そして第二部隊と反逆者の、どちらでもなかった三割の者たち。

 彼らはアイリオスが功績を与えたかった者たちと、失点を付けたかった者たちである。


 王女の危機を前に護衛としての役目を果たせなかったとなれば、重要な役目から遠ざけられても仕方ない。その逆もしかり。


 自身の進退を決めたのは、各々の行動だ。出世も左遷も受け入れる他はない。


「それも陛下を護るためよ」


 下手な誰かに聞かれれば不敬だと責め立てられそうな指摘にも、アイリオスは顔色一つ変えずに言い切った。


「さて、せっかく来たのだ。一つ相談に乗っていくがよい」

「僕は他の部隊の内情には然程詳しくないぞ」

「分かっておるよ。軋轢を避けるため、あえて騎士団の外側にいたからじゃろう」


 言ってアイリオスは机の中から一枚の用紙を取り出して、エルデュミオへと差し出した。正に、エルデュミオが確認しに来た騎士団編成の草案だ。


 フェリシスが部隊長に昇格していることも含めて、特に異論はない。ただし気になる点はあった。


「騎士団長が空白だが?」

「一応、意向を聞いてみようと思ってな。――エルデュミオ・イルケーア。騎士団長を拝命する気はないかね?」

「……」


 もしかすれば、その提案が来るかもしれないとは思っていた。


「これまでの君には、国外に出る可能性があった。しかし邪神信徒となった今の君に、婿の貰い手はないじゃろう。あったとしても、王族からの打診ではない。そして王族でなければ君を国から手放すほどの利益はない」

「うるさいな」


 これまで、せっかく苦心して保ってきた己の価値が策略一つで地に落ちたのは面白くはないのだ、実は。


「継ぐ領地は代官に任せてもよかろう。公爵とて、己自身で管理している領地は一握り。さして変わらん」

「まあ、僕の血統ならなしじゃないよな」


 団長を継ぐにしても血筋だけで箔は付くし、今ならばアイリオスが後ろ盾として指導できる。その体制を取れば、名実ともに文句は出てこないだろう。

 ストラフォードにとって悪くない人選と言える。しかし。


「けど、遠慮させてもらう」

「理由を聞かせてもらえるかね」

「王族の婿にならなくたって、国を離れることはあるだろ。まあ、戻ってくるつもりだけどな」


 エルデュミオの言い様で、アイリオスには通じた。

 唖然として言葉を失ってから、数秒。実に楽しそうに笑い出す。


「成程、成程。それならば騎士団を継いでいる場合ではないし、許されぬ。しかし思い切ったものよ」

「色々と、思うところがあるんだよ」

「結構。では、この席は埋めてしまうとしよう。いずれ公爵の椅子に座るのであれば、君にはなくてもよいだろうしな」

「ああ。相応しい奴に渡してくれ」


 次の候補も決まっていたらしく、アイリオスはその場でペンを走らせた。


「さて。ストラフォードでは一段落着いたと言えるが、次に騎士団の手は必要かね?」

「分からない。けれどいつでも動けるようにはしておいてくれ」

「よかろう。では、そのように」


 うなずき、アイリオスは草案の容姿をくるくると丸め、引き出しの中に戻す。


 体制が変われば混乱は避けられないので、少なくとも状況がもう少し落ち着くまでは現状のままだろう。それとなく、周囲には伝えていくだろうが。


 そうすることで混乱が抑えられるという面もある。


「そういう訳で、僕はまたしばらく留守にする。後のことはレイナードに頼む」

「うむ」


 アイリオスが請け負ってくれれば、エルデュミオとしても安心である。頭を下げ、騎士団長室を後にする。


 部屋の外でスカーレットと合流し、城門へ向かって歩き出す。

 屋敷に戻ってリーゼと合流したら、次はツェリ・アデラだ。


(汚名を払拭する。そして)


 世界の意思を塗り替え、創世の種に対抗する力を得るために。


(聖王の席、僕がもらう)

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