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あんたも一枚かんでたんかい!?

混沌すぎる

 常世は、常春(トコハル)で空模様も常に晴天のはずが……あの角を曲がった途端に空が秋の夕暮れ時のように朱に染まり、草原の真っただ中に俺は立っていた?


 見渡す限りの草原にかかる地平線は、日本の原風景を残したはずの常世の光景とは異質過ぎた。


 不安に襲われ、途方に暮れていると……、


「どうして、ここにいるんだ?」


と唐突に後ろから声を浴びせられた。


 振り返れば、作業着姿に帽子を被った中高年の男性が声の主だった。


 普通ならば、ここで泣きじゃくりながら、この“おっさん” に縋りついて状況を説明するところなのだが……この匂いに記憶有り!


「教授、こんなとこで何やってんの?」

と記憶にある人物を愛称で呼んだ。


 俺の声を聴いた途端に“教授”は、いつもは無表情なはずの表情筋に神経が通ったのか?


「えっ?大口!!……お前か!?」

とここ百年でやっと覚えた驚きの表情で俺の顔を見返した。


 この“教授”は、俺が幾度となく転生したなかで出会った異種族のなかでも一番の変わり種で……【旧支配者(オールドワンズ)】の一つ、イースの種族出身で精神のみの時間旅行から帰還した際に敵対種族=“古のもの” に円錐形の生物の器を破壊され、間違って不定形生命体ショゴス(ショゴスロードとみられる)の脳を固定化していた個体に憑依、精神的ショックから億から数千万年の単位の時間を仮死状態で北極海上に浮遊していたが何故か、

「そのとき、奇跡がおこった?」

 ご都合主義的に日本の太平洋側しかも、大洗海水浴場に漂着!ショゴスの体をのっとり、人間に擬態して某大学の教授職に就て生存中。

 俺が大学生時代に教養で受けた講義で教授が教壇に立っていた際に互いの異質さからか?無意識にだが人間ではないだけに変に気も合い、別学部だったのに研究室の学生も交えた飲み会にも誘ってもらい。

 何度も酒を酌み交わした仲だった。

 現世にまだ、いたはずなのだが……どうして?ここで再会できたのか?互いに驚きながらも、しばらく、言葉より正確な思考転写(テレパシー)で情報のやりとりをした結果!?

 時間旅行は、今の状態のままだと試した途端に時の番犬“ティンダロスの猟犬”に追いかけられるが平行世界への干渉は問題がないらしくて、智の探求を満たすべく平行世界=異界の知識を得ようと移動していると、よく時空の迷子にあった人間に出くわして、さっきのように、

「どうして、ここにいるんだ?」

と声を掛けて、なるべく元の世界線に近いところへ返してあげているそうだ。

 元の世界へ返せれば、そうするのだが異界の存在である教授が干渉してしまうとどうしても、バタフライ効果で大同小異、異なる世界にしか返せないのが理由らしい。

「時(チョメ)のおっさんって、教授だったんか?」

と独り言ちた。

 今、この平行世界で会っているのは、教授の化身(アバター)=(ショゴスの細胞を増殖、培養させた一種のクローン体)へ精神を一時的に移したものだそうだ。

 互いの近況も思考転写(テレパシー)での情報交換で理解できたのたが……常世は、様々な平行世界と繋がっているせいか?次元の歪みというべき落とし穴が、そこかしこに点在しているので……魂魄の状態は素粒子より、細かい存在なので余計に落ちやすいらしい。

 それで不意に落ちてしまったのだろうと無理矢理、納得させられる。

「常世に戻るのは、不可能かな?」

と諦め気味に教授に相談すると、

「問題ないよ!」

と素っ気なく答えられた。

 そもそも教授に人間っぽさを求めるのが間違いだったと気付きながらも安堵した。

 常世=死後の世界なのでどの次元にも繋がりやすく、移動の結果に差異がないらしい。

 教授に差し出された手を取って、秒も待たずして、景色が反転する。

「えっ!えっー!!……本当に戻った!?」

とあの角の前に戻っている。

 教授に向かって“シャッー!”と威嚇するミーちゃんの鳴き声でやっと常世に戻ったと実感できた。 

「問題無かったろ?」

と、声をかけられて、まだ、教授の手を取っていたことを思い出した。

 とっさに手を離して、周囲を見渡す。

 この“二丁目” で、いらん誤解を招きかねない所作である。

 教授は、謂わば精神生命体なので常世にも存在できると分かったのも発見だった。

「これから、飲みに行くんだけど?」

「一緒にどうだ?」

と誘ってみたが……精神生命体に酒がどのような効果があるのか!?

 考えるだけ、野暮だと思いながら、誘いに乗った教授も“常世で酒を飲む!” とはどのような効果があるのか?

 別の意味で興味をそそられて、

「行ってみようか!」

 とつ付いてくることになった。

 商店街の昭和中期(30年代)の雰囲気を醸し出す雑居ビルの地下入り口の階段を下りて、黒い鋼鉄製だと分かる分厚いドア、馬蹄(ドアノッカー)を叩くと細い覗き穴が開き、こちらの目と合うと青い目の持ち主は、

「空いてるよ!」

と不愛想な返事で返してくる。

 不愛想は、いつものことだと教授へ目配せして店内へ。

 店の名前は、「Chaos(カオス)」という、右にカウンターが奥まで続き、左のボックスシートが5つのこじんまりした店である。

 さっき、返事をした男性がオーナーで、奥の方でグラスを黙々と磨き上げている。

 店の事は、すべて一人でこなしている。

 無口なら……100点のオーナーなのだが……バーテンダーベストに黒シャツの漆黒のいでたちから

“Hey men!”

と低い響く声のあとに……裏返ったオネエ口調で、

「今日は()うしたのー?」

と囁かれると普段だと動揺することがない教授まで脳が揺らいでいる。

 見た目は、地中海沿岸、北アフリカ系の風体でイケメンなのに……中身は、いささか残念ハードコアなところがある。

 愛称は……ウラ☆Tinと実は……ジョークで俺がつけたのを当人が苦笑いしながら案外、気に入って使っている。

「奥のBOX席へどうぞ〰!」

と招かれて、人間臭く、おどおどしがちになった教授を奥へ座らせ、自分も座って、 

「もー、ボトルは切れてるだろうから……。」

「質の良い、ネクタルかソーマある?」

と神酒を冗談交じりに注文したんだが……、

「あるよっ!」

と急に渋めの声で返された。

 グラスで出された「ネクタルとソーマ」に流石に恐縮しながらも教授と20数年ぶりの再会を祝い、静かに祝杯をあげる。

 表現がチンプになりながらも神酒の名に恥じない美酒に喉を潤しながら、

「今、大学で何やってんの?」

と聞けば、目下の目標である量子チップと量子コンピューターの開発実用化の為、某学園都市地下全周数キロになる粒子加速器でへレナスという外国の財団からの多額の援助でまだ名称も付けていない新たな素粒子の衝突実験に没頭していたらしい。その実験データから超対称理論に紐づけられる、余剰次元理論の完成が必要だったからとか?

――CERNでも難しい実験を……あそこで?――

“……へレナス財団!? ”

「あんたも、一枚かんでたんかーいっ!?」

と教授を右手の喉輪攻めで押さえつけ、

「マスター、界面活性剤なら、どんな洗剤でもいいから出してくれる!」

と左手で受け取る用意!唯一の教授の肉体(不定形生命体)の弱点でとどめをさそうとすると

「おいっ!?あの実験で起きた事故は、あっ、あれは……金髪の白人にしては、童顔で……お前がよく言っていたDTっぽく……見せかけて、女……癖の悪い……カセイジンの特徴……そのままのへレナス財団のCEOに妨害されたからだ!」

と釈明される。

「やっぱり、あいつ、殺しちゃおっかなー!」

 と言いながら、“喉輪責め“を緩めず、ヘルメースへの殺意が本気で湧いてきた。

“不定形生命体には界面活性剤が効く!?”

ゆうきまさみ氏の鉄腕バーディーのネタどころではなく、ここから既にクトゥルフ要素が入っていた。


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