――“ΙΧΘΥΣ(イクテュス)”魚――
昼でも空に雲がかかり薄暗い【廃都】の3階層はあった高さ12mの宮殿跡が聳える中心地区。
何者かが建立したのか?東西南北四方に小さな祠が外に向け砂を被りながらも鎮座している。
“ゴキィリ!”
石の祠を革靴に被せた鉄靴の爪先を引っ掛け躓くどころか、
“KAAA-BOOOOOM!”
走ってきた勢いで蹴り飛ばされ石壁へ打つかり砕け散った。
“あっ!納められてた『パズズの神像』まで割っちまった!?”
この異世界、乗馬の『鐙』といい。
――変なところが文明と文化が歴史の順を通り越し交差して存在している。
このグソクムシのような鉄靴もである。――
祠を蹴り壊した男は、反省などせずに現世と違う文明、文化の過程を経ているのも転生者の影響では?と考えられるのも2つの世界を知る者。
宮殿を囲う城壁の厚さが凡そ25ftもあり半壊した拱門の狭くなった入り口を潜らなければならない。
都市部から宮殿への坂道の瓦礫も撤去されておらず足場も悪い。
止む得ず馬の鞍から降り、灌木の枯れ木の幹に手綱を巻き付け馬の口吻を撫で宥め。
『俊足』とも違う『技能』/『縮地』を駆使して坂道を駆け上がってきた。
……その勢いで【廃都】の住民達から“禁足地”とされている宮殿跡区画を閉ざすように配置されていた祠の一つを破壊してしまった。
“何かヤベェ〰️!”
男の本能がそう自身へ告げる。
“クワッ!”
皺だらけの顔に窪んだ眼窩から眼を鋭く光らせた。
頭は剥げ白い髭を手入れもせず伸び放題にした襤褸切れのように傷んだ服を纏わせた老人が曲がった腰を杖で支えながら転がった石に転げそうになりながらから男に近寄ってくる。
禁足地されている宮殿跡から必死に降りてきた老人が砕け散った祠の瓦礫を目で確かめる。
「あの祠を壊したのは……お前か〰️!?」
杖の石突を男へ向け震わせ叫び問うた。
“コクリ!”と男も顎を引き頷く。
「もう【廃都】はもう……ダメじゃ〰️!!」
「お‥終わりじゃ〰️!」
「お前も……数日と経たずに死ぬぞ〰️!」
“ガク!”と両膝を石畳へ突き。
老人も両手で杖に拝むように縋り付きすすり泣き出した。
「ダメだよ〰️!ハイ死亡ってぇ〰️!!」
「ハイ!もう一回。」
頭に黒いターバンを巻いた男は片手で肘を抱き、もう片方の手で頬を押さえ老人へダメ出しする。
大将のように目が笑ってるようで冷酷な眼差し。
“エッエッ!”
“出オチですぐ幕間に消えるつもりだったのに!?”
パニックに陥った老人へ男は、決して“こうやったら!”とアドバイス、ヒントすら与えず、頭に浮かんだイメージどおりに演者が出来るまで何度も繰り返す……笑いの鬼である。
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70歳を越えてるだろう老人が体力をスリ減らし声も枯れ杖も持てなくなり前のめりに、
“バタン!”
と倒れ手を伸ばした。
「う〰️ん!もう一回。」
――“男からの鬼のダメ出しで老人は俯せに倒れ、ピクリともせずに……息を引き取った。”――
ウルドゥン渓谷の底を流れるウルドゥン川、“下降する川”の支流が宮殿跡の地下を通っていた。
地下水路として【廃都】の生活用水とされていた地下隧道をBOSS/ニュクティーモスとサンチョがベージュのストラを纏った『深きもの』に案内されながら進んでいた。
「まさかな〰️!アケソーが助けた『深きもの』があんたらだったとはな〜!?」
市場で焼き立てのピタパンを買った相手がそれとは思わなかった。
現世の古代希臘で出回った劣化コピーのオリハルコンを鉢金に使用した軽装の兜/鎖帷子頭巾を頭に被り、炭鉱夫のカンデラを付け灯し、地下水路を照らしながら『深きもの』の女性がランタンを翳して案内され後を付いていく。
“下水は流れてませんね?”
サンチョも鼻が利き不思議に思いBOSSに念話で同意を求める。
「生きてる奴が居なけりゃ当たり前だろ!」
後ろを警戒しながら付いて来たサンチョへ振り抜きもせず、怖いことを口にする。
“確かに鼠一匹、目にしてねぇや!”
サンチョの背中にブルッ!悪寒が奔った。
「アケソーとはアシュドドにダゴン教団の連中が邪神像を持ち込んで来る前から……幼馴染だったんです。」
まだ、宮殿区画の下までは遠いらしく独り言のように昔話を始めた。
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午前中、サンチョも自前で簡易シャワーを魔法鞄に入れ持ち歩いていたらしく無事にシャワーを浴び終え。
綿の下着を着て足に洋袴を穿き。
上に鎖帷子を着込み。
その上にBOSSから頂いた『板札鎧』をマシニッサに手伝ってもらい着込んだ。
手甲といっても手の甲まで掌は皮革グローブの物、足は脛当てまでにして音を立てぬよう貴重なゴムを底にした革鞋を履いている。
得物は出処の怪しい手甲鉤、針千本など袖下に隠せる暗器の類ばかり。
ゴトラの下にも鉢金を額に巻きイカールで結ぶ。
鎧を隠す都市迷彩っぽい灰色のディシュダーシャまで羽織れば、怪しい“Arabian Ninja”である。
「出立の準備もできました!」とBOSSの部屋をノックしようと廊下を出れば、隠れ家へ歩いていた間にアケソーを見かけ、隠れ家の前でウロウロしていた『深きもの』の女性をアルフレードが見つけ縛り上げるのもどうか?先に部屋へ入り報告していた。
報告を受けたBOSSも判断に迷う。
BOSS/ニュクティーモスは、『深きもの』を【廃都】で見かけても自身に関わらねば見過ごそうとしていた。
それが冒険者パーティー『囚人部隊“LIBERTY”』の“隠れ家”を探しているような素振りを見せ、
――“殺るしかないか!”――
BOSS/ニュクティーモスは、非情な判断を下そうと自ら剣帯に挿した【白刃魔刀】の柄に右手をかけたのを小さな窓から外を眺めていたアケソーが、
「彼女は私の友達です!」
と言い出し身を挺して止めるではないか!
『深きもの』の女性アイネは、都市国家『アシュドド』でCthulhuの侵略に付随した眷属『海神ダゴン』のダガンへの変貌、麦を“ΙΧΘΥΣ”魚の誤変換からダカン神の伝承を混乱させ、それが常態化しアシュドド一帯の【魔素】は犯され、市民の日常にまで及び……血筋に眠っていた奉仕種族『深きもの』への先祖返り化していく者達が顕在化していく世界の改変に遭い。
『アシュドド』へのCthulhu神勢力からの次元侵攻に世界の抵抗の“意志”かのように突如現れた謎の※“漆黒の怪人”に依って……それは阻まれていた。
※ep.335「怪獣vs怪人」参照。
“扉は開けた選んでくれ!”
“人を選ぶか?……邪神へ跪くか!?”
BOSS/ニュクティーモスが大事なメンバーの友人へ思考転写で地球本来の太古の神々と【外なる神】との狭間の都市国家『アシュドド』の生存者へ天秤にかけさせ選択を迫る。
“隠れ家”の扉を開け入って来たアイネへBOSS/ニュクティーモスが此の異世界で生きる選択肢を与えた。
出迎えたアケソーとアイネが再会を喜び抱擁し合う。
ナーイアス神族故に奉仕種族化を免れていたアケソーは、
――「人の意思を残し傷付いた私達を変わらぬ笑顔で(医療施設/医神アスクレピオス神殿)“アスクレピオン”に匿って癒してくれたんです!」――
アシュドドの“ダガン神殿の変”で手にかけた『深きもの』のなかに意志を残していたもいたであろうとニュクティーモスは絶句した。
――アケソーこそが眞の“英雄”、“勇者”であったと知る。――
眞の勇気をアケソーから『LIBERTY』のメンバーも学んだ。
風の噂で自分達を匿い逃してくれたアケソーが罪に問われ奴隷へ貶められたと聞き心配していたら、市場で見かけた男と怪しい一行に連れられ街中を歩いていたのを一目見て気が気じゃなく追いかけてきたという。
2人の邂逅を祝うのも程々に【廃都】の『深きもの』以外の奉仕種族、“【廃都】の奥”についてカーリム以外からの情報を得ようとBOSSが、
「アイネさんとやら、【廃都】の奥には何が潜んでいるか……知ってる?」
教室で“ワキャ♡ワキャ♡”騒ぐ女子に遠慮がちに話しかける男子のように質問した。
地下水路は【廃都】の南西へ出たところで地上へ流れ出しウルドゥン川と合流している。
“水”の首領Cthulhuの眷属ダゴンの奉仕種族『深きもの』を呪縛する“海からの呼び声”から逃れる為、『聖都』よりも海から遠く塩湖『死海』も遠くない他種族が隠れ潜む【廃都】は“ダガン神殿の変”以前からも少数ながら血族の呪縛から逃れようと『深きもの』の一族も移り住んでいた。
本能的に水に関わることに秀でた彼等は、【廃都】の生活用水施設の復旧に進んで働き地上よりも地下水路に一際詳しい。
そして今、人を選んだアイネから情報だけで良かったのに……地上への河口から足首まで濡らし地下水路へ潜り、其処から地上へ出るのが安全な宮殿区画へのルートだと教えられた上に案内してもらっている。
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