さようなら!ニュクティーモス!!
まだ、日も高いうちから、街中で起きた騒ぎを嗅ぎ付けた衛兵たちが押し寄せ始めた。
街道に女性達が昏倒したまま。
偽のヘルメースが拾い上げた短剣で横たわる両断されたディオの残骸から胸部下に埋設されていた銀色の循環液にまみれた擬似心臓装置『賢者の石』を抉り出し回収、「魔眼持ち」の女刺客のみ抱えあげ、『アダマスの鎌』の【権能】を奮い空間に亀裂を生じさせ、何処かへと掻き消えた。
大ディオニスと呼ばれるシュラクサイ領主は、この街で立て続けに起こっている事象に頭を抱えていた。
領主舘の窓から見える街中では、また、騒ぎが起こり衛兵も事態収拾に動いてくれている。
愚息は、手勢を集めて、ディケーが…あの厄介な盗賊に囚われているという占師の世迷い言を信じ、討伐を企て、奪還を謀っている。
今は、異界からの魔者への対処で警戒しているこのときに…こんな時に、あの腑抜けが…だから小ディオニスなどとしか、呼ばれない愚息は、落雷で命を落とした許嫁のディケーの死を認められずに行方を追うばかり……。
全てを知る筈の我がディオニュソス神は、ゼウス神の『虚ろ』に無謀な宣戦布告までする!
飛竜が視界の隅に入り、当惑する大ディオス、人類の最大戦力、竜騎士が飛来してくる!
戦闘国家スパルタでさえ、百騎はいない竜騎士が……七騎も編隊を組んで通達もなく、飛来してきた。
即座に衛兵達が城壁に備えさせた大型孥砲を構える。
魔法使い達が腰を抜かし、慌てて、防御結界を展開する!
長弓を構えた弓兵まで突破されたら…竜の亜種とはいえ、飛竜に「吐息攻撃」を市中に放たれたら、陥落どころではない!?
飛竜の首もとの胸懸に掲げられたスパルタを顕す兜の紋章を目にして、“友軍”だと城壁に構えていた兵達もほっと胸を撫で下ろす。
郊外に降り立った飛竜七騎の後、飛行帆船「アルゴー」が東風に運ばれ、ゆったりと船体を空に現し、シュラクサイに来航した。
憂鬱としていたシュラクサイ市民は、同盟国スパルタからの援軍である竜騎士、飛行帆船「アルゴー」に乗り、来航した英雄達に歓喜した。
竜騎士、イアソーンをはじめとする英雄達は、馬車で領主舘へと招待され、街中を騒がす行列となり、市民があげる歓声、大歓迎ぶりに機嫌よく応えていた。
英雄達の来航、ヘラクレースが聞いたら、前世のことだろうと全員、頬を張った倒すどころか?
シバかれ続けるであろう面々の英雄達については、知らせなければ!と心配事が増えた。
歓声が貧民街、魔窟にまで轟く有り様、同族とみられる女刺客をメルセデスの商館へ送り届け保護させた後、やっと富裕層の住宅地に佇む 幽霊屋敷で元の顔に身体も戻して、スティーブンスが闇で手に入れた紅茶を淹れてもらい寛いでいただけにマルクスには、耳障りでしかない。
あのスパルタから飛来した竜騎士が跨がっていた飛竜って……間近に見て翼竜とは、別の種に違いない!
恐竜と同時代にいた翼竜は、地上だと四足歩行だし?
見た目は、恐竜の獣脚類で前肢から発達した翼は、手首から指が特に第三指が異常に長く発達して皮膜がコウモリのように発達したものだった。
ルンペルの先祖が走竜のように品種改良か?遺伝子組み換えでもして創った種か?
現世の生物史と人の歴史が混沌に入り雑じる異世界ヘレナス、あの軍事国家も歴史の波に消されるべく国だった。
この世界に来てカルタゴは、まだいいが『アトランティス』まで存在することに面食らう。
無いのは、『羅馬』のみ。
いずれ、現れるのだろうか?
現世では、アトラス山脈の南にあった筈のアトランティスへ一度、顔を出してみよう!
それにしても、迂闊に現れたディオニュソスの化身の奴、“良いもの”落としていってくれた!
どう見ても……悪人にしか!?見えない貌でディオの心臓部『賢者の石』を手にしながら、ここからデータを抽出して、本拠地を掴めば……“イヒヒヒヒ!”と嗤う!?
主人の笑い顔を見たスティーブンスも幽霊なのにチビりそうになった。
「ちょっと!悪いことしてくるから!?」
とスティーブンスに伝えて、屋敷の庭に出ると隠れ家へ空間回廊を繋ぎ「門」を開いて、引き締めようにも漏れる笑顔のまま、指紋認証のセンサーへ右手を翳す!
扉が開閉して出迎えた顔に笑顔も凍る!
「お帰りな〰️い!ア・ナ・タ!!」
と出迎える、ヒロイン?の筈なのにろくに相手にされていないディケーの屈託のない笑顔が……マルクスを【氷の地獄】の王、アバドンに睨まれて以来の恐怖に陥れた!
「もう〰️!そんなに驚くことないでしょう?」
とディケーがマルクスの手をつかもうとした瞬間に『加速』と「技能」を発動させ、ディケーを避けてローメイの一室のドアを、
“ドン!ドン!”
と懸命にノックする!
通常時間に戻って、すぐに般若の形相でディケーの魔の手がマルクスの背中の肩に届く寸前、ドアが開きマルクスを引っ張り込み閉じられた。
腰を床に降ろして身を竦め、ぶるぶる震えだすマルクスに……、
“こいつ、本当に天狼と呼ばれた半神だったのかしら?”
と手で顔を被い、こめかみをさする。
「安心して、このドア自体にルンペルちゃんに時間停止の魔法をかけてもらってるから!」
とローメイが震えが止まらないマルクスに説明仕出した。
「それなら、物理的に破壊不可能だな!」
と目を輝かせて、ローメイに何度も頭を下げる。
全ての物理現象は、時間の流れがあってこそ起きる。
時間停止させてあれば、物体が破壊される現象が起こせない!?
それをすぐに理解してくれて、ローメイも少しはマルクスも冷静になれた!とほっとする。
それでも、腰を落としたまま、魔法鞄から取り出した人の拳二つほどの大きさの布にくるまれた物体をローメイへ差し出した。
まだ、震えているマルクスの手から、布にくるまれた物を受け取り、布をほどくと金属で出来た円盤状の物体……擬似心臓装置『賢者の石』とわかり、
“今さら分析の済んでいる物を渡されても?”
と目の前のものに当惑する。
「これは、ディオニュソスの化身だった人形から取り出した『賢者の石』だ!」
とマルクスが力なく大成果を説明する。
「じゃ〰️!これから記憶装置を解析すれば、ディオニュソスの本拠地どころか?」
「あいつらの手の内なんか!丸見えじゃない!?」
とローメイも踞っているマルクスにしゃがんで肩を叩き、健闘を讃える!
「それじゃー!早速、解析にかかるわー!!」
とはしゃいで地下の魔法工房へ降りていく!
ドンドンからガンガンと叩く音が部屋中に響くようになり、天井から埃が落ち始める。
このままだとドアの枠ごと、いや空間ごと……破壊しかねない!
ドアの向こうにいるディケーからどう逃げるか?だけが最大の障害になっているマルクスを残して……。
ノックの音が鳴りやんでしばらくたって、パンパンと頬を叩き、気合いを入れて、両足で立つマルクスの膝は、プルプルと震えている。
ゆっくり、ドアノブを握りドアを開けるとディケーの姿はない。
半身を出して、周囲へ目を配り終えて胸を撫で下ろす。
「そんなに……私を探さなくても〰️!」
と何処から?ディケーの照れながら出した声を間近に聞いたマルクスが背後から視線を感じて振り返るとすぐそこに……逆さになったディケーの笑顔と思わず、近すぎて唇が触れてしまう。
ディケーのガブリよりで奪われたのが真相だが、天井の梁に身を隠して、足を梁に掛けたまま、逆さにマルクスと対面したのだが…これが怪我の功名か?
あまりの恐怖に固まり、マルクスは、立ちながら失神している。
ディケーは、キスされたと勘違いして、“キャッ!キャッ!”しながら、隠れ家から出ていってくれた。
彼の影……【羅睺】でさえ、恐怖に震えていた。
それでも、元魔神だけあって、マルクスよりも早く回復すると触手を伸ばしてマルクスの頬をひっぱたき正気に戻す。
本来なら、誘拐してまで護ろうとしていたディケーの筈が……恐怖の対象と化している?
“やっぱり、生理的に無理……!”
と頭に暗記した別世界線の空間座標を遠隔視すると空間回廊を繋げ始める……ディケーがいない世界線への『門』まで開きニュクティーモスは、旅立った。
“さようなら〰️!ニュクティーモス、君の醜態は、忘れないよ〰️!?”
と見送る訳には、いかない某……ここでは、『名もなき神々の王』の意志の一つにしておいてください!
羽が生えたかのように軽やかな足取りで空間回廊を進むニュクティーモスを巨大な右手が阻もうと……その前にアストライアーに捕まり……馬乗りになった【星乙女】……“未来の嫁”に
ニュクティーモスがフルボッコされていた!?
“それが!いけないんでしょうが〰️!!”
と、ニュクティーモスを阻もうとしていた巨大な右手が……逆に裏拳で“バチィーン!”と時空の歪みに【星乙女】を沈める?……本当にヒロインなのだろうか!?
“大丈夫か?”
と第三者ながら、死にそうなニュクティーモスを力加減も優しくして介抱する巨大な右手、
“すまない…女性の本質も所詮、人間……ゲスなところもあると知ってしまっている某の経験が反映され過ぎてる!”
と……どの目線か?もお察しください。
“アストライアーとも向き合ってくれ!”
“すまない……!”
と謎の言葉を残して、某……存在は、ニュクティーモスの身体を元の空間に戻した。
“主人公で……ここまで女運のない奴って……『聖典』にもいただろうか?”
と元?魔神【羅睺】にすら、憐れみの視線をおくられる……ニュクティーモスに明日はあるのか?
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