ゾンビ女子高生がだべる話[お食事編]
「ゾンビ女子高生がだべる話」の続編になっていますが、単品でも大丈夫です。
ここは地球、隕石が落ちた事で地下からゾンビが現れ、あっという間に人間が支配された星。
そんな世界にひっそりと……いや、どっしりと佇むのは『私立女子百合薔薇学園』だ。
ゾンビ専用の女子高で、地球を支配した記念すべき20年前に開校。
この学校に入学出来るのは、ゾンビ世界に将来貢献できる若者だけ。
学力は勿論、その他に秀でた能力を持っている……そう認められないと入学どころか試験場にすら行けない。
そんな、超名門校の廊下でだべっている、二人の女子高生がいたのです。
「クソッ、んのたんの野郎マジで廊下に立たせるとかありえなくね!?」
青白い肌で右腕と左足の皮膚が溶けているゾビ子が、担任の先生の今野……今野+担任であだ名が『んのたん』というおじさんゾンビに対しての文句を思いっきり垂れ流す。
「そうだよね~、こんなに儚げな女子高生を廊下に立たせるなんてさぁー。」
青白い肌で右肩と右ふくらはぎの裏の皮膚が溶けている、ゾビ子の親友ゾビ美が儚げという言葉に合わない……主張の強すぎる豊満な胸に手を当てて言った。
巨乳を通り越してもはや爆乳なその胸を見るゾビ子は、何かと声が響きやすい廊下だと分かっていながら、自分の気持ちを抑えきれずに。
「こーんな立派なモノ持って、どこが儚げなんだよ!!」
若干……いや、かなりのひがみを混ぜながら叫んだ。
勿論、教室の中にいたんのたんに怒られ、放課後居残りの刑を言い渡されたとさ。
その日の夜、無数の暖色系ライトが25mプールや円形プールを照らす庭を一望できるダイニングルームでは、毎夜繰り返される銀のカチャカチャとした音だけがしていた。
二人で使うには長すぎるダイニングテーブルの端には、天井のシャンデリアに負けず劣らず輝く装飾品を身に纏い、オーダーメイドドレスを着こなすゾビ子。
反対側には口髭と顎髭を生やし、明らかに高いと分かるジャケットにパフドクラッシュ折りしたポケットチーフを胸ポケットに挿し込む中年男性。
なんとこの男、ゾンビ界のトップゾンビ5に入る名家の当主であり、ゾビ子の父親であるゾビルストファー三世なのだ。
因みに余談だが『ゾビ子』というのはあだ名で、本名は『ゾビリーナ・ゾビルティーヌ』だったりする。
だが、ゾビ子を本名で呼ぶのは、父親のゾビルストファー三世……略してゾビ男だけである。
「……ゾビリーナ、お前はまた居残りを食らったそうだな。」
食事中に滅多に口を開かないゾビ男が、威圧感を発情期の動物並みに醸し出す様な口調でゾビ子に言った。
その瞬間、ダイニングルームには静寂が訪れる。
部屋の脇に立つ執事もメイドも皆、存在感を消した。
ゾビ子に助け舟が出される……そんな展開が存在しない空気だけが部屋にこもる。
「(こんな時だけ口出してくるクソ親父が!!)はい……(んのたんの野郎めっ、親父に定期報告しやがったな……)。」
「今野の話だと、宿題を忘れた上に私語を叫んだらしいが。」
「(元はと言えばお前が狩りに出ろっつったんだろ)はい……(狩りして宿題とか、花の女子高生にはきつすぎだろうがおい。お前のものさしで測るなよクソが)。」
「ゾビリーナ、お前は『はい』以外に何か言ったらどうだ? まったく、家では完璧な淑女に着々と近づいていながら、人前で不良の様にふるまっていては元も子もない事くらい理解できるだろうに。」
「(いきなり饒舌とか怖いわ)はい……申し訳ございません(なんで食事中に頭下げなきゃいけねーんだよおい)。」
「ふぅぅぅぅぅぅー。」
ゾビ男が長い溜息をついた。
お説教が長くなる……そう、ゾビ子は覚悟したのだが、ゾビ男は普通に食事を再開したのでゾビ子は驚く。
そして、驚きに追い打ちをかける言葉が発せられる。
「ゾビ子、昨夜の狩り……良くやった。」
「……えっ?」
それは、ゾビ子にとって幻聴を真っ先に疑わずにいられない台詞。
ゾビ男がゾビ子を最後に褒めたのは、ゾビ子の記憶では10歳の時以来なのだから。
16歳になって反抗期真っただ中のゾビ子は、6年前に脳内回想を飛ばしても幻聴を疑い続けた。
「この肉はなぁ……。」
ゾビ子が混乱している事に気づきもしない父ゾビ男。
ふちにツタの模様がほどこされた、平たい真っ白なプレートの上に載せられているミディアムレアのステーキを食べながら話し続けている。
ああ、正確には《切る→口に運ぶ→咀嚼→飲み込む→話す》のループだ。
くちゃくちゃと下品な音をたてる食べ方をするなんて、ゾビ男にとっては言語道断。
「……ふぁっ!」
おっと、ゾビ子が回想から戻ってきて、やっと父親の台詞が現実だと理解出来たらしい。
「……実は、人間界で昔権力を持っていた奴の子孫なんだ。」
「(あれ? これ絶対スリープ中に話し進んでるでしょ??)そ、そうなんですか!?(どうしよう全然分かんねぇぞ……)。」
「クククク……。」
「お、お父様?(えっ、親父壊れた? 嘘、スリープ中にマジで何があったんだよ!!)」
「ハァーッハッハッハー!!」
ゾビ男がいきなり悪の親玉風に笑ったので、ゾビ子の中で消えたはずの混乱がまた蘇ってしまった。
ただ、ダイニングルームで空気と化している使用人達は、異常な光景だというのに微動だにしない。
流石プロである。
「あの頃は楽しかったなぁ、人間が何十万人もの大群で対抗してきて!!」
「……あの頃、とは?」
ゾビ子は恐る恐る聞いた。
怖いもの知らずだったゾビ子だが、父親の異常なハイテンションは流石に怖いのだ。
「あの頃と言えば、20年前に決まっているだろう。」
そこでゾビ子は、ゾビ男が何を話しているのか……分かった。
記念すべき20年以前の地球、ゾビ子が生まれる数年前の世界。
人間達が独自の武力を持っていて、人口が今より数十億人程多かった時代。
「そいつはなぁ、権力だけじゃなく、知恵と体力……それに勇気を持ち合わせていた。人間のくせに、私の首を狙いに目の前に現れたんだ。」
「……それで、どうなったの?」
「一瞬で殺したさ。あいつの肉は美味かった……毒があると分かっていても、ついつい肝まで食べてしまったくらいに。そう……この肉に近い味だった。」
ゾビ子はついさっき知った事なのだが、20年前……人間の世界での年月で200年前にあたる年、ゾビルストファー三世が殺した人間の男には、妻と幼い二人の子供がいたのだ。
ゾビルストファー三世は男の肉を気に入り、人間の居住区まで作って子供二人を大切に扱った。
そのうち二人は成人し、それぞれ家族を持ち……殺される事に。
ゾンビ5はお気に入りの血筋の人間を繁殖させ、食べ、繁殖させるという行為を繰り返し続ける。
例え、実子がその血筋の人間を愛したとしても、それは変わらない……。
ゾビ子とゾビ美がだべる話は、前作「ゾンビ女子高生がだべる話」に含まれています。
そして、今作の反響次第では「ゾンビ女子高生がだべる話[恋愛編]」を公開するかもしれません。