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勝利確定! ケモミミメイドとの大博打


「これは誰が作ったの?」


目の前に並べられている豪華な朝食を堪能した与一は口を拭き、シェフが誰なのかを知るためにイリスに聞いてみた。


「私です」


 すました顔で答えるイリス。

 与一は頭を殴られたようなショックを受けた。特に自慢することでもないように振る舞っているが神レベルの腕前だ。異世界のメイドは化け物か。一家に一人、ツンデレメイドのイリス。


「あなたが神か。この功績に与一ごはんがおいしかった賞を授けたい」


 鼻くそより価値が無いかもしれない。


「ゴミにしかならなさそうですね、遠慮しておきます」


 めげない与一。おいしいものを出され、彼女の印象が上がり続けてとどまるところを知らない。このまま永遠に罵倒され続けたとしても、おそらくあと一万年は良い印象のままだろう。


「コレが食べられるなら毎日ここに泊まりたい」


「ここは本当なら外国の重要なお客様をお招きするようなところで、一般人がポンポン泊まるホテルではありません」


冷たくあしらうイリスだが、氷の仮面が溶け始めている。与一は彼女の顔が少しほころんでいるのを見逃さなかった。


「俺は外国から来てるからセーフだな。ていうか外国の重要な客人にもこの対応なのかよ……性癖だけなら俺の世界をかるく飛び越してるぞ」


『この世界の人間はかなり高度な訓練を受けているようですね』


 超科学文明の技術を持った人間は重要だよね? ……重要じゃない?

 暴言耐久レースをトップで爆走していた与一。

 一段落して、それを見ていたアルメラは食事をする手を止めた。


「ご主人様、今日はどうするんですか?」


「うーん、やらなきゃいけないことはいろいろあるからな……」


 与一がこの世界に来てからまだ一日しか立っていない。異世界の人間たちが棍棒を持ってウホウホしていないだけで異世界ガチャとしては大当たりだが、それでもまだ情報が足りない。

 街の探検、世界の情報収集、おいしいランチを探す。この世界で生活するために必要な物はまだなにもそろっていないのだ。


 どうせ遊ぶことしか考えていないだろうと、与一を確認しているコリエルは彼をサポートする人工知能として、彼が超科学文明人であるがゆえのある盲点が気にかかっていた。


『ギルドに行ってお金を入手しましょう』


 与一の世界ではベーシック・インカムというものが普及している。非常に極端に簡単に説明すると定期的にお金がもらえる制度なのだ。

 なぜそんな制度があるのかというと、人間の仕事は人工知能がやるようになり、人間は働く必要がなくなったからである。人類に残された仕事は宇宙で最後のフロンティアを探検することぐらいだ。


 さらにシンギュラリティを経過した世界では貨幣の概念がほぼ無くなりかけている。あらゆる決済は電子化され、そもそもお金を見たことが無いのだ。

 二〇一○年代ではコレほしい→店員さん、これください(チャリーン)→アザッシター(ありがとうございました)。だが、与一の時代では、コレほしい! →人工知能チャリーンで完結している。

 むしろほしいと思う前に個人の趣味の傾向から分析してすでに手に入っていることもある。


 つまり元の世界はお金が降って湧いてくるようなものなのだ。そのうえ貨幣に触る機会も少ない。コリエルは与一がお金の重要性を理解していないではないかと心配していた。


「ギルドってどんなことができるの?」


 与一がメイドに聞いてみると、イリスは人差し指をほっぺに当てて考え込む。


「冒険者の登録や危険な依頼の処理が主な仕事です。あとドラゴンの餌役は常に募集しています。ここ最近は特に」


 ホテルの従業員ですらもモンスターの活動を気にかけるまでになっているようだ、たとえるなら街の近くにクマなどの狂暴な野生の生物が出没するようなものだろうか。危険度で言えば比べ物にならないが。

 そんなことなど知らずに与一はまたとんでもないことを言い出し始めた。


「よし、ドラゴン絶滅やってみるか!」


「たぶん死にますよ」


 イリスが苦笑した。金づるが消えてしまうのが惜しいだけかもしれないが、警告するだけ当初より雪解けしているというべきか。

 ただその心配は無限のエネルギー源、ゼロポイントエネルギーを使える与一にとってはまったく無意味だ。


「いや、できる」


「はぁ……皆さんそう言って私の前から消えていくんです」


 なぜそんなに自信があるのか理解不能なイリス。ここまで個性的な人間に出会ったのは初めてなのか、頭を押さえる。一緒に重いため息もでてきた。


「そりゃあホテルだからね、チェックアウトするよね」


「この世からチェックアウトです」


「……人死に過ぎじゃない?」


 与一コリエルが簡単に倒しているから実感が湧いてこないかもれないが、本来、ドラゴン討伐は緊急クエストに分類される異常事態なのだ。

 普通なら一発で倒せる相手ではない。


「危険な依頼で大金を稼いでここに泊まる者も多いんです。昨日も宿泊する予定の人がまだ帰ってきていません。それぐらい危険なんです」


 与一を引き止め止めようとするイリス。氷の仮面はちゃんと人間が装備していたようだ。


「じゃあそこまで言うなら賭けをしよう。俺がドラゴンを退治してきたらどんなお願いも一つだけ聞いてもらう。俺が死んだらなんでも君の言うことに従う」


『……んん?』


 後半がおかしいような気がしたが誰も気にせずに話が進む。


「あなたが死んだらアルメラさんも死んじゃうんですよ。いいんですか?」


「わたしは大丈夫だと思います」


 銀髪の少女が否定するのが予想外だったのか、一瞬固まるイリス。

 あきれるメイド。アルメラの心配をしたのに、これではバカみたいではないか。

 イリスは深くため息をつき、与一の提案を受けることにした。


「良いでしょう。もし、万が一、外に出られるようになったらできたらなんでも言うことを聞きます」


「言ったな、じゃあやってやろうじゃないか」


 残念ながら与一の前ではフラグにしかならない。


 しばらくして食事を終えた与一たちはフードを身につけ、ホテルのチェックアウトを完了した。

 見送りにイリスとセニオリブス来て、最後の言葉を交わす。


「さようなら、与一さんとは少ししか話していませんでしたが、もう会えないと思うと寂しいです」


「罵倒しかされていないような……まあ、ドラゴンを狩ってきたらこのホテルにタダで持ってくるから楽しみにしてて」


「期待しないで待っています」


「いろいろありがとうございました」


 アルメラがペコリと頭を下げるとセニオリブスが微笑みかける。


「またいつでもお越しください」


 与一とアルメラは異世界の街へと繰り出していった。



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