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ツンツンメイドの朝ごはん


 目が痛くなるような純白のシーツがしかれ、大人が三人は収まるであろう大きさのベッド。

そこにぺたんと座りこんでいる少女の銀髪はベランダから入る朝日で輝いていた。


「アルメラって剣の達人だったりする?」


 与一が銀髪の少女、アルメラに優しく語りかけると、彼女はしょんぼりとして首を横に振る。


「うう、わたしそういうの全然ダメで……」


 嘘をついているようには見えない。


「……昨夜のアルメラはなんだったんだろう」


 考えられる可能性としては二重人格だろうか、しかし、専門家ではない与一が判断することはできない。


コリエルに調べてもらうのも一つの手だ。超科学文明の人工知能が搭載しているクリスタルメモリにはそれこそ海の水のように膨大な情報が保存されている。実はコリエルは与一の世界にある何種類かの人工知能の中でも戦闘向きに作られているので、一般的な人工知能より少し仕様が違うのだが、その中にはもちろん医学の知識もある。ほかにも軍事、政治、文化、などなど。


あまりの情報の多さに与一もすべての機能を理解できないほどだ。ただコリエルの機能を理解している人間など世界に数人しかいないので与一がおかしいわけではない。ある意味その膨大な情報を運用するために人工知能があると言える。


ただ魔法がある世界で与一たちの常識を適用することに意味があるのだろうか。

 与一がアゴに手をあてて考え始めていると、誰かが部屋のドアをノックしてきた。


「与一、おはよう……おっと、すまないまたあとで来るよ」


 ノックの正体はガンドムントだった。

 与一はなにを察したのかわからないが、慌ててドアを閉めようとするガンドムントを呼び止める。


「ガンドムント、ちょうどこっちも話したいことがあったんだ。アルメラちょっとごめん」


 アルメラを残して部屋の外に出る与一。


あらためてホテルの設備を見ると圧倒される。廊下でさえ上質なカーペットが敷き詰められ、それが遠くの突き当りまで続いているのだ。あらゆる備え付けが新品のような清潔さで維持されている。様々な作業を自動化で処理している与一の世界でも、手間を考えたら五本の指に入るレベルのホテルではないだろうか。むしろ人の手がかかっているという付加価値を考えればこちらのほうが値が張るだろう。


部屋の外ではガンドムントが気まずそうに待っていた。

 なにをそんなにモジモジしているのかわからない与一はそんなことなどお構いなしに話し始める。


「あいつ昨夜の事ぜんぜん覚えてないぞ」


 寝起きの与一とは違い、すでに装備を整えた騎士はこのまま魔王城へ進軍できそうだ。

 なにも考えていない与一を見たガンドムントは気を取り直し、せきばらいをして話し始める。


「ゴホン……ただ、あの強さは尋常じゃないぞ。昨日の夜に話したことを覚えているかい? 彼女が本当にダークネスエルフだとしたら大変なことになるぞ」


 真剣な顔で与一に忠告するガンドムントを見ると穏やかな話ではないようだ。


「なんで?」


「災厄の象徴なんだ、良からぬことを考えるやつも出てくる。最低でも昼の彼女は守ってあげたほうがいい。ただでさえ銀髪で珍しいんだ」


「ええ……迷信をガチで信じちゃってるやつがいるのかよ」


「恥ずかしながらね」


 昨日、与一が自身の世界の話をしたからだろうか、この国の恥部を見られていることで複雑な表情をするガンドムント。外国に自分の国の遅れている部分が知れ渡ってしまうときに感じる感覚だ。ただ、シンギュラリティを経験した与一の世界では国々の差など遠い昔に消え去ったので彼にガンドムントの気持ちなどわかるはずもないのだが。


 それも一瞬。ガンドムントは荷物を持って、別れの準備を始めた。


「すまない僕はこれから魔物退治で街を離れる。くれぐれも気をつけてくれ」


 これでひとまずお別れだ。

 王国最強の騎士は手を振り、歩み始める。


「いろいろ教えてくれてありがと。気をつけてね」


「困ったことがあったら執事のセニオリブス言ってくれ、かなり頼りになる」


「わかったありがとー」


 与一も手を振り、ガンドムントの背中が消えるまで見送った。


◆◆◆


朝食はホテルに設置されているレストランで食べられるらしいが、この部屋のグレードでは個室で専用のスタッフに作ってもらうことも可能らしい。今朝の話を考慮して、銀髪のエルフを人目から避けるために与一たちはブレークファーストルーム、朝食室で食べることにした。


その朝食室もそこらの高級レストランなどデコピンで倒せるレベルの豪華さなのでまったく不自由しない。


「朝食です。どうぞ」


 朝食はツンツンメイド、もといイリスが運んできた。

 イリスはスカートをはためかせながら、こうばしい香りを放つ皿を与一たちがいる広いテーブルに運んできた。


昨日と比べれば多少はマシになったが、振る舞いにまだ少しトゲがある。ただ、そんなことを忘れさせるほどの魔力が彼女の運んできた皿にあった。


「わぁ~、いい匂いだな~」


 与一も思わず鼻から大きく息を吸い込む。


焼きたてのパンに謎の肉、おそらくドラゴンの肉の燻製だ、それにとれたての彩り豊かな野菜といくつかの香辛料のソースを元の世界よりも贅沢に使い、一緒に挟んだサンドイッチ。


いわゆるベーコンレタスバーガーの完全上位互換の朝食だ。


 同時にイリスは思わずため息がでるほどの美しい飾り付けがされたティーカップを与一とアルメラの目の前に差し出す。


「きれいなカップですね、これはなんですか?」


 繊細な細工がされている取っ手を持ちながらイリスにたずねるアルメラ。超科学文明の世界に持って帰ったら即博物館行きが決定しそうなほどだ。


「今朝とれたばかりのフルーツを入れたフルーツティーです」


「どれどれ、いただきます」


 与一がためしに飲んでみると、


「う、うまい。うますぎる……っ!」


 手の力が抜け、危うくカップを落としそうになる。

 ティーバッグとは比較にならない香り、それに異世界の最高のフルーツ果汁を入れ、見事に調和した風味を感じさせるお茶だ。脂っこい肉を食べた後や三時のティータイムにお菓子と一緒に出されても最高の一杯。


イリスは得意げな様子で衝撃を受ける与一に視線を送る。


「風呂に入れて飲み干したくなるな。じゃあこっちはどうかな?」


 続けてドラゴンの燻製を挟んだパンにかぶりつく。シャキシャキの野菜とスモークが効いた肉にありったけの香辛料が調合された特製ソースが口の中で混ざり合う。

直後、鼻が、舌が旨味で包み込まれ、そのまま脳にまで感動の電気信号をショート寸前になるまで送りつける。


魔法でも使っているのか真剣に疑ってしまう。

シンギュラリティを経過した世界で美食を沢山経験した与一でも思わずうなる。見事な文化力だ。


東京のお店の料理と地方の漁港や農場でとれた新鮮な食材を食べ比べたことはあるだろうか。もちろん例外はあるが、東京には最高の料理人と食材が集まる。しかし、鮮度がどうしても現地で食べる物にかなわないのだ。


 やっぱ江戸前寿司って最高だわ。


東京の一流のシェフが最高の技術で調理する料理と地方のとれたて食材で最高の鮮度を活かした料理。どちらにも素晴らしい魅力がある。それと同じように与一のいた世界の完璧に管理された料理と異世界のとれたての野生の面影を感じる食べ物。どちらも最高だ。ただこのホテルには技術と鮮度、両方がそろっている。美味しくない訳がない。


「シェフを呼んでくれ。お礼が言いたい」


その後、与一が調子に乗って呼びつけたシェフは予想外の人物だった。



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