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進撃の超科学文明人


「そこをなんとかお願いします。なんでもしますから!」


 門の前での野宿に納得できない与一が食い下がる。

 まだ太陽だってそこまで低くないのになぜ門を閉めているのか。


「だめだダメだ、もう扉は閉じてしまったんだ。数人のためにだけに開けることはできない」


 しかし、城壁の男の言うことも一理ある。この扉の重量は半端なものではないだろう、しかもコレを動かす動力は彼らを見るかぎり、おそらく人力だ。きつすぎる。

 ここまで来て野宿か、しかしアルメラがいるのでそんなことは与一には受け入れられない。


「この壁破壊するか? 進撃して人類に鳥かごの中で囚われていた屈辱を思い出させてやるか?」


「ダメですよ、明日まで待ちましょう」


 アルメラが止めると与一も諦める。そもそも進撃などコリエルが許さない。

 野宿が確定して南極よりはマシだが、元の世界との生活レベルの落差にがっくりしていると、与一たちの後方から誰かが叫んでくる。


「おーい開けてくれ」


「おお! ガンドムントさん!」


 鎧を装着し、背中にクレイモアのような大剣を背負った男が、馬くらいの大きさの二足歩行のトカゲ、見てくれの良いラプトルに乗って城壁の下に来た。

 男に気がついた城壁の人は大急ぎで城壁の中へ引っ込む。その数瞬後に大きな金属がこすれる音とともに開き始める門。


「なんでや!」


 開いた扉から城壁の内側へと入れたが納得できない与一に先程の城壁にいた男が話してくれた。


「そんなことも知らんのか、彼は王国最強の騎士だぞ。今は魔物たちを駆除する任務で巡回しているのに外で朝まで待たせるなんてできるわけ無いだろう」


 ガンドムントと呼ばれる男はどうやら地位の高い人間のようだ。

 城門を一声で開けさせた彼はトカゲ馬を城壁の兵士にあずけ、興味深そうに与一たちの方へと歩いてくる。


 鎧を装着した真紅の頭髪の屈強な若い男。

彼は青年特有の爽やかな顔立ちとは裏腹に、何度も修羅場をくぐり抜けてきたことを物語る鋭い眼光を笑顔でできるだけ隠しながら与一たちに話しかけてきた。


「やあ、君達は旅行者かな? 道の横にドラゴンの死骸があったから急いで街に来たんだけど、なんともないようで良かった。それにしてもドラゴンがうろついてる中でよく無事にこれたね」


「え、あ、はい」


 予想より気さくな人間で拍子抜けする与一。


「もしかしてさっき壊れていた荷馬車は君達のかい?」


「いいえ、他の人のです、ドラゴンに襲われていた人を助けたらすぐに逃げちゃって」


 ドラゴンから人を助けたと言った瞬間に真紅の髪の男は目を丸くする。


「……ドラゴンから人を助けた? もしかしてドラゴンを倒したのは君達なのか?」


「そうですけど、おれなんかやっちゃいました?」


「な、なんだって! ドラゴンを倒すなんて親衛隊や宮廷魔導士しかできないことをこの若さでやったのか?」


 赤髪の青年が他の人間に聞こえる程の声で驚いた。ぼそぼそと近くの兵士同士が話し始める。


「嘘じゃないのか?」

「でもあの子達は城壁の外にいたんだろ? 今の時期に門の前にいるなんて自殺志願者しかいないはずだ」

「ドラゴンが暴れているのに無事ですむなんて明らかにおかしい、本当だろ」

「しかしあの若さでドラゴンを倒せるなんてガンドムント以外にいるとは思えないが……」


 城壁内の人間がざわつき始めた。視線が自身に集まり、体がかゆくなってくる与一。



「すまない、にわかには信じられない……良かったら街で少し話を聞かせてもらえないだろうか? もちろんタダとは言わない。この街一番の宿を提供しよう」


「二人とも、どうする?」


「わたしは街に入れるだけで十分です」


『彼はこの街一番と言っています。文明レベルを調べるためにもちょうどいいかもしれません。それに我々はこの世界の通貨を持っていません。お言葉に甘えるべきでしょう』


 与一がコリエルに話しかけると、男がコリエルに顔を近づけて舐めるように見つめてきた。


「そ、それは……ま、魔導石なのか?」


「まあそんなもんかな、たぶん」


 与一がこの世界に来てから学んだことの一つはとりあえずコリエルを魔導石と言っておけばなんとかなるということだ。たぶんこれから出会う人間は与一が魔導石といえば自分の中でストーリーを作るだろう。案の定、この青年も神妙な顔をして納得する。


「な、なるほど。君は宮廷魔導士だったのか」


「いや魔導士じゃないよ」


「まさか! 魔導石は宮廷魔導士にしか持つことを許されていないよ」


『私たちがいた国では宮廷魔導士ではなくても魔導石をもつことを許されているのです』


 コリエルが適当に話を作る。与一がこんなことで通じるわけ無いだろうと思いきや、彼はそれ以上なにも言ってこなかった。


「そうでしたか、飛んだ早とちりを。僕はガンドムント。君達の名前を聞いてもいいかい?」


「俺は与一、こっちはコリエル。でこっちが……」


 目で合図を送るためにちらりとアルメラを見ると彼女は決心したように口を開いた。


「わたしはアルメラです。ど、奴隷やってます!」


「あ、ああ自分から奴隷を宣言するなんて珍しいね……」


 成功だ。ガンドムントには若干引かれたがこの方法でイケるようだ。

 与一たちが名乗り終わると、さっそく彼に案内されて城壁の内側の土地へと足を踏み入れる。


「宿は少し距離があるから竜馬に乗っていこう」


 与一たちはガンドムントが引く移動用のトカゲ馬がつながれた馬車に乗って宿へと行くこととなった。

 白くざらつきのある体表以外は恐竜にソックリだ。


「これもドラゴン?」


「ん……ああ、こいつは竜馬と言って、乗り物用のおとなしいドラゴンだよ」


 最初に出会ったドラゴンと違い、非常に気性が穏やかな竜馬だった。ガンドムントに撫でられると喉を鳴らしもっと撫でろとせがんでくる。同じ種類とは思えない。


「先ほどから気になっていたのですがそちらのお方はエルフ……ですか?」


視線が気になったのかアルメラは目立たないようにフードを深くかぶる。


「そうだけど、なにかヤバいかな?」


「いえ、ただこの国は少し複雑な事情があるので偏見などで気を悪くしないでいただきたい」


「まあ、それはうすうす感じているから……」


「昔からこの国の人間と異種族間で小規模な衝突が起きており、先ほどのドラゴンもおそらく人間を良く思わない別の種族の手により、人の近くに来ていたのだと思う」


「大変だな~」


「僕も今朝から国内の危険な魔物の出現の対応に追われていて手が回らない状態。つまり、深刻な人材不足なんだ」


 ガンドムントの表情を見て、与一は重大な勘違いをしていたことに気がついた。これ眼光がキツイんじゃなくて疲れているだけだコレ。


「なるほどね、だから俺に宿でもおごって手伝ってもらおうってことか」


「まあ、そう言う事。ただそれだけではなく異国の事を聞きたいと言う単純な理由があるけどね、というかそれがほとんどだ」


「そう言うことならありがたくおごってもらうけど。俺は嫌だよ、他国の紛争に干渉するなんて」


「もちろんそんなことはさせないよ、ただ人手不足のせいで普通の仕事も圧迫されている。もしよければギルドに行って手伝ってあげてくれ、多少のお金にもなる」


「それはいいね。コリエル、後でやってみよう!」


『遊んでばかりいた与一が自分から働くなんて……嬉しすぎて泣きそうです。異世界転移も悪くありませんね』


「お前に目は無いけどな」


『そう言えばここはなんという都市なのですか?』


「ここはパーテリアエ王国の首都キャピタルだ。そこの崖から街を一望できる……ほら」


 馬車から身を乗り出して崖の向こうに広がる景色を覗いた与一。

 そこには、


「……っ! すげええええええええええ!!!」


与一の眼前に広がるのは、巨大な城を中心に地平線の向こうまで続く大都市だった。



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