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コスプレ監禁プレイ


 与一が吹き飛ばしたせいで、散らばった商品をどかしながらホロをかぶった馬車の奥へ進むと、中には檻に閉じ込められた銀髪の女の子がいた。


銀髪で肩まで伸びるロングヘアにどこか幼さが残る整った顔立ち、春先の木々に芽吹く新芽のような透き通った緑色の瞳でハイウエストスカートの似合う、おとぎ話に出てくるような尖った耳を持つ美少女だ。


 少女は鉄格子を握りしめ、涙で顔を濡らしている。

 檻に美少女を閉じ込める行為、元いた世界でも与一は似たような光景を見たことがあった。


「なんだなんだ、コスプレ監禁プレイなんてこの世界はなかなか進んでいるな」


『この世界は高レベルな文明が期待できますね!』


 超科学文明と近い文化を持つ可能性がある集団に接触できて二人はウキウキだ。


「やあ、怪物は倒したからもう大丈夫だよ」


 閉じ込められた少女に近づき、話しかける与一。しかし、泣いている理由は本当にドラゴンのせいだろうか?


「うぇ?」


 抜けた声で反応する少女だが、それでも愛らしい。これはコスプレ監禁プレイも納得だ。


「それにしてもなかなかこだわってコスプレしてるね! 耳とかすごくとがってるけどどうやってるの?」


「ぐすっ、お願いです、ここから出してください……」


「おっとそうだった。はいどーぞ」


 与一が鉄格子の扉に手をかけ、力を入れて引っ張ると南京錠のような鍵ごと扉が破壊され、開いた。

 開放されることが予想外だったのか目を丸くして固まる少女、状況が飲み込めていないようだ。


「えっ? 本当にいいんですか?」


「……? だって君の相手はどっか行っちゃったよ。一人でコスプレ監禁プレイしてもしょうがないでしょ?」


「???」


 銀髪の少女が首をかしげる。

さすがにコリエルもこれがただのコスプレ監禁プレイでは無いことに気がついたようだ。


『なにかおかしいですね』


「あ、あの、あなたは奴隷狩りの人じゃないんですか?」


「俺? 俺は迷子」


「え?」


『与一、あなたは物事をややこしくする天才ですね』


 収集がつかなくなる前にコリエルがハイウエストスカートの少女に質問する。


『お嬢さん、私たちはよその国から来ました。よろしければあなたの事を教えてください』


「しゃべる、魔導石?」


『魔導石? ええ、そうです。正確には人工知能ですが』


 幸いにもこの世界には人工知能と同等の機能を持った存在があるようだ。コリエルは一から超科学文明の技術について説明する手間が省けるので彼女に合わせることにした。


「俺達はまだこの国の事を全然知らないんだ、よかったら教えて。あとなんか食べ物ない?」


「わたしもよくわからなくて、森で泣いていたら奴隷狩りに捕まってそのまま檻に入れられていたらあなたたちが来て……」


 のほほんと近くに食べ物が無いか探し始める与一を置いて、コリエルが物騒な単語に反応した。コリエルに搭載されている第六感が嫌な予感を感じ取る。


『……この国には奴隷狩りの文化があるんですか?』


「お! ここに食べ物が! やったぜ!」


「わたしの村でも何人もさらわれて帰ってこないままで――」


「うまぁあああああい」


『与一、少し黙ってください』


「君も食べる? この干し肉? おいしいよ!」


 与一が車内にあった干し肉を差し出すが、少女は銀髪を揺らしながら首を横に振る。


「わたしたちは水と植物しか食べません。ハーフエルフは肉を食べる子もいるみたいですけど」


『ハーフエルフ? あなたはエルフなのですか?』


 少女はなぜそんなことを聞くのか不思議そうな表情をして丁寧にコリエルに答える。


「……? はい、だからさらわれたんだと思います。それに銀髪のエルフなんてわたし以外に見たことないから、とっても珍しくて」


「え、君の耳ってコスプレじゃないの?」


「コスプレ? はわからないですけど、これは生れつきです」


 少女がつややかに輝く銀髪をかきあげて自身の尖った耳を与一に見せた。


「マジかよすげえええええ」


 少女は少し恥ずかしそうに頬を赤らめ、まじまじと耳を見つめる与一から顔をそむける。

 しかし、ラブコメフィールドを展開している二人の外で人工知能はあせっていた。


『これは大変な事ですよ。奴隷狩りの文化があるような文明などレベルが知れています』


「いいじゃん別に。コリエルのクリスタルメモリには余裕でこの世界を超科学文明にするくらいの技術情報が入ってるだろ?」


『技術があってもそれを扱える人間がいなければまったく意味がありません。下手したら核戦争でこの星が終わります。時空転移装置を作って元の世界に帰るなんて夢のまた夢です』


「あ、あのそろそろ日も暮れそうなので夜になる前にどこかで野営の準備をしないと……ここは危険な魔物がたくさんいると思うので」


 おそるおそる少女が会話に割って入ってきた。ビクビクしながら車内から周囲を警戒する姿は子猫のようだ。確かに周りでは獣か魔物なのかよくわからない生物たちの鳴き声が響いてくる。


「ああ、そうか、そういう事も気にしなきゃいけないのか。まあ最悪コリエルに見張らせればいいけど」


『野宿の心配はなさそうです。近くに街らしき反応があります』


「よし、とりあえずめんどくさい問題は後回しにしてそこに行くか。君も来るよね?」


 与一が少女に手を差し伸べると、銀髪の彼女は少し戸惑いながら与一を見つめた。


「い、良いんですか? わたし、エルフだし、たぶん人の街に行ったら大変なことに……」


「大丈夫、いざとなったら俺が守るよ。コリエルもいるしね」


『それは構いませんが、この世界の状況が分かるまではできるだけ無用な騒ぎは起こさないで行きましょう』


「ありがとうございます。嬉しいです」


 不安そうな表情がやっとほぐれて与一に笑顔を見せる少女。

 とは言え本当に騒ぎが起こったら与一としても困る。人間と関係を悪くしたら元の世界に戻ることなど不可能に近い。なので、少し考えてみると名案が浮かんだ。


「さっきのおじさんは君を奴隷にしようとしていたんだろ? だったら君には悪いけど奴隷のふりをしてもらって街に入ろう」


『あなたにつらい思いをさせてしまうかもしれませんが、いいですか?』


「は、はい、大丈夫です」


 不安そうな少女も納得して、街に行くことが決まった。


「よし決まった。じゃあとりあえず一番大事なことを聞いておこうか」


「なんですか?」


「……君の名は?」


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