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誘拐犯、生存確認! みんな帰還の大団円(笑)


 街の中心部からいくらか離れた、砂地に大小様々な岩が散乱した人気のない地帯。外灯がない上に、厚い雲が空を覆い月明かりを遮っているため、視力を失ったかと錯覚するほどだった。


 もちろんそれはコリエルのホログラムがなければの話だが。


「こ、これは」


 殺意で表情を崩した銀髪のエルフも空に映し出された映像を見て、動揺に支配されていた。


まばゆい光を放ちながら空を貫く摩天楼、数多の星の海原を進む宙船。病気や労働から開放され自身の人生を謳歌する人々。

 そこに浮かぶ光景はどれも目を疑うものばかりであった。


上空に映し出された光景にあっけに取られるアルメラに与一は語りかける。


「これは嘘じゃないぞ。正真正銘おれのいた世界の映像だ」


コリエルが映し出したホログラムを信じた銀髪エルフは商人の首を掴んでいた手の力を抜き、彼を開放した。


「ゴホッ、ゴホッ! ひいいいい」

 

 咳き込みながら与一の後ろまで這いずり、逃げて来た商人。

 アルメラは無様な姿を見せながら与一に助けを求める商人に侮蔑した視線を送る。


「いいだろう、だが覚えておけ、もし嘘だったらお前を八つ裂きにする」


「鼻でスパゲティ食べるくらいならやってもいいよ」


彼女は与一が商人をかばう素振りを見せると、これ以上商人に危害を加える気がなくなったのか、与一たちに背を向けた。


「貴様の名前はなんだ?」


 去り際に銀髪のエルフが尋ねる。


「与一。ていうか昨日聞いておけよ!」


「そいつは好きにしろ」


そう言い残すと彼女は夜の暗闇へと溶けていく。

 しかし、好きにしろと言われても、こんな商人など誰もいらない。さよならバイバイしかすることはないだろう。


「ホテルに居るから朝には戻ってこいよー」


 アルメラに聞こえたのか、一瞬だけ振り返り、与一の視界から消えさった。


「あ、ありがとう、君は命の恩人だ!」


命が助かったと理解した商人は急に与一に感謝をし始めた。

暗闇で商人の顔を確認できなかった与一も彼が近づいてきたおかげで、やっとドラゴンから助けた商人だとわかった。


「……あれ? この前助けたおじさんじゃないか」


「ああ……この前はありがとう……」

 

親にイタズラが見つかったような表情でお礼をのべる商人。まあイタズラ(犯罪)のレベルが違うのだが。


「なんでここに……あ、なるほど」


 オリに銀髪エルフを閉じ込め、与一に助けられるも意味不明な言葉を残し逃走したあと、今度は拉致された銀髪エルフが激おこで商人を殺しかけていた。

 状況証拠のロイヤルストレートフラッシュだ。推定有罪。ここは法の支配が及んでいないから仕方ないね。

察した与一、物は相談と商人に商談を持ちかけることにした。

 

「おじさんって奴隷商の免許もってる?」


 商人はギクリと表情をこわばらせる。ほぼほぼ詰将棋。いつ投了するか見ものだ。


「持ってないです」


「重罪らしいね、どうなるの」


「死刑……です」


 自身の罪を自覚させ、交渉を有利に進めようとする与一。

 九十九割ほど恫喝だが、法律を尊重するはずの科学文明人が恫喝をしてまで手に入れたいものとは一体どんなものなのだろうか。


「黙っててあげるからお金ちょうだい。今日はずっと走りまわってたから宿代がないんだよね」


 日銭! 今日をしのげれば警察にパクられてもいいや! というスタイルだ。

 おっと、この世界は法の支配が及んでいないのでセーフだったか。


 悪い顔をしながらカツアゲを行う与一。こいつは本当に超科学文明人なのだろうか。


『この状況、どっちが盗人なんですかね』


コリエルが皮肉を言うと同時にイリスが驚嘆の声を上げる。


「そ、そんな! 簡単に許していいんですか? アルメラさんをさらったんですよっ?」


「え? この国の人って人攫いがふつうなんじゃないの?」


「しませんっ!」


 イリスが否定するが、説得力ないよね。


 正直な話、人さらいをしてようがしてまいがカツアゲ……もとい商談を進めることには変わらない。なぜならこの商人のせいで一日が潰れてお金が足りないのだ。仕方がない。


「まあいいや、おじさん頼むよ」


 与一は状況がつかめていない商人の肩に手をかけ説得する。


『与一、カツアゲは犯罪です』


「い、いえ! それで済むなら喜んで払います! 本当にすみませんでした」


 頭を地面に擦り付け土下座をする商人。自分の命とはした金、どちらが大事かは言うまでもない。なお、はした金の金額は帝国ホテルのスイートルームレベルの模様。


「やったぜ」


 交渉成立。やったぜ与一。商人の懐を生贄に最高級ホテルを召喚。これはもう禁止カードに指定されるレベルだ。


「ところでどこに宿泊しているんですか?」


命が助かった商人、だが肝心の与一たちの滞在先を聞いていなかった。恐る恐る尋ねてみると、


「ホテルトレステーラ」


 人さらいに襲いかかる特に理由のない(財布への)暴力。

 その言葉は商人を絶句させるには十分だった。


「……もう少しお手頃な宿で勘弁してくれませんか?」


「だめだよ、アルメラが戻ってこれなくなるじゃん」


 この期に及んで値切りか、イリスが商人の両肩を掴み、彼の身分を教える。


「命と端金、どちらがいいですか」


「ハイ……払います」


 降参した商人は死んだ魚の眼を手にれた。


『FXで有り金全部溶かしたような顔ですね』


 FXのハイレバレッジと奴隷誘拐はどちらのリスクがより大きいだろうか。実際問題、人さらいのほうがリスクは少ないのではないだろうか。奴隷の銀髪エルフ絶対守るマン(守れていない)と夜の銀髪激おこエルフがいなければ勝っていた。

負けなければ勝っていた理論だが、仕方がない。今回が外れのハズレで逆に三億円宝くじの一等賞のようなものなのだ。商人はあまりにも運が悪すぎて、反動で宝くじを買えば一等賞間違いなしだ。


 一段落して、コリエルを回収した与一。最初に人工知能に放った言葉は懺悔だった。


「ごめんなコリエル俺がもっと注意してればこんなことにならなかったのに」


『私もさすがに二日間で二回もさらわれるとは思ってもいませんでした』


 一日一回さらわれるとは、某ブラザーズの姫様のようだ。違いがあるとすればさらった人間を半殺しにして帰ってくることぐらいか。


「イリスさん、付き合ってくれて本当にありがとう!」


 多少は愛想が良くなったメイドにお礼をのべる与一。


「いえ、これも仕事の内ですから」


 ピンと獣耳を立て、相変わらず凛としたたたずまいで会釈をするイリス。


 今回の恩はどのように返せばよいのだろうか。とりあえず土下座だけでは済まないレベルだということは確かだ。


「お礼はそのうちするから」


「お気になさらず」


 イリスと軽く会話をしたあと、一行はホテルトレステーラへと帰還した。


◆◆◆


大理石の床、開放感のある三百人は収容できる空間に受付、休憩用にきらびやかな装飾が施されたソファ、高い天井には大きなシャンデリア。数階建ての宿泊用の部屋がどこまでも続いており、王宮と言われても簡単に信じてしまう規模のホテル。

 そうここはホテルトレステーラ。人生で一度は訪れるべきこの世のヴァルハラだ。


いくらカツアゲをしようと与一にも人の心はあったようだ。トレステーラに着いて、最高クラスの部屋を二つ借りると聞いたときの商人の顔ときたら、傑作だ。目に涙を浮かべ、頬を液体が伝っていく商人。さすがに与一も同情し、部屋を一つだけにするしか選択肢はなかった。どうせ夜の間にアルメラが戻って来ることはないのだから良いのだ。……良いのだ。


「よし、これで一件落着だな」


 宿泊の手続きを済ませ、アルメラも助け出し? これで大団円。


 のハズだったが、


「イリス。いままで何をしていた?」


 フロントで出迎えてきたのたは、どうやら事の経緯を知らない初老の男性、セニオリブスだった。


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