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夜のアルメラ出現!? 次回、「誘拐犯 死す」

「すいませ~ん、ここから出してくださーい」


 オリに入れられたアルメラ。

 彼女が周りを見渡すと、まるで洞窟をくり抜いたようなデコボコした岩の壁が目に入ってくる。

 生活感が無く、日常的に人が住んでいるようには思えない。まるで盗賊のアジトだ。


 彼女がさらわれてからいくらか時間が経過した。それでも諦めずに開くことはないオリを何度も揺らしているせいで、隣にいる誘拐犯の気に触ったようだ。


「ああもう! うるさい! サラダがあるからこれでも食べてろ!」


 誘拐犯は口元を布で隠し、目元しか確認できないが、相当イラついていることがわかる。


 誘拐犯をたいして気にするそぶりもなく、野菜を与えられるとムシャムシャ食べ始めるアルメラ。


「ホテルの野菜ほどではないですけど、結構おいしいですね」


 それにしても怒鳴られても動じない鋼の精神。明らかにさらわれることに慣れている。いったいどれほど誘拐されればこの度胸が出来上がるのか想像もつかない。


『あなたに見覚えがあります』


 アルメラと一緒にさらわれ、盗人の手元に置かれているコリエルが膨大な情報が記憶されているクリスタルメモリから、この盗人の顔の特徴と一致する画像を検索する。


『もしかして:昨日ドラゴンから助けてあげた商人さんですか?』


「なんだ、バレちまったか。まあ今さら正体がわかってもお前にはどうにもできないだろう」


 これ以上、顔を隠す必要がないと判断したのか、素顔を晒す商人。


『奴隷商人さん、怒りませんから私たちを持ち主の元に返してください』


 机の上の置かれているコリエルが商人を説得する。


「貴重な魔導石なんて返すわけないだろう。ダメだ」


『私たちをどうする気ですか?』


「少し遠くにもの好きな貴族がいるから売り飛ばすんだよ。普通に売ったら足が付くからな」


『やめてください。今ならごめんなさいですみますよ』


 コリエルの申し訳程度の説得では商人は聞く耳を持たない。後に控えているヤベー奴らのことなど知らなければ誰でもそうなるだろう。しかたがない。


「くくく、ドラゴンに見つかった時はどうなるかと思ったが、結果的に魔導石まで手に入って最高の気分だ」


 悪びれる様子もなく、反省の色もない。死亡フラグがどんどん増えていく。


 コリエルの必死の説得も効果がないまま時間がたち、日が暮れてきた。


 すると、アルメラが大あくびを始めた。


「ふああ~眠くなってきました」


『……あっ』


 察するコリエル。


 俺、帰ったら結婚するんだ! →死ぬ。


 やったか!? →やってない。


 エルフの奴隷ゲットだぜ! ついでに超科学文明の人工知能も! 明日売り飛ばしたろ! →???


「なんだ早寝なのか、枕と毛布をやるから勝手に寝ろ」


 そこで優しさを見せてはいけない。

 商人はアルメラに枕と毛布を手渡す。捕まえてから一日中ガチャガチャ音をたてているやつが眠くなったと言い出したら、確かに枕と毛布を渡したくなるのも無理はない。

 だが悪いやつが急に優しい行為をするのは基本的に(そいつの)最終回あたりと相場が決まっている。


 つまり、


「ありがとうございます……むにゃむにゃ」


「明日は長旅になるからちゃんと休んでおくんだぞ……まったくこれから売られるのに、のんきな奴だ」


 アルメラが枕と毛布を受け取り、眠りにつく。


 それを確認したコリエルが商人に他愛のない話を始める。


『奴隷商人さんはガンドムントさんより強いですか?』


「バカ言っちゃいけないよ魔導石君。あの最強剣士にかなう奴なんているわけがない」


『奴隷商人さん、逃げることをお勧めします』


 人工知能が汗をかく必要はない。しかし、事態が重大なため、コリエルは人間に例えると冷や汗を滝のように流している状態だ。


「なんでだ?」


『あなたがなにも知らないからです』


 日が沈み、夜が始まる。


◆◆◆


 一方、アルメラを捜索していた与一たちは、今朝のカウンターカツアゲをしたチンピラからアルメラの居場所を突き止め、急いで泥棒商人のもとへ駆けつけている最中だった。


「最初からあのチンピラに聞いておけばよかったな」


「すごく素直でしたね」


「なんでだろうな」


 与一がすっとぼけていると、ついに盗賊が隠れているアジトへと到着した。


 しかし、


「おうおうおう! 誰だお前ら! とまれえええええい」


 いかにもな武装した男たちがアジトを警備している。商人に雇われた傭兵だろう。


 イリスがそっと目配せをする。


「衛兵に知らせましょう」


「夜だな……嫌な予感がするから強行突破する」


 残念ながら与一にその選択肢はない。


「え、どうやって」


 若干、引いているイリス。


「肉体言語で話し合う」


◆◆◆


 アジトの外が騒がしくなり、商人が席を外す。


 そのほんの少しの間にアルメラが目を覚ました。

 寝起きが悪いのか、目の前の鉄のオリが気に入らないのか、非常に目つきがキツイ。無言のプレッシャーがコリエルを押しつぶす。


「……」


『……おはようございます』


 耐えきれずアルメラに話しかけるコリエル。


 アルメラはギロリと机の上のコリエルを睨みつけ、いくつかの質問を投げかける。


「おい、そこの魔導石。ここはどこだ?」


『街の外れです』


「私はなぜ檻に入れられているんだ?」


『これには深い事情があってですね……』


「開けろっ!」


 刺激しないように話しかけるコリエルだが、気性が荒くなったアルメラは話も聞かず、乱暴にオリを蹴りつける。


「食べ物も毛布もやったのにうるさいぞ、寝てないのか?」


 蹴りつける音に驚いた商人が慌ててアルメラを確認しに来た。


 見下したような視線を商人にぶつけるアルメラ。誰が見てもわかる、非常に怒っている表情だ。


「貴様、私になにをした?」


「まだわからんのか。お前は奴隷になるんだよ!」


 いい加減うんざりしたのか商人が声を荒げて事実を告げ、アルメラを絶望の穴に落とす。なお自分の墓穴も光の速さで掘っている模様。


『ああ……』


 どれだけ気を使っても悪い方向へと転がる状況。コリエルが人間なら胃に穴が何個空いているかわからない。


「おい魔導石、オリを開けろ」


 ガンガンとオリに蹴りを入れるアルメラ。


『残念ですがあなたに私を使用する権限は与一から与えられていません』


「オリを蹴るな、うるさい!」


「……いいだろう、身の程を教えてやる」


『お、穏便に行きましょう……』


「それはそこのしれ者に言うんだな」


 コリエルの制止もむなしく、怒ったアルメラがオリに息を吹きかける。


 すると、


「ば、ばかな、金属のオリが砂に……」


 金属がみるみる輝く砂へと変化し、オリが崩れ去っていった、


◆◆◆


「な、なんでこんなつよいんだああああぁ」


 与一に吹き飛ばされ、地面にひれ伏す傭兵。辺りには無数の男たちが倒れている。


「毎日腕立て伏せ百回、上体起こし百回、スクワット百回、ランニング十キロをやれば俺と同じくらい強くなれるぞ」


「くそ、そんなハードなトレーニングをしていたなんて……勝てない……わけだ」


 強さの秘密を確かめた男は気を失う。


 最後の傭兵を倒したことを確認した与一がアルメラがいるアジトの方へ向くと。


「うぎゃあああああ」


 商人の悲鳴と共にアジトが砂のように崩れ去り、跡形も無くなった。


「ちょっと見てくる」


「えっ? この人達どうするんですか?」


 イリスが引き止めるが、与一は走り出した。


◆◆◆


「騒ぐな、うるさい」


 アジトとオリを輝く砂に変えて脱出したアルメラは商人の足首を捕まえて外へと引きずっていた。ばたばたと暴れ、彼女の手から逃れようとする商人の姿は肉食獣に捕まって最後の抵抗をする小動物のようだ。


 尋常ではない状況にコリエルはアルメラをなだめる。


『手荒なことはやめましょう』


「人間が一人消えたところでなにが困る?」


「ひいぃ……お助け」


 商人が助けを求める。

 だがその命乞いが逆に彼女の機嫌を損ねた。


 商人の首をつかむアルメラ。

 徐々に力を強め、商人の顔色が紫色へと変色してく。


「しれ者は、死ね」


「殺すなっ!」


 アルメラの手の力が抜け、息を吹き返す商人。


 良いところで邪魔が入り、次の標的を決める勢いで声の元へ振り向くアルメラ。


「……なんだ昨日の魔導石の持ち主か、魔導石ならそこにあるからさっさと消え失せろ」


 邪魔をした人間が与一だったせいなのか、アルメラは興味を失い、適当にあしらう。


「なに言ってるんだ、お前を助けに来たんだよ」


「なぜだ、なぜ私を助けに来た? 私は貴様にとってなんだ?」


 少し困惑した表情をする銀髪のエルフ。


「この世界で二番目に出会った人だ」


「一番目はだれだ」


「そこのおじさん」


「殺す」


「ひいいい」


「だからやめろって」


「なぜだ?」


 人を殺したらいけないと言ったら、なぜかと聞かれた。与一は虚を突かれた思いがした。


 与一はどう答えたら良いのかわからず適当にそれらしいことを言うことにした。


「同類を殺すのは良くないからと思うからだ」


「私は貴様たちを同類と思ったことはない」


「おれは同じだと思っている」


「くだらん」


 効果は今ひとつのようだ。

 アルメラは再び商人の首をしめ始める。


「うぐぐう」


 みるみる顔が紫になる商人。


『アルメラの腕に照準――』


 超えてはならない一線を超えたのか、コリエルがアルメラの腕をロックする。


「コリエル待て!」


 コリエルの射線を遮る与一。


 与一は破れかぶれになりながら最後の説得を試みることにした。


 最後の説得とは、


「あーあ、せっかく世間知らずのお前にすげえ世界を見せてやろうと思ってたんだけどな~」


「……私は世間知らずではない」


 どうやら夜のアルメラは煽り耐性が低いようだ。


 適当に放った言葉がクリティカルヒットしたことで、与一は戦術骨川を実行することにした。


「一面水の世界を見たことあるか? 砂の世界は? 天に浮かぶ星へ行ったことは? いろん

な果物の香りがする水だってあふれているし、苦しいことなんてなんにもない楽しいことしか無い世界があるんだ。まあ、お前にはこの魅力がわかんないだろうけど(笑)」


 小馬鹿にされる経験が少ないのか、与一のしょうもない自慢に額がピクリと動くアルメラ。


 それを与一は見逃さなかった。


「アハハハ、お前には想像できないだろうな、こういう文化力の高い生活は。俺みたいになんでも経験しちゃうとさ、しょうもないことが、すごく面白く感じられるんだ」


 アルメラの顔がしかめっ面に変わる。こうかはばつぐんだ!


「つらい仕事は機械がやってくれるんだ、まあこの便利さは経験してみないとわからないから言っても意味ないか。ごめんごめん。ま、どんなこともできる世界があるってことさ」


『つらい……』


「……わたしが人を好きなだけ殺せる世界が好きでもか?」


「あるぞ」


「なに?」


「俺はもう何十万人も殺してるし、何度も大戦争を防いでいるし、ボールに入ったモンスターたちと世界を何回も救ったんだ。だからもうひどいことは飽き飽きしてるんだよ」


『与一……それは語弊があります』


 荒唐無稽な話を嘘だと判断したのか、少し余裕を取り戻したアルメラ。


 もとの見下した表情を見せる。


「そんなことを信じると思ったか?」


「だったら嘘だと分かった時に俺を殺せよ。だけど今そいつを殺したらこの話は無しだ」


「到底信じられんな」


 そろそろ頃合いか、与一は最後のひと押しをすることにした。


「コリエル、俺の世界のホログラムを出せ」


『はい』


 コリエルが答えると同時に上空に巨大な立体映像が映し出された。


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