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くっ、殺せ! 奴隷騎士のくっころエルフ


「どうしたんですか?」


 メイド服を身に着けた女性が与一に話しかけてきた。


「イリスさん!」


与一の目の前には、あでやかな栗色の髪と青い瞳を持った少女、イリスが立っていた。長い髪を頭の後ろでまとめて凛とすましている姿は美しい。その美貌のせいなのか、チラチラと男どもがイリスに視線を送っていた。

 昨晩に必殺の毒舌を食らい、その身で内面を知った与一では、なにかをする勇気など湧いてこない。しかし、彼女の性格など知りようもない近くの男からの嫉妬の眼差しが、与一に突き刺さる。


 イリスに出会えたことは不幸中の幸い。ワラにもすがる思いで与一はこれまでのことを話した。


 かくかくしかじか。


 経緯を聞き、イリスの表情は暗くなる。この世界では比較的有名な犯罪だからだろうか。すぐに答えが出てきた。


「それはもしかして……奴隷狩りにあったのでは?」


「マジかよ、なんでそんなことするんだよ。元の世界に帰りたい……」


 朝から堂々と奴隷泥棒。与一の正気度が削られていく。

 がっくりと落ち込んだ与一。見かねたのか、イリスが魅力的な提案をしてきた。


「奴隷市場に行けば手がかりが見つかるかもしれません。行ってみましょう」


「いいの? 仕事は?」


 魅力的な提案だがイリスは仕事中だ。与一はそこまで迷惑をかけて良いのか考え、渋る様子を見せると、


「あなたのためではありません、アルメラさんのためです。心配しないでください。お客様の道案内もサービスの内ですから」


 いつの間にか(アルメラに)デレていた。

 ここまで言われたら甘えるしかない。さらわれたアルメラとコリエルを助けるために、与一はイリスに導かれ、人混みの中へと消えていった。


◆◆◆


 建物にたどり着いた与一。

 付近の建造物と外観は変わらないが、入り口の前に門番が立っているなど、どこか漂う雰囲気が違う。


 与一たちが入り口の前に行くと、立っていた兵士らしき男が門を遮った。


「とまれい! 関係者以外立ち入り禁止だぞ」


「大丈夫、私に任せてください」


「え、どうすんの?」


 するとイリスは与一をすこし離れた場所へ残して、門番と話し始めた。


「んん? あっ……」


 なにか喋っている、なにか渡している……あっ。これはあれだ、黄金色に光るまんじゅうだ。つまりワイロだ。通常なら止めるような状況だが、今は緊急事態。幸いコリエルは見ていないことだし、与一は高度な柔軟性を維持しつつ臨機応変に対応するために目を塞いだ。


「奴隷が足りないから見に来たって言ったら通してくれました」


 イリスが戻ってくると通せんぼをしていた男は満面の笑みで道を譲ってくれた。笑うしかない。


「いやーヨカッタナー」


 ひとつ大人になってしまった与一。

 建造物の中は与一たちが泊まったホテルを十点とするならば、マイナス百万点くらいだろうか。室内は奥へと通路が続いており、その両脇に鉄格子で構成されているオリがいくつも設置されていた。ステレオタイプな監獄のようだ。

 すこし建物の奥へと進むと、ここの主人らしき男がイリスに話しかけてきた。


「イリスじゃないか。奴隷になりに来たのか? 高く売ってやるぞ」


「あなたこそ失業してホテルに来たら、一生イモの皮むきだけをやらせますよ」


 主人にうながされるまま奥へと進む与一たち。


「アホか、俺がトレステーラに雇ってもらえるわけねえだろ」


 奴隷にするぞ宣言に対する返しの暴言が芋の皮むきとか優しすぎるだろう。昨夜の氷結呪文は何だったんだと思った与一だが、強く言い返せない事情があるのか、それとも実は芋の皮むきは奴隷になるよりキツイことなのか。

 与一はこの暴言メイドが意外と優しい人なのではないかと考えていると、薄暗い通路の奥からガシャガシャと金属がこすれ合う音が響いてくる。目を凝らして見ると奥に鎖で繋がれた人影があった。


「こ、こんなところがあったなんて。信じられない」


「外国の方はこんなところにあるのは驚きかもしれません」


 頭ではすでに理解しているが、実際に見るのとはワケが違う。この世界の人間からすれば当たり前のことなのかもしれない。しかし、与一からすれば正気の沙汰ではない。

 

「……」


 鎖で繋がれ自由を奪われた少女が与一を見つめる。

 通路の脇に設置されている鉄格子で隔離されている奴隷の少女。与一は目を合わせてしまった。

 鎖で繋がれた奴隷が虚ろな目で訴えかけている。ここから出してくれと。

 どうすることもできない与一は視線を外し奴隷のオリを後にするしかできなかった。


「アケローっ!」


 胸が締め付けられている与一だったが、通路のさらに奥から響いてくる女性の声が彼の悲しみを吹き飛ばす。というかうるさい。


「奴隷にも希望はあります。買われた先で働いて、自分を買えるだけの給料を稼げば自由になれますから。もちろんいい主人に出会えたらの話ですが」


 慰めるイリスだが、与一は謎の叫び声が気になって仕方がない。

 そしてさらに奥から響いてくる女性の声。


「コロセー!」


「マジでやばいな――ていうかさっきからうるさいなぁ」


「すまない。最近、生きのいいエルフが入ったんだが、コイツがなかなか静かにならなくて困っているんだ」


「アルメラかな? だけどこんな声じゃなかったような……」


「ここにいないならまだ売られてはいなようですね。この辺りの奴隷はみんなここに来ますから」


「適当な人に売り飛ばされていたりしないの?」


「奴隷商は免許がないままやったら重罪だぞ。そんなバカな奴いるわけがない」


 主人に聞いてみると課税のために許可制にしているようだ。

 建物内の奴隷を見終わった与一たち。幸運なことなのかわからないがアルメラを見つけることはなかった。


「アルメラ、いないな」


「不幸中の幸いですね。まだ売りに出されていようなので、取り返しやすいです」


 歩きながらオリを見て回る与一たち。アルメラがいないことはほぼ確定し、一応最後のオリを覗いてみると、そこには、


「来たか……くっ、殺せ!」


「なんだコイツ」


 その美しい外見から捕まった理由が容易にわかる。金髪を後頭部の高い位置でひとつにまとめて垂らした、ポニーテールの女性。透き通った泉の水のように青い瞳からは何者にも屈しないという強い決意と、気高い誇りがうかがえる。白い肌の上から直に手錠をかけられて、すこし赤みがかかっていた。

 耳がとがっており、アルメラとおなじエルフだということが推測できる。

 さきほどの奇声の持ち主だ。


「人間の卑劣な罠にかかってしまったが、まだ負けたわけではない! この先どんな辱めを受けようと、騎士の誇りは決して失ったりしない!」


「嘘をつくな。森で罠を仕掛けていたら勝手に入っていただけだろう。騎士の誇りを守る前に自分の身をちゃんと守れ」


「……」


 答えは沈黙。

 エルフはみんなポンコツなのだろうか。



「人にもよりますけどそんなにひどいことはされないと思いますよ。奴隷は大切な資産なので」


 多少勘違いしているエルフのためにイリスがフォローを入れるが、金髪のエルフは聞く耳を持たない。彼女の中には他の者たちとは違う真実があるようだ。


「ふっ……やはりお前もそちら側の人間ということか。そういって私を油断させて陵辱するつもりだろう!」


「なんだコイツ、めんどくさいな。アルメラがいないならさっさと行こう」


 アルメラという単語が出た瞬間、金髪エルフの表情が一変する。


「っ! アルメラのことを知っているのか!?」


「あれ、会ったことあるの?」


「会ったもなにも同じ村の出身だ」


「マジかよ。あいつ村から追い出されたとか言ってたぞ」


 身を乗り出して聞いてくるエルフの騎士に若干引きながら答える与一。


「アルメラが追い出された? 冗談だろう。何かの間違いだ」


「そうなのか。じゃあ後でアルメラを村に帰すか」


「アルメラは今どこに?」


「分かんない。さらわれちゃった。ごめん」


「な、なんてことを……」


 軽く誘拐された事実を聞かされ、顔が青ざめていく金髪エルフの騎士。エルフはさらわれるのが仕事なのか。


「たのむあの子は特別な子なんだ、助けてあげてくれ!」


「べつに特別な子じゃなくても助けるよ」


 与一は奴隷商の店を後にした。



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