表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/80

8話


 僕は思わず目を開けた。

 すぐ前にミッキーの閉じた瞳。


(え? 僕、キスされてる?)


 突然の事で、一瞬頭が回らなかった。


 ぎゅっ!


 ミッキーが強く抱き締める。


「あっ」


 胸が少し圧迫されて、吐息が漏れた。

 それは苦しさだったのだろうか、それとも愛しい人の想いに反応した為なのか……

 無意識だったが、どうやら後者の様だ。


 ヌルッ……


 僕のちょっとだけ開けた唇の隙間から、柔らかく、温かいものが滑り込んで来た。

 さっきの紅の味が直接舌に絡み付いてくる。

 そのまま、さらに、もっと、絡み付いてくる。

 口内いっぱいにミッキーが入ってきた。

 舌先をくねらせる度、唾液が溜まってきて、溢れそうになる。


「んくっ、んくっ」


 口の端から少し垂らしてから、仕方無しに飲んだ。

 全然汚いなんて思えない。

 いやむしろ嬉しいのかも。

 もう、頭がぽうっとして、どうなってもいいって気持ちになる。


「「はあ、はあ、はあ、はあ」」


 息苦しくて、一旦唇を離す。


 そしてまた、顔を近づけ合う。


「愛、して、ぅ、ょ………ぁ、ぇ……」


 小声で彼はまた囁いて、2人は唇を重ねる。


 くちゅ、くちゅ………


(………ぁ、ぇ……)


 んふ、んふ………


(……あ、え……)


 んくっ、んくっ……


(……やえ……)


「!!」


 気付いてしまった……


「嫌だっ!」


 ドン! 


 僕は思わず、両手でミッキーを突き飛ばした。


「あ! ミ、ミチ!」


「そんな……そんなのって……」


 胸が苦しい。

 苦しくて、苦しくて、堪らない。 

 

 その場に力無く、くずおれてしまう。


「すまない! ごめんよ、ミチ!」


「ミッキー、違う、違うんだ」


 涙が……

 拭っても拭っても、どうにも涙が止まらない。


「ごめん、どうにも抑えられなくて」


 ミッキーが必死に謝って来る。


「いいんだ、キスされたっていいんだよ」


「え?」


「だって、気持ちが乗っちゃったんだろう?

 どうしようもなく、役に入り込めたんだよ」


「そ、そんなんじゃ……」


「僕はどうせ男なんだ。 わかってたさ! でも……」


「ミチ……」


「ミッキーは僕とキスしながら、ともかちゃんを見てた。

 僕は、ともかちゃんの代わりなんだ……」


「違うぞ! そんな」


「ゴメン!」


 僕は居間を飛び出し、靴も履かずに家へ帰った。


 泣きながら走った。


 泣いて泣いて、部屋に駈け上がり、布団に突っ伏して更に泣いた。


 分かってた。

 そう、最初から分かってた。

 この恋は、ただ傷つくだけだって事。


 それでも……

 それでもあんまりだ。


 少し前までの甘い時間が悪夢に変わる。

 僕と唇を重ね、舌を絡ませ合いながら、心だけは別の(ひと)を見詰めていた。


 悲しくて、悔しくて、情けなくて、泣けて、泣けて、胸が苦しい……


 もう無理だ。

 もう立ち直れない。

 もう……


「ミチ! 誤解だ!」


「嫌だ! 来ないでーっ!!」

 

 もう、ミッキーとは……


 二度と目を合わせない。

 

読んでいただいて、ありがとうございます。

次話もよろしくお願いいたします。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ