73話
「ブッタよ、お前程の男が何故天照の邪魔をする」
カズキは先程とは打って変わり、静かな口調で向かい合う黄金の舞闘士に問うてみた。
「それは力だよ、カズキ」
「力?」
「そうだ。
力無き正義は何をもってその正義を示す」
ブッタは変わらず静かに、だが僅かに口角を上げる。
それでもカズキを見据えるその瞳は、揺るがぬ確固たる信念が宿り彼を拒絶している。
「自らの正義を宣うならば、先ずは舞台に立ってみよ!」
ブッタは正義を示すには、自分を倒してでも聖響皇のもとへ行けと言っているのだ。
「わかった……」
カズキは腰を落とし肩幅に開いた足に重心を掛けると、もう一度深く息を吐く。
ブッタも改めて仏像の姿勢に構えを戻す。
静寂の中、観衆の誰かが飲んだ生唾の音が聞こえた気がした。
「さあ、お前の真の力、見せてみるがいい」
人を惹き付ける凛とした通る声でブッタが叫んだ。
十数歩先に対峙している、その男に向かって。
「うおおおおおお!
俺の全てを込めたこの一撃で、必ず貴様を倒す!」
応える様に最後の攻撃を繰り出そうとするカズキ。
周囲の人々は事の推移を、まばたきも忘れて見詰めている。
緊迫した空気の張り裂ける時が来た。
ババッ!!
二人同時に互いの距離を一息で詰めた。
「鳳凰天舞!」
「輪廻輪舞!」
ガカッ!!
「「ぐわああああああーーっっ!」」
激しく衝突したあと、元来た方向に二人ともが弾け飛んだ。
ザシャアアと、地面に叩きつけられる。
「師よ!」
ズタボロに倒れ込むブッタにアンドウトロワが……
「マスター!」
同じくボロボロなカズキにはブラックアンドウトロワが駆け寄り抱きしめた。
「何で……
どうして二人が闘わなくちゃいけないの?」
な、なんて台詞言いながらも。
完全に作品世界に浸っていた自分を、ちょっとだけ恥ずかしいと思ってしまった。
ダイヤ先輩とミッキーが迫真の演技、いや悪ノリで、周りの天馬ファンを魅了している。
さっきまで僕もそのひとり。
だけど舞台側に来てしまうと、少し冷静になれた様だ。
そうだ。先輩とミッキーは激突の瞬間、互いに押し合って飛び、僕らが駆け寄る。
そこまでが先輩のプランだった。
後は臨機応変で、客の反応を見ながら私が締める。との事。
それまでは私に合わせて、流れで動け。との事。
先輩を注意深く見るには、正気に戻れて助かったかも。
「淳……」
「我が師よ……」
ダイヤ先輩の台詞で、観衆の目はブッタ師弟に集まった。
さあ、ここからだ。
周りの反応は?
かなりいい感じ。
やはり黄色い声のざわつきが多い。
そりゃそうだ。
この師弟、師弟+カズキ、師弟+カズキ+ブラックアンドウトロワとかで、三角四角関係ドロドロドロドロの人気やおい設定がある位なので。
「淳……」
「はい、師匠」
見詰め合うふたり。
「愛しているぞ」
「僕もです」
「「「いやあああああああああん!」」」
黄色い歓声が上がる。
さすが先輩。
原作から、やおいの方へ舵を切ったのだ。
今の空気では正解でしょう。
おやおや?
まだ見詰め合い続けるふたり。
顔が近づいて行く。
ええ!?
嘘っ!!
「「「キャアアアアアアアア!」」」
ダイヤ先輩となつきがキスした途端、先程の歓声より倍はある黄色い悲鳴。
こんな大衆の面前で……
だけど、観衆の興奮は絶頂だ。
それはそうなるだろうけど。
でも、いいの? なつき。
なつきも世界に入り込んじゃってて、周りが見えないのかな。
ん?
一番近くのお客さんが僕を見てる。
それを皮切りに興奮したお姉様方がひとり、またひとりとコチラを見て来る。
いつの間にか観衆全員が、僕とミッキーを見詰めて来た。
熱いまなざしで!
えええええええええええええーっ!
無理無理無理無理無理無理無理っ!
「そう言えば部長さんとなつきちゃん男女だもんね」
「そうそう、ふたり最近デキてんだって」
「聞いた聞いた」「ミチちゃんは?」
「だから……彼何じゃない?」
そんな会話を僕らから視線を外さずやっている。
怖い、怖いよう。ホラーだよ。
「ミチ」
ミッキーが囁いてきた。
「俺達も……やろうか」
えええええええええええええーっ!
あ、解説おじさん出てこなかったですね。
うんちく聞かせて欲しかったなあ。
嘘だけど。
読んでいただきまして、ありがとうございます。
次話もどうか、よろしくお願いいたします。




