69話
コミケも後半戦。
そろそろコスプレを本格始動ですかね。
よろしくどうぞ~。
ひと通りみんな休憩を取り終わった。
さあて第2ラウンドの開始! という感じ。
ここで満を持して(?)ミッキーのアラベスク一樹が戦線投入される。
僕となつきも、休憩の為に脱いでいた聖衣をもう一度着直す事にした。
男3人、更衣室で衣装を着けながら、師弟カップルの休憩はどんなイチャイチャだったかなどを問い質す。
まあ、なつきが口を割る訳もないのだが。
話の流れで、ともかちゃんと一緒だった事も話題になる。
「え?」
と、やはり反応はある。
ともかちゃんの去り際、宣戦布告にも似た言葉を話した時、少し暗い表情を見せた。
いくら先輩という人がいても、胸中穏やかとはいかないよね。
とにかく宿敵……じゃない、ライバルも春コミに出店していた。
着替え終わったらその足で、まずは稲高演劇部を見に行こう。
燐光寺やすみのいない状態であの自信。
きっと何かがあるのだろう。
僕らが男子更衣室から出て来たとき、女子更衣室の方からキラキラ光を反射しながら、
「ザシャアアアッ!」
と、自分で言いながらダイヤ先輩が駆けてきた。
かなりお金をかけたであろう、黄金の聖衣に身を包んでいる。
右手のひらをこちらに、左手のひらを上に向けた、奈良の大仏みたいなポーズをとる。
声明の舞闘士ブッタのコスプレだ。
「「「おおおおおおっ!」」」
僕らも含め、辺りの人々が思わず声を漏らす。
このショウミョウのブッタは「黄金の神曲」のひとりで、舞闘士最強にして美形。
作品ではファン投票上位の人気キャラ。
因みに声は大御所、四谷陽二。僕の大好きな声優さんだ。
「ダイヤさんこそ、生き写しじゃないですか」
ミッキーまで興奮気味。
「いやなに、アラベスクをやってくれると分かった以上、ブッタをやらずに何をやる。って話だよ」
先輩が開場ギリギリまでかけて仕上げていたのは、ミッキーのアラベスクとこのブッタの衣装だったんだ。
ミッキーがコスプレをやると決まり、急遽先輩はこの黄金舞闘士を自分のコスプレに決めたのだろう。
その選択は大大大正解だっ!
この2人の舞闘士の闘いは、天馬のベスト戦闘シーンのひとつに揚げられる。
闘いの中から互いを認め合い、命を削った一樹の攻撃にブッタは勝ちを譲る、という名場面。
おかげで裏の方でも、一樹Xブッタ、ブッタX淳、はたまた一樹X淳Xブッタの三角関係等、やおいパワー全開の妄想が繰り広げられているのである。
「だが……」
ダイヤ先輩は難しい顔をして、僕となつきの側にピタリ寄った。
「稲高演劇部の、お前達の友人だった女の子がいただろう?」
ともかちゃんだ。
なつきを見ると目が合った。
何か嫌な予感がする。
「ともかちゃん。燐光寺と一緒にいた子ですね?」
「ああ。
その子が入れ違いで、私より先に更衣室を出て行ったのだが……」
という事は、ともかちゃんもコスプレしてたのか。
「あれは化けたぞ。
燐光寺なんか比べられない位、オーラを纏っていた」
「「ええっ!?」」
「女神の聖衣を装備した志織だったが、神界から降りて来たかの様だった」
前に稲高のコスプレ写真集で、燐光寺がしていた女神様バージョンの志織さんは見たけれど、あれも写真ながらいい出来だった。
コスプレに真摯なダイヤ先輩がそこまで言うのなら、今回は燐光寺のそれ以上なのだろう。
「入口ですれ違っただけであの雰囲気だ、ブースで客を前にすると相当だな」
そうだと思う。
実際僕もコスプレして、人前で何かしらの表現をするのとしないのでは、出て来るパワーみたいのが雲泥の差だ。
植野先輩曰く、この抑揚感みたいのを演劇部の人はテンションって言っているらしい。
このテンションの高さを上手く表現に繋げれば、見ている人達の反応が明らかに変わる。
多分テンションは伝播するんだと思う。
「そこでだ!」
ダイヤ先輩は目を輝かせて僕らを見詰めた。
「私に策がある。
それを平川君と打ち合わせるので、なつきとミチヨ君は稲高の偵察に行って来てくれ」
「はあ、僕も行こうとは思ってたんですけど……」
「師匠、カヨ先輩に相談しました?」
そうなんだよ。
ともかちゃんの事は心配だけど、先輩の暴走はもっと心配。
「いやいや、念のためだよ。
頭のいい平川君の意見を聞きつつ準備だけは怠らず、だ」
「本当ですか?」
「ミッキー、変なアイデアだったら拒否しといて」
不安を抱きつつも、やはり稲高演劇部の様子は気になる。
僕はなつきと一緒にライバルのブースを探しに、会場の人混みの方へと足を向けた。
元ネタの大好きな作品の美形キャラも、声は元ネタの大御所声優と同じです。
僕が昔勉強させていただいた劇団の大先生です。
誰だか分かります?
読んでいただきまして、ありがとうございます。
次話もどうか、よろしくお願いいたします。




