68話
八重洲ともか、平川美紀男、国立満世……
かつての仲良し3人がコミケ会場でバッタリ。
さあ、どうなるのかな~。
「まさか、コミケで平川君と会えるなんて思わなかった」
ともかちゃんはそう言うと、くすっと小さく笑った。
昔はポッチャリ体型だった彼女も、演劇部のレッスンのせいか、はたまた彼氏の影響か……
今では引っ込む所は引っ込み、出っ張る所は出っ張りすぎる程のいいスタイル。
明るい性格も昔のままで、さりげない笑顔がチャーミングだと思う。
話題にされたミッキーは、確かに会場で一番似つかわしくない人物のひとりだとは思う。
しかも稲高生である彼女は、ヤンキー達のトップである学校の彼を知っているのだ。
まあ、髪を黒く戻し、薄いブルーのシャツを小綺麗に着こなしてる姿を見て、即ミッキーと気付ける稲高生も彼女位しかいないとは思うけど。
「ああ、ミチと一緒じゃなきゃ来れないな。
お前は演劇部の連中とか?」
「うん。
少し空いてきたからご飯食べようと思って」
そっか、やっぱり稲高演劇部も出店してるんだ。
後で偵察しに行こう。
「ねえ、ふたりもよね。
久し振りに一緒に食べよ」
「え? ともかちゃん今ひとり?」
「うん!」
ちょ、ちょっとホッとした。
実は内心不安で仕方がなかった。
燐光寺が現れて、ミッキーと一悶着なんて嫌だなあと。
「て言うかさ、ずっとひとりになっちゃったんだけどね」
「「!?」」
「やすみと別れちゃった」
「ええええええ!」
てへへ、って頭を掻くともかちゃん。
びっくりして、チラとミッキーに目をやると丁度こちらを向いた。
驚いた様な苦笑い。
「その辺りも食べながら、ね。
私、ミチちゃんのジャムサンド食べたくて堪んないの」
もう吹っ切れてるのか、おどけて見せているだけなのか。
どちらにせよ、こう陽気だったら気遣う必要もないとは思う。
友達として見れば文句なく大好きな女の子だ。
一緒に食べるのも吝かではない。
「残念、ともかちゃんの分、無いんだけど」
「いいじゃん!
私のマンハッタンあげるから~」
「しょうがないなあ~」
「あははは、相変わらずマンハッタンが好きだなあ、ヤエ」
僕らはともかちゃんの菓子パンとサンドイッチを分け合いながら、数年前に戻ったようにお喋りした。
あれこれ話す中、気を遣って聞くまいと思ったのに、ともかちゃんの方から教えてくれる。
燐光寺との別れ話だ。
色々あるが、一番は演技のスタンスやスタイルの違いが原因らしい。
「あいつ演劇部辞めちゃったんで、コミケに来てもいないのよ」
その事実を前に、僕はホッとしていいのか、残念に思うべきか。
正直、相手は大幅な戦力ダウンだろう。
でも、僕らは打倒稲月高校演劇部、いや、打倒燐光寺を目標にしていたのだ。
燐光寺のいない稲高に勝っても意味が無いのでは……
「ま、私のコスプレであいつ以上に、観衆を魅了してやるんだから!」
ともかちゃんは、しかし気合十分だった。
「ミチちゃんとなつきちゃんには負けないからね」
「何おう。負けないからな」
「おう、負けないぞう」
「うふふふ」
そこでともかちゃんは思い出した様に回りを見て、
「そういえば、なつきちゃんは一緒じゃないんだね」
とさりげないフリして聞いてきた。
幼馴染みのなつきの事は、ともかちゃんも何かしら特別な感情を抱いている。
前に八重洲邸前で少し揉めた時、そう感じる節があった。
それが恋慕の情だったのかは分からないけど。
「江藤は俺らの後に休むんだと。
あっ、何でもたっぷりイチャイチャするらしい」
「え?」
「なつきに彼女が出来たんだよ」
言うつもりはなかったんだけど、隠している訳でもない。
教えてちょっと微笑んだ。
「そっか……てっきり私……」
ともかちゃんは淋しい目を僕に向けて、それから軽く首を振った。
「じゃあ、私戻るね。
サンドイッチありがとう、美味しかったわ」
「僕も久し振りで嬉しかったよ」
「マンハッタンが?」
「ヤエじゃあるまいし」
「「「あははははは」」」
小6には当たり前の光景も、流れた刻は貴重な景色に変えてしまう。
だけど今感じる感情は、時間で変わってほしくはない。
あの頃の友情は、この瞬間も同じであり続けてほしい。
「ミチちゃん」
「ん?」
ともかちゃんは階段の方へ歩きかけたが振り返り、一瞬真面目な表情になった。
「稲高演劇部は、絶対勝つよ」
そう言ってまたニッコリ笑顔を向けてから……
八重洲ともかは去って行った。
作中のマンハッタン。
これはリョーユーパンという九州のパンメーカーの菓子パンです。
もう40年以上あるパンじゃないでしょうか。
チョコ掛けドーナツみたいなのですが他にない食感で、大好きな菓子パンです。
しっとりモッチリ部分もあり、染みたチョコの部分はカリカリで、美味しいんですよ。
読んでいただきまして、ありがとうございます。
次話もどうか、よろしくお願いいたします。




