表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
72/80

68話

八重洲ともか、平川美紀男、国立満世……

かつての仲良し3人がコミケ会場でバッタリ。

さあ、どうなるのかな~。



「まさか、コミケで平川君と会えるなんて思わなかった」


 ともかちゃんはそう言うと、くすっと小さく笑った。


 昔はポッチャリ体型だった彼女も、演劇部のレッスンのせいか、はたまた彼氏の影響か……

 今では引っ込む所は引っ込み、出っ張る所は出っ張りすぎる程のいいスタイル。

 明るい性格も昔のままで、さりげない笑顔がチャーミングだと思う。


 話題にされたミッキーは、確かに会場で一番似つかわしくない人物のひとりだとは思う。

 しかも稲高生である彼女は、ヤンキー達のトップである学校の彼を知っているのだ。

 まあ、髪を黒く戻し、薄いブルーのシャツを小綺麗に着こなしてる姿を見て、即ミッキーと気付ける稲高生も彼女位しかいないとは思うけど。


「ああ、ミチと一緒じゃなきゃ来れないな。

 お前は演劇部の連中とか?」


「うん。

 少しいてきたからご飯食べようと思って」


 そっか、やっぱり稲高演劇部も出店してるんだ。

 後で偵察しに行こう。


「ねえ、ふたりもよね。

 久し振りに一緒に食べよ」


「え? ともかちゃん今ひとり?」


「うん!」


 ちょ、ちょっとホッとした。

 実は内心不安で仕方がなかった。

 燐光寺が現れて、ミッキーと一悶着なんて嫌だなあと。


「て言うかさ、ずっとひとりになっちゃったんだけどね」


「「!?」」


「やすみと別れちゃった」


「ええええええ!」


 てへへ、って頭を掻くともかちゃん。

 びっくりして、チラとミッキーに目をやると丁度こちらを向いた。

 驚いた様な苦笑い。


「その辺りも食べながら、ね。

 私、ミチちゃんのジャムサンド食べたくて堪んないの」


 もう吹っ切れてるのか、おどけて見せているだけなのか。

 どちらにせよ、こう陽気だったら気遣う必要もないとは思う。

 友達として見れば文句なく大好きな女の子だ。

 一緒に食べるのもやぶさかではない。


「残念、ともかちゃんの分、無いんだけど」


「いいじゃん!

 私のマンハッタンあげるから~」


「しょうがないなあ~」

「あははは、相変わらずマンハッタンが好きだなあ、ヤエ」


 僕らはともかちゃんの菓子パンとサンドイッチを分け合いながら、数年前に戻ったようにお喋りした。

 あれこれ話す中、気を遣って聞くまいと思ったのに、ともかちゃんの方から教えてくれる。

 燐光寺との別れ話だ。

 色々あるが、一番は演技のスタンスやスタイルの違いが原因らしい。


「あいつ演劇部辞めちゃったんで、コミケに来てもいないのよ」


 その事実を前に、僕はホッとしていいのか、残念に思うべきか。

 正直、相手は大幅な戦力ダウンだろう。

 でも、僕らは打倒稲月高校演劇部、いや、打倒燐光寺を目標にしていたのだ。

 燐光寺のいない稲高に勝っても意味が無いのでは……


「ま、私のコスプレであいつ以上に、観衆を魅了してやるんだから!」


 ともかちゃんは、しかし気合十分だった。

  

「ミチちゃんとなつきちゃんには負けないからね」


「何おう。負けないからな」

「おう、負けないぞう」


「うふふふ」


 そこでともかちゃんは思い出した様に回りを見て、


「そういえば、なつきちゃんは一緒じゃないんだね」


 とさりげないフリして聞いてきた。


 幼馴染みのなつきの事は、ともかちゃんも何かしら特別な感情を抱いている。

 前に八重洲邸前で少し揉めた時、そう感じるふしがあった。

 それが恋慕の情だったのかは分からないけど。


「江藤は俺らの後に休むんだと。

 あっ、何でもたっぷりイチャイチャするらしい」


「え?」


「なつきに彼女が出来たんだよ」


 言うつもりはなかったんだけど、隠している訳でもない。

 教えてちょっと微笑んだ。


「そっか……てっきり私……」


 ともかちゃんは淋しい目を僕に向けて、それから軽く首を振った。


「じゃあ、私戻るね。

 サンドイッチありがとう、美味しかったわ」


「僕も久し振りで嬉しかったよ」


「マンハッタンが?」


「ヤエじゃあるまいし」


「「「あははははは」」」 


 小6には当たり前の光景も、流れた刻は貴重な景色に変えてしまう。

 だけど今感じる感情は、時間で変わってほしくはない。

 あの頃の友情は、この瞬間も同じであり続けてほしい。


「ミチちゃん」


「ん?」


 ともかちゃんは階段の方へ歩きかけたが振り返り、一瞬真面目な表情になった。


「稲高演劇部は、絶対勝つよ」


 そう言ってまたニッコリ笑顔を向けてから……

 八重洲ともかは去って行った。

作中のマンハッタン。

これはリョーユーパンという九州のパンメーカーの菓子パンです。

もう40年以上あるパンじゃないでしょうか。

チョコ掛けドーナツみたいなのですが他にない食感で、大好きな菓子パンです。

しっとりモッチリ部分もあり、染みたチョコの部分はカリカリで、美味しいんですよ。


読んでいただきまして、ありがとうございます。

次話もどうか、よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ