64話
婚約記者会見のつもりででもいるのでしょうか。
いつもお気楽ダイヤ先輩。
みんなの反応は?
よろしくどうぞ~。
「婚約!?」
一瞬、言葉の意味が僕の中から無くなった。
言ってる事は分かる。
ただ理解できない。
ガタン!
椅子の倒れる音が教室に響いた。
物凄い勢いで、カヨ先輩がダイヤ先輩に向かっていく。
「ダイヤちゃん!」
叫びながらカヨ先輩はダイヤ先輩の首を絞め、前後にガクガク揺さぶった。
「何をした! お前は何をしたあ!」
「うぐっ、ガヨぢゃん、ぐるぢい……」
「脅迫か! 脅迫したんだな!」
「っごかい、でふ……」
ガクガクガクガク
カヨ先輩はシェイクする力を弛めない。
慌てて植野先輩となつきが止めに入る。
「先輩、違います!
僕は脅迫なんてされてませんっ」
「カヨちゃん、落ち着いて」
小さい体のどこにそんな力があるんだろう。
制止を受けてもガクガクガクガクゆすっている。
「尊い美少年を! 尊い美少年を!」
「ガヨぢゃん、ぢんぢゃう……」
「カヨちゃん、落ち着いて~」
「先輩、誤解ですからっ」
「いいえ!
きっと、なつき君が告白した真相をネタに、交際ををっ」
「「中山田さん!」」
ミッキーとさとじ君も加わろうかと近づいた。
僕は混乱からまだ動けないでいる。
するとなつきが大きな声を上げた。
「告白はしましたっ!
僕は師匠、明美さんを愛してますって!」
「「「!!」」」
空気の流れが、いや、時間が止まった。
みんなの動きが。
カヨ先輩の手も。
僕はさらに心臓が止まりそうなんですけど……
「僕はずっと師匠を、明美さんを好きだったんです。
その事にやっと気づいたんです」
そ、そんな……
なつき……
「ミチヨ」
なつきがゆっくりと僕の方を向く。
目が、なつきの目が悲しみに満ちている。
そしてひとこと。
「ごめん」
そっか。
そうだよな。
調子に乗っていた。
僕が選ぶ側だと勘違いしてた。
こんな優柔不断な奴、見限られて当然だ。
なつきは頬を指で掻きながら、照れ臭いといった顔になる。
………え?
「放課後ちゃんと話すって言ったのは、この事なんだ」
すごく照れ臭そうな顔になる。
えええ?
「昼間は、その、上手く話せなくて」
ごめんって、避けてた事?
このタイミングで?
「僕は友としてミチヨが大好きだ。
これからも親友として側にいたい」
えええええ?
「嫌、かな?」
う、ううう。
嫌じゃない、けど、何か複雑。
「そうだよな。
お前ら、親友って前から言ってたもんな」
あっははは、とミッキーは高笑い。
まあ、そうですよ。
現状は何一つ変わっていませんよ、僕となつきの関係は。
そう、だね……
なつきが望むなら。
「嫌な訳ないよ。
これからもずっと親友だよ」
うううううう、胸がいたい。
「じゃあ、ホントに……好きなの?
いいの? ダイヤちゃんだよ?」
カヨ先輩がやっと冷静に話してきた。
「もちろんです。
台矢明美さんがいいんです!」
なつきがそう答えると、カヨ先輩はほどいた手をダイヤ先輩の背に回した。
そして胸に顔を埋めて泣き出した。
「良かった。
ダイヤちゃん、良かったよう」
「カヨちゃん……」
「幸せになってね。絶対だよ」
「カヨちゃん、ダイヤちゃん」
植野先輩もふたりに抱きつく。
僕の胸の痛みも変化して、少しずつ温かさが混ざっていく。
じんわりと優しく……
そうだね。
これで良かったんだね。
チラと横を見るとミッキーも微笑みかけてきた。
もう。
見透かされてる様で腹が立つ。
分かってる。
祝福するよ。心から。
先輩方はひとしきり泣いた後、互いに顔を見合わせる。
本物の親友3人はニッコリ笑顔を交わす。
そしてダイヤ先輩は頭を掻きながら一言。
「まあ、なつきが私を越える事が出来たらという制限付きの婚約だがな」
「「「!!」」」
全員が息を飲んだ。
また時間が止まってしまった。
「このおバカーーーーーっ!
何贅沢言ってんのーーっ!」
カヨ先輩はまた首を絞めて、ガクガクとダイヤ先輩を揺さぶった。
お互い腹の中ではどう思っているのか。
分かってて、敢えて黙るのも男女の関係ではままあります。
んん?
男女?
読んでいただきまして、ありがとうございます。
次話もどうか、よろしくお願いいたします。




